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002

あまりに必然的な政略結婚だった。


アストレア家は、代々多くの皇后を輩出してきた由緒正しい家柄である。

ルシェルは、公爵家の直系令嬢として、幼少期から宮殿に出入りできる特権を持っていた。


***


ーーヴェルディア帝国、宮殿の広大な庭園


宮殿の中の色とりどりの花が咲き誇る静かで美しい庭園に、公爵令嬢のルシェル・アストレアは膝を抱えて座り込んでいた。


銀色の髪は陽の光を受けて淡く煌めき、透き通るライラック色の瞳には涙が溜まっていた。

彼女はまだ幼く、優雅な仕草の中にもどこか幼児らしい儚さがあった。


「どうして泣いているの?」


不意に、柔らかくも凛とした少年の声が耳に届いた。

ルシェルは驚いて顔を上げる。


そこに立っていたのは、夜空のような黒髪に星々を散りばめたような瞳をした少年だった。

初めて会うはずなのに何故か安心感があった。


「……お父様に叱られたの」


彼女は小さな声で呟く。


「どうして?」


「……もっと強く賢くならなくちゃいけないって。じゃなきゃ立派な淑女にはなれないって。でも、私は……」


言葉を詰まらせたルシェルを見つめながら、少年は少し考え込んだ。

そして静かに微笑み、跪き、彼女の目線に合わせてこう言った。


「じゃあ、僕が守ってあげるよ」


ルシェルは目を見開いた。


「ほんとに?」


「もちろんさ。僕は、ノア・ヴェルディア、よろしくね」


そう言って、彼はルシェルの小さな手をそっと握った。その手は温かく、力強かった。


「皇太子殿下とは存じ上げず......大変失礼いたしました......」


ルシェルは申し訳なさそうに涙を流しながらも、貴族の娘らしく挨拶をした。


「そんな寂しいな....これからはノアと気軽に呼んでよ。僕と友達になろう。君の名前を教えてくれる?」


ノアはルシェルの手を取り、立ち上がらせた。


「わ......わたしは、アストレア公爵家のルシェル・アストレアにございます」


少し戸惑いながらも、ルシェルは笑顔で答えた。


「ルシェルか...ルシェル、約束するよ。君が泣きたくなったら、僕がすぐに飛んできて守ってあげる」



——それが、二人の初めての約束だった。


ルシェルはいつも宮殿に通っては、ノアとたくさん話した。

まるでこれまでもずっと一緒に過ごしていたかのように、二人はそれはそれは仲睦まじく、周囲は二人の明るい未来を微笑ましく想像していた。


二人が12歳の誕生日を迎えた頃、正式に婚約が認められた。それはあまりにも当然の出来事のようで、誰も驚きはしなかった。


婚約してからというもの、ノアが皇太子としての勉強に励む合間には、ルシェルは次期皇后として、妃教育を受けた。ルシェルは初めての後あった頃とはまるで別人のように、厳しい妃教育野中でも、涙を見せることはなかった。それはきっと、ノアの存在に支えられていたからだ。



「ノア、私たちはずっと一緒にいられるの?」


「もちろん。僕たちはいずれ夫婦になるんだから」


「……ほんと?」


ノアは頷き、真剣な眼差しを向けた。


「約束する。ルシェルのことをずっと守るって。僕がこの国を治めるようになっても、僕にとって一番大切なのは君だから」


その言葉に、ルシェルの胸が温かくなった。


「じゃあ、私も約束するわ」


「……約束?」


「ノアのそばにいて、あなたの力になれるように頑張る。あなたが初めて会った日に私に約束してくれたように、私もあなたを支えたいの」


二人は小指を絡め、静かに誓い合った。

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