第15話 新しい国の設計図
改革室の机には、紙が積み上がっていた。
戸籍記録。税制度。教育制度。役人の採用記録。
今まで俺がただの戸籍係として見てきたもの。
しかし今は違う。これらはすべて。国を作るための材料だった。
「本当にやるのね。」
リリアが机を見る。
「はい。」
俺は答えた。
「身分制度をなくすための改革案を作ります。」
ミリアが不安そうに聞く。
「でも、問題があります。」
「何ですか?」
「身分制度をなくした後の仕組みです。」
その言葉に、俺は頷く。そこが一番重要だった。今までの制度には問題があった。
しかし。制度が悪いからといって、何も考えず壊せばいいわけではない。
国は人間の集まりだ。仕組みがなくなれば、混乱する。
「まず。」
俺は紙に書く。
『生まれによる身分決定の廃止』
リリアが頷く。
「これは絶対ね。」
「はい。」
次に。
『能力と意思による役職選択』
「貴族だから役職につく。労民だから選べない。それをなくす。」
誰でも試験を受けられる。努力した人間が上を目指せる。
さらに。
『戸籍制度の改革』
ミリアが興味深そうに見る。
「具体的には?」
「戸籍は、人を縛るためではなく守るために使います。」
今までの戸籍。それは管理するための道具だった。
誰が上。誰が下。それを決めるためのもの。
しかし本来。記録は人間を守るためにある。
「名前を持つ権利。教育を受ける権利。仕事を選ぶ権利。それを証明するための記録に変える。」
リリアは静かに聞いていた。
そして。
「エイル。」
「はい。」
「あなた、本当に戸籍係だったの?」
思わず笑う。
「一応。でも、こんなこと考えたことはありませんでした。」
変わったのは。世界ではない。
自分だったのかもしれない。
その日の夜。改革案の第一稿が完成した。
しかし。問題はここからだった。
「これを誰に見せるか。」
ミリアが言う。
「現在の王宮は敵だらけです。」
その通りだった。
新皇帝。大貴族。既得権を持つ商人。簡単に認めるはずがない。
「なら。」
リリアが言う。
「国民に直接届ける。」
俺は驚く。
「そんなことが可能ですか?」
「王都には情報を広める仕組みがある。ただし。」
彼女は少し表情を曇らせる。
「皇族が民衆に改革を訴えるのは、反乱と見なされる可能性がある。」
つまり。ここから先は。
俺たちは正式な政治活動ではなくなる。反逆者になる可能性がある。
沈黙が流れる。
俺は窓の外を見る。
王都の明かり。そこには、何万人もの人間が暮らしている。
その中には生まれた瞬間に未来を奪われた人間もいる。
「やります。」
俺は言った。
「もし、この国の記録が間違っているなら。正しい記録を残す人間が必要です。」
リリアは頷いた。
その翌日。俺たちは改革案を公開する準備を始めた。
しかし。その動きは、すぐに知られる。
王宮会議室。
新皇帝の前で、侯爵グレイヴが報告していた。
「彼らは改革案を作成しています。」
「内容は?」
「身分制度の廃止。」
皇帝は笑った。
「大胆だな。」
「処分しますか?」
側近が聞く。
皇帝は少し考える。
「まだだ。彼らに発表させろ。」
グレイヴが顔を上げる。
「よろしいのですか?」
「構わない。」
皇帝は窓の外を見る。
「民衆が本当に彼らを支持するのか。それを見たい。」
そして。
「支持されなければ、ただの反逆者だ。支持されたなら……」
皇帝は小さく笑う。
「その時は、私が利用する。」
一方。
改革室では。最後の一枚が完成していた。
タイトル。
『すべての人間が、未来を選べる国へ』
俺たちはまだ知らなかった。
この一枚の紙が、王国全体を揺らすことになるとは。
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