第17話 公開裁判
王都中央裁判場。普段は貴族同士の争いや、重大な犯罪を裁く場所。
しかし今日集まっている人間の数は、いつもの比ではなかった。
王都の民。貴族。商人。兵士。そして、遠くから情報を聞きつけた地方の代表者たち。
誰もが見ていた。この国の未来を左右する裁判を。
「被告人、入廷。」
声が響く。
俺はゆっくり歩いた。
隣にはリリア。後ろにはミリア。
かつてなら、この場所に立つ資格すらないと言われただろう。
しかし今、俺は堂々と歩いている。
裁判長が口を開く。
「被告人エイル・ノア。国家反逆罪の容疑について審理する。」
会場がざわめく。
俺を見る視線。その多くは疑いだった。
「まず確認する。」
裁判長が続ける。
「被告人は、王家の許可なく戸籍制度の改革を進めた。これは国家制度への重大な干渉である。
認めるか?」
俺は答える。
「認めます。」
会場が騒ぐ。
しかし、俺は続けた。
「ただし。私が行ったのは、制度を壊すためではありません。
間違って使われている制度を、本来の目的へ戻すためです。」
貴族席から笑い声が聞こえる。
「綺麗事だ。」
「労民が政治を語るな。」
その声を聞きながら。俺は冷静だった。
昔なら傷ついていた。でも今は違う。
この言葉こそ、この国の問題を表している。
「では、証拠を示します。」
俺は一冊の台帳を取り出した。
会場が静まる。
「これは、旧王宮記録庫に保管されていた戸籍管理記録です。」
グレイヴ侯爵が立ち上がる。
「異議があります。」
裁判長を見る。
「その記録は正式な手続きを経て公開されたものではありません。信頼性に欠けます。」
予想通りだった。証拠を否定する。それが貴族側の戦い方。
しかし。
「では、確認してください。」
俺は言った。
「ここにいるミリア・フォードは、王国記録管理部の職員です。」
ミリアが前へ出る。
「記録の筆跡、印章、保存状態を確認しました。この資料は、王国が正式に保管していたものです。」
グレイヴの表情が変わる。
証拠そのものを否定できない。
俺は続ける。
「この記録には、身分固定政策の存在が記されています。
能力や犯罪ではなく。生まれによって未来を制限する仕組みです。」
会場がざわめく。
「嘘だ。」
「そんな記録があるはずない。」
貴族たちが騒ぐ。
だが、民衆の反応は違った。
「……やっぱり。」
「俺の父も急に身分を落とされた。」
「私の兄も試験を受けられなかった。」
小さな声が。少しずつ広がっていく。
俺は理解した。証拠だけではない。人々自身が、すでに違和感を持っていたのだ。
「さらに。」
俺は一枚の紙を出す。
「私自身の戸籍記録です。」
裁判長が見る。
「……抹消?」
会場が静まる。
「私は、この調査を始めた後。戸籍上、存在しない人間にされました。」
リリアが拳を握る。
「誰が命令した?」
裁判長が聞く。
俺は答える。
「分かりません。」
そして。
「しかし、一つだけ分かります。」
会場を見る。
「この国では。記録を書き換えることで、人間そのものを消すことができる。」
沈黙。
「もし私が間違っているなら。なぜ、私を消す必要があったのでしょうか。」
誰も答えない。
その時。皇帝側の代表が立ち上がった。
「感情論だ。」
冷たい声。
「確かに不正が存在した可能性はある。しかし、だからといって長年続いた制度を否定する理由にはならない。」
俺はその男を見る。
そして。少し笑った。
「その通りです。」
意外な返答に、会場が静まる。
「制度は、簡単に変えるべきではありません。だからこそ。私たちは、新しい制度を提案しています。」
俺は改革案を掲げる。
「壊すだけではない。作り直す。生まれではなく、選択で未来を決められる国へ。」
その瞬間。傍聴席から声が上がった。
「賛成だ!」
一人の老人だった。
「俺たちは何も望んでいない!ただ、子どもが生まれで諦めなくていい国にしてほしい!」
次々と声が広がる。
裁判場が揺れる。貴族たちは焦り始める。
そして。皇帝席。今まで黙っていた新皇帝が初めて口を開いた。
「面白い。」
全員が振り向く。
「ならば。」
皇帝は笑う。
「最後まで聞こう。エイル。お前は、この国をどう変えるつもりだ?」
俺は皇帝を見る。
ここからが本当の勝負だった。相手は制度を作った側。国の頂点にいる男。
俺は答える。
「皇帝陛下。私は。この国から、身分ではなく可能性を奪う仕組みをなくします。」
公開裁判は、いつしか裁判ではなく。
国の未来を決める議論へ変わっていた。
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