18.ニコラエヴナ・ロズール家
対魔局の輸送車は、帝都の中でもさらに冷たく静かな区画を抜けていった。
透は車窓の外を見ながら、首元の銀色の首輪へ何度も意識を引き戻されていた。表面は滑らかなのに、わずかな段差が鱗みたいに連なっていて、動くたびに皮膚へ異物感を残す。監視役の男は向かいの席に無言で座り、膝の上に端末を置いたまま、こちらへ余計な視線すら寄越さない。その無関心が、かえって対魔局の管理の徹底ぶりを思わせて、透の肩を強張らせた。
隣の皐月は、最初から最後まで窓の外だけを見ていた。白いコートではなく、対魔局が用意した地味な外套を羽織っているせいで、かえってその横顔の白さが際立っている。家へ戻ることになるのに、その目には懐かしむ気配も、嫌がる気配も、どちらも薄い。ただ、これから立ち会うことになるものの輪郭を、すでに頭の中で描き終えているような静けさだけがあった。
ニコラエヴナ家の屋敷は、帝都の中心に近づくほど洗練されていく景観の中でも、ひときわ隔絶された気配を放っていた。
高い外壁。整えられた植え込み。門前へ至る石畳には、雪すら踏み荒らされた形跡がほとんどない。門扉の前にはすでに人影が並んでいて、輸送車が止まるより早く、こちらを迎えるための布陣が整っていることが透にも分かった。対魔局の車が門前へ滑り込んだとき、待ち受ける側の空気は、歓迎よりも儀式に近い張りつめ方をしていた。
先に降りた監視役が、屋敷の門前に控えていた者たちへ簡潔に身分を示し、透と皐月へ下車を促した。
透が車外へ足を下ろすと、冷たい空気が頬へ触れた。辺居の寒さとは違う。湿った埃や古い配管の匂いはなく、石畳も植え込みも、まるで外気すら管理されているみたいに整っている。それなのに、吸い込んだ空気は妙によそよそしく、透は思わず肩へ力を入れた。
門の前には、壮年の侍女が立っていた。
黒と白を基調とした服は皺ひとつなく、手袋を嵌めた両手は腹の前で正確に重ねられている。顔立ちは柔らかいが、目元だけが硬く、皐月へ向ける視線にも、透へ向ける視線にも、余分な揺れがなかった。侍女は一礼し、まず監視役へ、それから皐月へと順に頭を下げた。
「対魔局よりご連絡は頂戴しております。本日は書庫棟へのご案内を承っておりますので、どうぞこちらへお進みくださいませ」
言葉は丁寧だったが、そこに帰宅を迎える温度はなかった。
その少し後ろに、皐月とよく似た骨格を持つ男が立っていた。透は最初、親族だろうかと思ったが、すぐに兄なのだと分かった。目元や鼻筋の線が皐月と似ている。けれど、纏っている空気はまるで違った。皐月がどれほど冷静に振る舞っていても、どこか観察者として世界を面白がる余地を残しているのに対し、その男は最初から余地そのものを持たないように見えた。背筋を伸ばし、手を後ろで組み、妹を見る視線は、親しい者へ向けるものというより、処分が決まった書類の内容を確認するものに近かった。
皐月は一歩前へ出た。
けれど、何も言わなかった。兄もまた、妹の帰還を喜ぶ素振りは見せない。しばらくのあいだ、二人の間には奇妙な沈黙があった。久しぶりに会う兄妹なら、そこに何かしらの言葉があってもいいはずだった。責めるでも、怒るでも、無事を問うでも、せめて名前を呼ぶだけでもいい。けれど、そのどれもないまま、侍女の背後に控えた者たちは、あらかじめ決められた式次第を崩さないためだけにそこへ立っているようだった。
張りつめた空気をさらに冷たくしたのは、少し遅れて現れた男だった。
年齢は皐月の父にあたる頃合いだろうか。歩くたび、磨かれた石畳に靴音だけが不必要なほど明瞭に響く。透は顔を見た瞬間、皐月の口元や目の造りが誰に似ていたのかを理解した。
「お父様」と皐月が呟く。
その男性――皐月の父親は娘の前で立ち止まった。
皐月は軽く顎を上げ、父を見返す。透は横からその横顔を見ていた。いつもの皐月と同じ顔に見える。
「対魔局の要請である以上、今回は書庫への立ち入りを許可する」
父は余計な前置きを一切しなかった。
その言葉だけを切り出せば、冷たいながらも理性的な対応に聞こえた。だが、父はそこで終わらせなかった。懐から折り畳まれた書面を取り出すわけでもなく、誰かへ見せるための仕草もなく、ただ既に決定された事柄を確認する声で続けた。
「ただし、許可するのは本日の対魔局同行下における書庫棟への立ち入りに限る。書庫以外の棟への入室、家人との私的接触、保管物への無断接触は認めない。必要な資料がある場合は、対魔局監視役および書庫管理者の確認を経ること」
皐月は何も言わなかった。
透はその横で、息を詰める。言い方が、あまりにも他人行儀で面食らってしまう。家に戻ってきた娘へ向ける言葉ではなく、厄介な訪問者へ提示する条件みたいだった。
父はさらに告げた。
「また、今回の件をもって、行政上の手続きを含め、お前とニコラエヴナ家との家族関係は解消される。既に必要書類は整えてある。以後、お前は当家の者ではなく、その名義、財産、保護、身分、紹介、保証のいずれも用いることはできない」
ひどく平坦な声だった。
怒鳴られるよりも、ずっと冷たい。責め立てられるよりも、ずっと深く切る。そこには失望をぶつける熱も、裏切られた者の震えもない。ただ、既に切り終えたものを、本人の前で読み上げているだけだった。
皐月の兄が、父の一歩後ろで口を開いた。
「父の判断に、私から異議はない」
その声もまた静かだった。
「お前が学術院で行ったこと、白枝会に関わったこと、対魔局の管理対象となったこと、そのいずれについても、当家は今後一切関知しない。お前が何を成し、何を失敗し、どこで裁かれるとしても、それは当家の問題ではなくなる」
透は思わず兄を睨みかけた。
だが、皐月は動かなかった。睨みもしない。言い返しもしない。ただ、父と兄の言葉を、まるで論文を聞くように受け止めている。そう見えた。そう見えただけで、本当にそうなのかは分からない。
父は皐月の沈黙を、同意とも反抗とも扱わなかった。
「当家は、対魔局への捜査協力として書庫棟の利用を許可する。だが、それはお前を迎え入れるという意味ではない。お前がこの門をくぐるのは、本日限りだ」
透の胸の奥に、熱が上がった。
ふざけるな、と思った。そんな言い方をする必要があるのか。今ここで、対魔局の監視役も、自分も、侍女もいる前で、そこまで切り刻む必要があるのか。けれど、透が口を開くより先に、監視役がほんの半歩だけ位置を変えた。制止のためではない。だが、ここで余計な言葉を挟めば、公務の妨げとして処理されるのだと分かる程度には、十分な動きだった。
皐月は一瞬だけ目を伏せた。
ほんの一瞬だった。透が見逃しかけるほど短い、睫毛の落ちる時間だけの沈黙。それでも確かに、皐月の視線は地面へ落ちた。石畳の上に、皐月の白い靴先が揃っている。そこに泥はなく、血もなく、辺居の埃もない。あまりにも清潔な場所で、皐月は家から切り離されていた。
次の瞬間、皐月は顔を上げた。
「そうかい」
声はいつもの調子に近かった。けれど透には、その「そうかい」が、いつもの軽い相槌とは違って聞こえた。受け流すための言葉ではなく、これ以上ここで何かを受け取らないための蓋のようだった。
「理解したとも。書庫を確認したら、すぐに退去する。そちらの名を使う予定も、保護を求める予定もない」
父は頷かなかった。
兄も何も言わなかった。
侍女だけが、皐月の足元へ一瞬だけ視線を落とし、それから何事もなかったように背筋を正した。透はその小さな動きが何を意味するのか分からなかったが、少なくともこの屋敷にいる全員が、完全に石でできているわけではないのだと、その瞬間だけ思った。
皐月は少しだけ首を傾ける。
「それで、書庫管理者は?」
父が侍女へ視線を向ける。侍女は深く一礼し、門の内側へ身体を開いた。
「既に書庫棟でお待ちでございます。ご案内いたします」
皐月は歩き出した。
透は一拍遅れて、その後に続く。すぐ横に並びたかったが、なぜかできなかった。皐月の背中はいつもと同じように真っ直ぐで、乱れてもいない。けれど、その背中の向こうに、今しがた閉ざされた巨大な門の音が聞こえるような気がした。
本館を横目に見ながら、透はその広さに密かに気圧されていた。白枝会本社の旧通信管理局もそれなりに大きかったが、ここは種類が違う。広いというより、積み上げてきた歴史と金と権威が、そのまま空間の厚みになっている。庭の樹木すら無造作には置かれておらず、視線の抜け方まで計算されているみたいだった。
やがて案内されたのは、本館から少し離れた別棟だった。
石造りの古い建物で、整った屋敷群の中では、明らかに異質な雰囲気をまとっている。壁の色も窓の形も、どこか時代がずれていた。いまの家の一部というより、前の時代の建物がそのまま敷地へ取り込まれ、無理やり隣り合っているように見える。
透が見上げていると、侍女が静かに説明した。
もともとは前ニコラエヴナ家に仕えていた森人一家の住居兼管理棟であること。いまも書庫の管理は、その系譜を継ぐ者が行っていること。言葉は丁寧だったが、そこに含まれる“前”という響きだけが、不自然に強く耳へ残った。
そのとき、建物の入口脇に人影が現れた。
森人だった。長い耳を持ち、年齢の読みづらい顔立ちをしている。衣服は質素だが清潔で、佇まいに妙な古さがあった。この家に仕える唯一の森人だと侍女が紹介すると、その人物は透たちを順に見てから、書庫について簡潔に説明を始めた。
この建物そのものに魔法陣が組み込まれていること。書庫への入室は管理者が登録した人物にしか許可されないこと。扉に鍵があるというより、部屋そのものが人を選別する仕組みなのだという。
透は思わず眉を上げた。
「じゃあ、勝手に忍び込むなんて無理そうですね」
森人は一拍置いて、静かに答えた。
「理屈の上では、そうなります」
その返し方が、透には少しだけ引っかかった。
森人は扉の前へ進み、皐月と透、そして監視役へ順に視線を向ける。
「対魔局の同行者を含め、三名に一時的な入室許可を与えます。ただし、許可の範囲は書庫内での閲覧および確認に限ります。持ち出し、破損、記録の改竄は認められません」
監視役が短く頷いた。
「十分です。必要があれば、こちらで記録を取ります」
「では、どうぞ」
森人が扉の脇へ手を添えると、石壁の継ぎ目に沿って、薄い光が水みたいに流れた。刻印は見えない。だが建物の内部で何かが起動した気配だけは、透にも伝わってくる。次の瞬間、重たそうに見えた扉が音もなく開いた。
中へ足を踏み入れた透は、思わず息を呑んだ。
書庫の中は、想像以上の規模だった。
高い天井まで届く壁一面の書架。棚と棚の間を渡るための細い梯子。重たそうな机と、古い椅子。並ぶ本の装丁はまちまちで、革張りも布張りもあり、背表紙の文字も見慣れた帝和語だけではない。乾いた紙の匂いに、薬品じみたものが混ざり、さらに長い年月閉ざされてきた空気の澱みが、薄い埃とともに浮いている。
「すっご……」
透の口から、ほとんど反射みたいに漏れた。
皐月はそれを咎めも笑いもせず、棚を見渡しながら言う。
「少し手間取りそうだな」
それからの動きは早かった。皐月は迷いのない手つきで棚から棚へと移り、背表紙の題や分類を一目で選り分けていく。対して透は、監視役の指示で手近な台帳や目録を確認することになった。分類表、蔵書番号、持ち出しの可否、管理者メモらしき書き込み。どれも細かく、透には半分も意味が分からない。
「貴船透、該当しそうな分類を拾ってください。森人、同一化、肉体置換、血肉、種族偽装、このあたりの語があればこちらへ」
「分かった。けど、これ全部見るの、普通に無理じゃない?」
「無理でもやってください。時間は限られています」
監視役の声は事務的だったが、急かす響きがあった。透は小さく舌打ちしかけ、それを飲み込んで目録へ視線を戻す。
皐月が探しているのは、足立の刺青に似た図像か、前ニコラエヴナ家に仕えていた森人一家に関する記述だ。目録の中にその手がかりが混じっていないかを見ろ、と言われれば、やるしかなかった。
しばらくして、皐月の手が一冊の本で止まった。
革表紙はひび割れ、背の箔押しはほとんど剥げている。それでも、他の本とは違う扱いを受けてきたのだと分かる重みがあった。皐月はそれを慎重に机へ運び、頁を開く。
透も思わず寄っていった。
そこに描かれていたのは、ただの図形ではなかった。蛇が絡みつくような線で組まれた魔法陣が、頁いっぱいへ広がっている。円と文字と、何重にも重なった術式の中心へ、まるで生き物みたいなうねりが食い込んでいる。見た瞬間、透の脳裏には足立の身体が浮かんだ。あの上半身を這っていた刺青と、あまりに似ている。
「これ……」
透が声を漏らすと、皐月は無言で頁を追った。視線が速く、けれど飛ばしてはいない。やがて、その指先がある箇所で止まる。
「肉体の一部を取り込み、性質と形質を再現する術……」
皐月は低く読み上げるように呟いた。
さらに頁をめくる。
「他者の血肉を核とする同一化術。肉体の置換。種の擬装。なるほど、趣味の悪い記述が並んでいるねぇ」
透は眉をひそめた。
「それ、足立の刺青と関係あるってこと?」
「断定はできない。だが、無視もできない」
「他人の血肉を取り込むって……あいつ、そんなことしてたってこと?」
皐月はすぐには答えなかった。
頁の文字を追う灰青の瞳が、わずかに細くなる。
「少なくとも、この術はそういう目的で設計されている。生き物を生き物として扱う思想ではないよ」
透はそれ以上読みたくなくなった。読むほどに気分が悪くなる。だが、それが足立の刺青と無関係だとは思えない。あの人の身体にあったものは、飾りではなく、何かを成すための術式だったのだと、ようやく形になってくる。
そのときだった。
皐月の手が、ふっと止まる。
「……おかしい」
低い声だった。透が顔を上げると、皐月は別の棚を見ていた。そこでは本が数冊、不自然に抜き出されたままになっている。さらに机の上には、閉じられずに放置された本が数冊重なっていた。誰かが慌てて調べて、そのまま離れたみたいな散らかり方だった。
皐月が机の端へ指を伸ばす。
そこには黒く焼け焦げた跡があった。新しい。古い書庫に自然にできる種類の汚れではない。
「私たちより先に、誰かがここを調べた形跡がある」
監視役の顔が変わった。すぐに扉の方へ向き直り、外で控えていた森人を呼ぶ。
「書庫管理者。確認してください」
森人は入室許可を与えたときと同じ静かな足取りで戻ってきたが、机の上の本と焦げ跡を見た瞬間、目元だけがわずかに硬くなった。
「これは、いつからですか?」
監視役が問う。
森人は焦げ跡へ触れず、距離を保ったまま答えた。
「少なくとも、私が最後に巡回した時点では存在しませんでした」
「最後の巡回は?」
「本日の午前8時頃です」
「その後、入室許可を出した人物は?」
「おりません」
監視役の声が一段低くなる。
「では、誰かが無許可で入ったということになります」
森人はそこで初めて、はっきりと首を横に振った。
「あり得ません。この書庫は、登録された管理者か、管理者が許可した者しか入れません。扉だけを破って入ることはできませんし、建物全体が侵入者を拒む構造です」
透はその言い方に、さっきと同じ引っかかりを覚えた。
「でも、誰かが入ったんだろ。じゃなきゃ、これ説明つかない」
森人は透を見る。
「だから、あり得ないのです」
その答えは反論というより、森人自身にも理解できない事態を前にしているように聞こえた。透の胸の奥に、嫌な予感が滲む。
もし、ここに誰かが侵入したのだとしたら。
もし、その誰かが、いままさに自分たちの探している相手だとしたら。
その考えが形になるより早く、書庫の静けさを切り裂くように警報が鳴り響いた。
甲高い音が石壁へ反響し、棚の本がわずかに震える。ほぼ同時に、屋敷の外から悲鳴と怒号が聞こえてきた。監視役が端末を確認し、その顔色を初めて変える。
「庭園のカメラが落ちています。複数地点が同時にオフライン……外で何か起きている」
皐月は本を閉じた。
「行こう」
透と皐月は顔を見合わせることもなく動いた。
書庫を飛び出し、石造りの廊下を抜け、庭へ向かって走る。冷たい外気が肺へ刺さる。角を曲がった先で、まず見えたのは逃げ惑う使用人たちの姿だった。次に聞こえたのは、幻獣のものとは思えない濁った咆哮だった。
中庭に幻獣〝だった〟ものがあった。
ニコラエヴナ家の番犬と思わしき幻獣らは、毛並みは黒ずみ、目は赤く濁り、身体の一部には赤黒い脈動が走っている。角や牙の根元、関節のあたり、あるいは皮膚の下を、呪いが血管みたいに這っていた。まだ完全な魔獣になり切っていない個体もいるが、どれも正気の境目を踏み外しかけているのは明らかだった。
「なんで急に……!」
透が叫ぶと、皐月は短く返す。
「状況的に、彼だろうな」
その瞬間、屋敷の裏手――書庫棟のさらに奥の暗がりから、ふらつく影が現れた。
足立明季だった。
顔色は悪く、呼吸も荒い。左脇腹を押さえた手の下では、服越しにも呪いの熱が脈打っているように見えた。額には脂汗が滲み、それでも口元だけは、いつもの薄ら笑いの形を残している。その笑みが、かえって透の胸をざらつかせた。
「足立!」
透が声を上げると、足立は気の抜けた調子で肩を揺らした。
「あーあ、鉢合わせかぁ」
皐月が一歩前へ出る。銀の星はまだ手にないが、声だけで十分鋭かった。
「不法侵入とは、ずいぶんと行儀が悪いじゃないか。何をしていた?」
足立は肩を竦める。傷を庇う手に力が入っているのに、表情だけはいつものままだった。
「見ての通りだよ。呪いをどうにかする方法がないかと思ったんだけど……何も無かった」
最後の一言だけ、苛立ちが混じった。透はそこで、書庫の机に散らばっていた本のことを思い出す。あれを漁っていたのは、やはり足立だったのだ。
「じゃあ、この幻獣の暴走は」
透が問うと、足立はわずかに顔をしかめた。
「不可抗力だって。こっちだって好きでばら撒いたわけじゃない」
その返事が終わるより早く、監視役が礼装を構えた。対魔局製らしい、白く簡潔な意匠の武装だった。
「足立明季、拘束します。武装を捨て、地面に膝をつきなさい」
その声に、足立は初めて監視役へ視線を向けた。薄く眉を寄せる。
「……誰?」
首を傾げる仕草は、場違いなくらい軽かった。
だが次の瞬間、その手にはすでに炎の剣があった。刃が抜かれる気配と同時に、庭の空気が熱を孕む。透は反射的に大槌へ手を伸ばし、皐月の視線もまた鋭く細まった。
次に何が起こるかを、三人とも、もう分かっていた。




