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最低階級の戸籍係 ~皇女に拾われた俺は、身分を管理する役人になった~  作者: 大豆


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第13話 存在しない者たち

王宮地下の小さな部屋。そこには、三人分の机しかなかった。


皇女リリア。記録官ミリア。

そして、戸籍上は存在しない人間になった俺。


普通なら絶望する状況だった。

国に認められない。身分証も無効。街を歩けば、不審者として扱われる可能性すらある。


しかし。俺は不思議と落ち着いていた。


「本当に大丈夫?」


リリアが心配そうに聞く。


「何がですか?」


「あなた自身の記録が消されたのよ。普通なら、もっと怒ったり……」


俺は少し考える。


「怒っています。でも。」


机の上に置いた書類を見る。


「俺一人が消されたことより、今まで同じことをされた人間がどれだけいるのか。」


それが気になった。


戸籍抹消。存在の否定。

この国では、珍しいことではないのかもしれない。証拠がないだけで。


「ミリア。」


俺は尋ねる。


「戸籍を消された人間の記録は残っていますか?」


彼女は少し黙った。


「……あります。でも、通常の記録には残っていません。」


「どこに?」


「廃棄予定の記録庫です。」


ミリアは答える。


「正式な戸籍から外されたもの。死亡扱いになったもの。存在しなかったことにされたもの。」


俺は立ち上がる。


「そこへ行きましょう。」


「危険です。」


ミリアが言う。


「王宮地下の旧記録庫は、現在ほとんど使われていません。」


「だからこそです。」


俺は答える。


「敵が消したと思っている場所に、本当の記録が残っている可能性がある。」


リリアが頷く。


「行きましょう。」


深夜、俺たちは王宮地下へ向かった。

普段、皇族ですら近づかない場所。古い石の階段を下りる。


湿った空気。暗い廊下。壁には、何百年も前の王家の紋章が刻まれていた。


「ここです。」


ミリアが鍵を取り出し、扉を開ける。

中には大量の箱が並んでいた。


名前。年月日。分類。

しかし。その多くに共通する印がある。


赤い線。『無効』『削除』『処理済』


俺は一つの箱を開けた。中には大量の書類。


一枚目を見る。

名前。住所。家族構成。


そして最後に。


『身分変更理由:不明』


俺は眉をひそめた。


「不明?」


ミリアが説明する。


「本来、身分変更には理由が必要です。しかし、この記録には理由がない。」


さらに調べる。


二枚。

三枚。

十枚。


すべて同じだった。


「数が多すぎる。」


リリアが呟く。


「これだけの人間が……」


消されていた。


俺は一冊の分厚い台帳を見つけた。

表紙には古い文字。


『特別処理記録』


中を開くとそこには……

驚くべき内容が書かれていた。


『能力保持者の身分制限』

『危険思想者の管理』

『下位階級への固定』


俺の手が止まる。


「……これは。」


リリアが横から見る。

そして顔色が変わった。


「嘘でしょう。」


そこには。

現在の身分制度が作られた本当の理由が記されていた。


優秀な人間を適切に配置するため。そんな建前ではない。


本当の目的は。


『才能ある下位階級者が権力を持たないよう管理すること』


つまり、この制度は最初から。


支配するために作られていた。


「だから……」


リリアが震える声で言う。


「能力があっても、下の身分に固定された人がいた。」


「はい。」


俺は答える。


「才能ではなく、出生で未来を奪われた。」


その瞬間。

背後から音がした。


カツ。


カツ。


誰かが階段を下りてくる。


「やはり、ここへ来たか。」


聞き覚えのある声。

振り返るとそこにいたのは。


侯爵グレイヴだった。


「あなた……」


リリアが警戒する。

グレイヴはゆっくり歩いてくる。


「まさか、ここまで辿り着くとは思わなかった。」


俺は尋ねる。


「なぜ止めに来ないんですか?証拠を隠しに来たんじゃないんですか?」


グレイヴは少し笑った。


「違う。」


「なら、なぜ?」


侯爵は古い記録を見る。


「確認しに来た。君たちが、どこまで真実へ近づいたのか。」


そして。

意外な言葉を口にした。


「エイル。君は、この国を変えたいと思っているようだな。ならば、一つ教えてやろう。」


グレイヴは静かに言った。


「この制度を守っているのは、貴族だけではない。皇族もだ。」


リリアの表情が凍る。


「……どういう意味?」


グレイヴは答えた。


「先代皇帝も。そして、君自身も。この制度の恩恵を受けている側だ。」


地下記録庫に沈黙が落ちる。


敵だと思っていた男。その口から出た言葉は。


俺たちが最も聞きたくなかった真実だった。

読んでいただきありがとうございました。

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