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異世界特戦群  作者: 猿渡銀部
プロローグ 戦場の果てに
2/29

第2話 見知らぬ森

第2話の改稿・推敲版になります。


湿った土の匂いで、悠真は目を覚ました。

俯せに倒れたまま、まぶただけをわずかに開く。視界は低い。

土と、一面に広がる草木。


呼吸を殺す。


――静かすぎる。


銃声も、怒号も、無線のノイズもない。耳鳴りのような静寂だけが、辺りを包んでいる。


右、足音はない。左、気配なし。

一瞬だけ視線を滑らせ、深く息を吸う。


肺に入り込む空気が重い。湿気を含み、舌に土の味が残る。


悠真の頭の中で疑問が浮かぶ。自分は戦場にいたはず…だがその疑問に答えが出ない。


周囲に危険がない事を確認すると悠真は素早く起き上がり、膝立ち姿勢になる。


森では、移動する以外は周囲の草木に視線を合わせ、敵に発見されるリスクを減らす。


視線が迷わない。上、横、背後、足元――順番に確認。異常なし。


高く伸びた木々。光を遮る枝葉。見覚えのない森。


右手にはライフル。腰にはナイフ。予備弾倉も残っている。通信機は沈黙。


「……ここは、どこだ」

呟きながらも思考は止まらない。状況を確認する。

装備は確認した、行動可能。


問題は自分が置かれている環境。


そのとき、背後の茂みから草の擦れる音。

悠真は咄嗟に振り向きライフルを向ける。


片膝をつき、背を低くした身体がわずかに沈む。

肩の力を抜き。ただ撃てる姿勢に入るだけ。


照準の先、出てきたのは狼に似た獣。


だが違う。体長2メートル近く、体毛は銀色で覆われ。

脚の筋肉が異常に発達している、今までに見た事をがない獣だ。


赤黒い眼でこちらを睨みながら低く唸り声を上げている。


悠真は息を深く吸い、ゆっくりと引き金を絞りながら相手を観察する。


相手は敵対的。


距離、12メートル


――対応可能。


息を整え、引き金を絞り切る。

そして、発砲。一発。


弾丸は獣の額を正確に貫き、獣は崩れる。


悠真は銃口を倒れた獣に向けたまま動かない。

そのまま目視で獣の状況を確認する。


ガサっと左右の草木の陰が揺れる。


先程と同種の獣が左右から現れる。


――二、三

囲む位置


「……そう来るか…」


小さく呟く、悠真に焦りはない。ライフルで削るか、ナイフで処理するか。判断は一瞬だ。

ライフルを背へ回し、胸に装備しているナイフを抜く。

弾は有限だ、今は使わない。



二体目

真正面から飛び込んでくる。速い。だが直線的。

悠真は一歩だけ体を横に逸らす。


獣の牙が空を切る。そのまま懐に入る。

頸動脈にナイフの刃を滑らせる、力は入れない。

ただ正確に獣の首を掻っ切る。

獣の身体から血が噴き出す。


悠真がナイフに付着した血を軽く振る。刃先についた血を地面に散らせる。



三体目

距離を取る。観察している。

獣にしては上等だ。

先程の二体の仲間の果てを見て学習しているのだろう。

不用意に飛びかかって来ない。


悠真から動く。

地面の砂を、わざと音を立てて蹴り、相手の注意を逸らす。


獣の目線が一瞬、悠真の足に逸れる。

その瞬間、悠真は大きく前に一歩飛ぶ。

一瞬で相手との間合いを詰める。


間合いの内側、狙うは首筋。


だが、獣の反応速度も速い。

悠真が間合いを詰めると、喉元を狙い口を大きくあける。


悠真は即座に狙いを変える。


獣の眼窩がんかに目掛けてナイフを突き刺す。

腕のリーチが長い分、悠真が優勢。


獣は大きく悲鳴を上げて顔を振る。


そのまま潰した右眼、死角から一気に獣の背に回り込む。

獣の首を左腕で完全に絞め上げ、首筋、胸と交互に複数回刺す。


赤色の鮮血が地面に噴き出し、やがて獣は動きを鈍らせる。


悠真は左腕を緩め、一歩下がる。


静寂。


戦闘時間――六十秒未満。


息は乱れていない。心拍も許容範囲。ただ環境だけが異常だ。


突如、視界の前に文字が浮かび、声が聞こえてくる。


【戦闘能力を確認】


「……は?」

初めて、わずかに眉が動く。


【適応個体と認定】

【スキル《言語理解 》を付与】

【スキル《戦術解析 》を付与】

【スキル《―――― 》を付与】


戦場で聞いた声。自動音声のような無機質な声。


3つ目の文字が見えない、ノイズのように掠れて聞こえない。

「……スキル?」


理解は不能、だが敵ではない。

悠真はそう判断すると、一度だけ目を閉じ大きく、深呼吸をする。


「……よし」


状況は不明だが動ける。

ナイフを収め、ライフルに持ち替える。

「まずは、生き残る」


そういうと、悠真は倒した獣たちを尻目に森を移動していく。


――――――――


日が傾き始めたころ、悠真は血の匂いを嗅ぎ取った。


風上へ向けて進み地面に落ちた血痕を見つける。

乾ききっていない。

間隔は不規則で移動しながら流している。


枝を踏まないように足を運び、大きな横倒れの大木を越え、開けた場所へ出る。


そこに巨大な黒狼がいた。


全長は三メートル近い。

漆黒の毛並み、金色の瞳。


腹部に深い裂傷。血が土を黒く濡らしている。

致命には至っていない。


周囲に争った痕跡はない。血の跡も、ここで途切れている。


その目には死にかけの獣にはない鋭さが宿っていた。


悠真はライフルを構え、銃口を黒狼の頭部へ向ける。だが撃たない。


「……もったいない」


こんな場所で無駄撃ちはしたくない。

悠真はナイフを逆手に持ち、ゆっくりと距離を詰めた。


その瞬間、黒狼が跳ね起きる。大口を開け、悠真を威嚇する。


お互い睨み合い、静寂が周囲を包む

微動だにしない。


黒狼の金色を帯びた瞳が、まっすぐ悠真を見ていた。


数秒の沈黙。やがて黒狼は牙を引いた。


悠真もナイフを下ろす。

「いい判断だ」


そう言うと悠真は黒狼にゆっくり近づき、しゃがみ込む。

黒狼の傷口を確認する。


致命傷ではないが深い。持っていた包帯を裂き、簡易的に止血を施す。

助ける義理はないが、放っても置けない。


「大丈夫、危害を加えるつもりはない」


そう優しく言うと悠真は黒狼の鼻に手の甲を差し出す。


黒狼は低くうなったが、差し出された手の匂いを嗅ぐ。

噛みついてはこなかった。


黒狼の目を間近で見たとき、悠真は妙な既視感を覚えた。


――昔、見た目に似ている。

幼い頃、祖父の家に預けられていたことがある。山に囲まれた田舎だった。


そこで出会った一匹の犬。狼のように大きく、子どもだった自分を見下ろすほどの体格。


初めて見たときは、本気で殺されると思った。


だが――違った。


あの犬は、無闇に牙を剥くことはなかった。

初めて近づいた日、低く唸りながらも噛みついてはこなかった。


しばらく距離を保ったまま、じっとこちらを見ていた。


何日か通ううちに、少しずつ距離は縮まった。

ある日、祖父にもらった林檎を差し出した。

警戒しながらも匂いを嗅ぎ、やがてゆっくりとかじった。


次に会ったとき、あの犬は自分から近づいてきた。

無骨な鼻先で手を押し、もっと寄越せとでも言うように。

気づけば、隣にいるのが当たり前になっていた。


山を駆けた。

転べば待ち、遅れれば振り返る。

言葉なんてなくても通じた。

――家族だと、そう思っていた。


だが、その日。

山で遊んでいたときだった。

風向きが変わった瞬間、あの犬が低く唸った。

次の瞬間、茂みが弾けるように揺れ、巨大な影が飛び出してきた。


野生の熊だった。


何もできなかった。

足が動かない。声も出ない。


その間に、あの犬が前に出た。

自分と熊の間に、迷いなく割り込んだ。


牙を剥き、吠え、突っ込む。

時間を稼ぐためだけの動きだった。

逃げろと、背中で叫んでいた。

悠真は転びながらも走った。 


振り返ったとき、見えたのは――


血に染まった黒い毛並みと、それでも倒れずに立ち続ける姿だった。

最後には、こちらを見ていた。


――守り切ったとでも言うように。


それが、最後だった。 


あの犬は、守るためにそこにいた。

自分の大切なものを。


元々、悠真は動物が好きだ。

だからこそ分かる。


今の黒狼の目も、あの時と同じだ。

恐怖でも、狂気でもない。


――まだ折れていないだけだ。


悠真は小さく息を吐く。

「……死にたくない目だな」


包帯を締めながら悠真は、淡々と呟いた。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

この作品や題材が面白い、つづきが読みたいと思ってくださればブックマークや率直な評価をお願いします。

励みにさせて頂きます。

指摘に関しても自分の作品に反映させて頂きます。

後書きまでお付き合い頂きありがとうございました。

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