表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最低階級の戸籍係 ~皇女に拾われた俺は、身分を管理する役人になった~  作者: 大豆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/10

第4話 消された皇女

「第一皇女……?」


その言葉が、頭の中で何度も響いた。

リリア。いや、リリア=アストリア。

この国の次期皇帝候補。


俺が助けた少女は、俺とは住む世界が違う存在だった。


「待ってくれ。」


俺は混乱したまま尋ねる。


「第一皇女なら、なぜ追われている?」


皇位継承者なら、最も守られる立場のはずだ。

しかしリリアは首を横に振った。


「この国では、力を持つ者ほど狙われる。」


彼女は窓の外を見る。

王宮から上がる煙は、まだ消えていない。


「父である皇帝が倒れた。」


「倒れた?」


「病気だと発表されている。」


リリアの声が少し低くなる。


「でも違う。」


「誰かに毒を盛られた。」


背筋が冷たくなる。

皇帝暗殺。それは国を揺るがす大事件だ。


「犯人は?」


聞くと、リリアは少し迷った。


「……私の弟。」


「弟?」


「第二皇子。」


その名前を聞いたことはなかった。

当然だ。俺のような労民に、皇族の事情など知らされることはない。


「彼は父が倒れた直後、こう宣言した。」


リリアは拳を握る。


「第一皇女リリアは、皇帝暗殺を企てた反逆者である。」


言葉の意味を理解するまで、数秒かかった。


「……逆にされた?」


「そう。」


彼女は笑った。悲しい笑いだった。


「私が父を殺したことになった。」


ありえない。そう思った。

しかし、この国ではありえる。


身分の高い者の言葉は、低い者の真実より重い。


証拠がなくても。目撃者がいなくても。

皇族の命令なら、それが事実になる。


「だから逃げた。」


「捕まれば?」


「公開処刑。」


リリアは淡々と言う。


「そして歴史には残る。」


「皇帝を殺そうとした極悪皇女として。」


俺は何も言えなかった。

この国の仕組みを、俺は知っていたつもりだった。

でも違った。


底辺にいる人間だけが苦しんでいると思っていた。


違う。

権力者ですら、この制度に縛られている。


「……どうするつもりなんだ?」


俺が聞く。


リリアは少し考えてから答えた。


「証拠を探す。父が殺された証拠。そして、本当の犯人を暴く。」


簡単な話ではない。

皇帝暗殺の証拠など、すでに消されているだろう。相手は皇宮を支配している。


「無理じゃないか。」


思わず口に出た。

リリアは否定しなかった。


「そうね。」


「一人なら無理。」


彼女は俺を見る。


「だから、あなたに頼みたい。」


「俺に?」


思わず笑いそうになった。


「俺はただの戸籍係だ。剣も使えない。貴族との交渉なんてしたこともない。」


しかし、リリアは真剣な目で言った。


「だからあなたなの。」


「理由になっていない。」


「なるわ。」


彼女は役所の棚を見る。

何千冊もの戸籍台帳。


「あなたは、この国で誰よりも多くの人間を見ている。

身分。出身。家族。仕事。

全部知っている。」


俺は黙る。


「貴族は、人を数字として見る。でもあなたは違う。一人一人の人生を見ている。」


そんなことを言われたのは初めてだった。

俺はずっと、自分には何もないと思っていた。


最低階級。

雑用係。

誰からも必要とされない存在。


でも。

もし、この仕事で得た知識が誰かを救えるなら。

意味があるのかもしれない。


その時だった。

倉庫の外から声が響いた。


「ここだ!」


兵士の声。


「皇女がこの近くにいる!」


リリアの表情が変わる。

逃げ道はない。

俺は周囲を見る。


そして、壁際に置かれた一冊の帳簿に目が止まった。


古い記録。


数十年前の戸籍台帳。

そこには、この役所にしかない情報が書かれている。


俺は一つの作戦を思いついた。


「リリア。」


「何?」


「今から、あなたの人生を一度消す。」


彼女が驚く。


「できるの?」


俺はペンを握った。


「本物の戸籍は消せない。でも……

この国は、記録で人間を判断する。」


扉の向こうで兵士が叫ぶ。


「開けろ!」


俺は静かに答えた。


「なら、記録を変えればいい。」


その瞬間。

俺は初めて、身分制度そのものに逆らった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ