第15話 魔術領域
伏兵の最後の一団が倒れたとき、玉座の間には血と焦げた匂いが濃く立ち込めていた。
悠真は荒い息を吐きながら、黒い機関銃を拳銃へ戻す。
重かった。視界が揺れる。集中し続けるだけで、こめかみの奥が軋んでいた。
リゼルも肩で息をし、剣先を下げている。
フェンも軽く前傾しながら、偽王女を睨んでいた。
三人とも消耗している。
だが、偽王女だけは涼しい顔で玉座の前に立っていた。
「思ったよりやるのね、見直したわ」
ドレスの裾をつまみ、優雅に一礼するような仕草。
その所作の一つ一つが、本物の王女を真似て作られているのだと思うと、不快さだけが増した。
「でも、それで終わり?」
偽王女が両手を胸の前で組む。
細い指先が絡み合った瞬間、玉座の間全体に青白い魔法陣が幾重にも展開した。
「……主!」
フェンが叫ぶ。
直後、床が爆ぜた。
石畳が槍のように突き上がり、悠真たちの足元を襲う。悠真は咄嗟に後ろへ跳ぶ。
着地と同時に左へ転がり、追撃で放たれた氷の槍を紙一重でかわした。
頬を冷気が裂き、髪が数本宙に舞う。
リゼルは剣で石槍を受けたが、勢いを殺しきれず壁へ叩きつけられる。
「ぐっ……!」
フェンが駆け寄ろうとした瞬間、偽王女の指先がふっと動いた。
透明な衝撃波が横薙ぎに走り、フェンの小柄な身体を吹き飛ばす。彼女は空中で身を捻ったものの、床を転がって柱へぶつかった。
「フェン!」
悠真が拳銃を構える。
だが撃つより早く、偽王女の周囲に幾何学的な障壁が幾重にも浮かぶ。
撃った黒弾は、障壁に触れた瞬間、甲高い音を立てて弾かれた。
「無駄よ」
偽王女の微笑が深くなる。
「私は王女の器をもとに造られた。女神の力に触れるための器としてね。そこらの魔術師と同じだと思わないで」
床に新たな魔法陣が広がる。
炎、氷、風。複数属性の魔力が一斉にうねり、玉座の間そのものが偽王女の支配下に置かれていく。
悠真は歯を食いしばった。
拳銃でもライフルでも、障壁を抜けない。
機関銃で押し切るには、こちらの消耗が先に限界を迎える。
「どうしたの、異邦人」
偽王女の声が遠く響く。
「世界の均衡を正すのでしょう? そんな顔で?」
直後、無数の光槍が宙に生まれ、雨のように降り注いだ。
悠真はリゼルの前へ滑り込み、黒いライフルを投影する。
銃床を脇へ押しつけ、無理やり連射して光槍を撃ち落とす。だが、落としきれない。
二本、三本と身体を掠め、肩と脇腹に焼けるような痛みが走る。
膝が折れそうになる。
「主!」
フェンの声が、鋭く響いた。




