第16話 神獣の刃
玉座の間の床へ片膝をついたフェンが、胸の前で両手を組んだ。
彼女の金色の瞳が、まっすぐ悠真を射抜く。
その瞳の奥にあるのは、忠誠でも服従でもなかった。もっと強い、意志そのものだった。
「主、聞いてください!」
偽王女の魔術が再び膨れ上がる中、フェンは声を張る。
「正式な契約を拒まれても、私は構いません!私は、あなたを守りたい!」
悠真が顔を上げる。
フェンは自分の胸へ手を当て、目を閉じた。
瞬間、その身体から白銀と黒の光が噴き上がる。神獣としての力の片鱗が、少女の姿の奥から溢れ出す。
「我が牙、我が骨、我が魂の一部を――刃と成せ」
空気が震えた。
光が凝縮し、一本の刀が悠真の前に現れる。
鞘は黒。
柄巻きは深い藍。
刃は薄く湾曲しながら、白銀の光を内側に孕んでいる。見た目は日本刀に近い。だが、ただの刀ではないと一目でわかった。玉座の間を満たす魔力そのものへ、刃が反応して微かに鳴いている。
フェンが苦しげに息を吐く。
「それは……私の力を宿した妖刀。魔を断ち、術を裂く刃です」
偽王女の顔から、初めて余裕が消えた。
「神獣の力を、武器化したですって……!?」
悠真は右手で黒いライフルを解き、左手で妖刀の柄を握った。
ずしりとした重みはない。
むしろ驚くほど馴染む。掌が触れた瞬間、この刃が“斬るべきもの”を自然に理解させてくる。
魔力の流れ。
障壁の継ぎ目。
術式の核。
全部が、見える。
悠真はゆっくり立ち上がった。
脇腹の痛みも、頭を削る疲労も消えていない。だが、視界だけは逆にはっきりと研ぎ澄まされていく。
偽王女が叫ぶ。
「止まりなさい!」
同時に、重ねられた障壁と魔弾が一斉に放たれる。
悠真は一歩、踏み込んだ。
床を蹴る足音は静かだった。
上体をわずかに沈め、右肩を開く。妖刀を鞘ごと腰へ引きつける。居合の構え。幼いころ、何度も叩き込まれた所作が、自然と身体に戻る。
「……斬る」
抜いた。
白銀の刃が、弧を描く。
魔弾が、真っ二つに裂ける。
重なっていた障壁もまた、紙を切るように割れた。切断面から魔力の火花が散り、偽王女の目の前で術式そのものが崩壊する。
「ありえない……!」
悠真は止まらない。
抜き放った勢いのまま二歩、三歩と詰める。偽王女が咄嗟に石壁を立ち上げる。妖刀がそれを袈裟に斬る。続けて炎の奔流。逆袈裟で断つ。氷槍が何十本と迫る。水平に一閃し、まとめて砕く。
魔術が、切り裂かれていく。
偽王女の表情が初めて崩れた。
「この……!」
彼女が後退する。
その動きに合わせて、リゼルが叫びながら踏み込んだ。
「逃がすか!」
渾身の斬撃が偽王女の肩口を裂く。
鮮血が噴いた。
赤い。
間違いなく、人の血だった。
偽王女は苦痛に顔を歪めながらも、反射的に手を振るう。衝撃波がリゼルを吹き飛ばす。
フェンも横から飛び込む。爪が偽王女の腕を裂き、彼女の魔術の制御を乱す。
悠真は正面へ滑り込み、妖刀を下段に構えた。
ここで終わらせる。




