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最低階級の戸籍係 ~皇女に拾われた俺は、身分を管理する役人になった~  作者: 大豆


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第12話 消された記録

改革室に三人目の人間が加わった。

ミリア・フォード。記録管理部に所属していた彼女は、戸籍制度の内部事情に詳しかった。


「まず理解しておくべきことがあります。」


ミリアは机の上に大量の書類を並べた。


「戸籍は、一つの部署だけで管理されていません。」


俺は頷く。


「出生記録。移住記録。身分変更記録。死亡記録。」


ミリアが順番に指を置く。


「それぞれ別の部署が管理しています。つまり。」


リリアが言う。


「改ざんするには複数の人間が関わっている。」


「その通りです。」


ミリアは答えた。


「だから今まで発覚しませんでした。」


俺は書類を見る。

確かに、一人の役人が勝手に変更するだけならどこかで矛盾が生まれる。

しかし、複数の部署で少しずつ変更すれば。

最終的には、自然な記録になる。


「組織的な犯行ですね。」


俺が言う。

ミリアは頷いた。


「おそらく、三百年前から続いています。」


リリアが黙り込む。

三百年。それは一人や二人の問題ではない。国そのものに染みついた仕組みだった。


「では、どうする?」


リリアが聞く。

俺は考える。

証拠を集める。犯人を暴く。それだけでは足りない。


なぜなら。敵は権力を持っている。

証拠を消すことができる。人を黙らせることもできる。


「公開します。」


俺は言った。

リリアが驚く。


「今?まだ証拠は十分じゃないわ。」


「だからです。」


俺は答える。


「証拠を集めてから公開するのでは遅い。敵に全部消される可能性があります。」


ミリアも頷いた。


「確かに。」


「記録は、隠される前に複数の場所へ残すべきです。」


俺は決めた。


「まず、国民が知る状態を作る。」


しかし、その日の午後、俺たちの予想を超える事態が起きた。


「エイル!」


改革室へ飛び込んできたのは、役所時代の同僚だった。息を切らしている。


「何があった?」


彼は震える手で一枚の紙を差し出した。


「これ……」


受け取る。そこには見覚えのある名前があった。


『エイル・ノア』


俺自身の戸籍。

そして。赤い印。


『身分抹消』


一瞬、意味が理解できなかった。


「……何だ、これ。」


ミリアの顔が青ざめる。


「戸籍抹消。存在を消されたということです。」


リリアが俺を見る。


「エイル……」


俺は紙を握る。怒りより先に。妙な感覚があった。

やはり。そういうことだったのか。

この国で最も恐ろしい罰。処刑ではない。殺されることでもない。存在そのものを消されること。誰からも認識されなくなること。


「いつから?」


俺が聞く。

同僚は答えた。


「今日の朝です。王宮から命令が来た。理由は……」


彼は言葉を詰まらせる。


「反逆者との関係。」


リリアの表情が険しくなる。


「私との関係を理由にしたのね。」


俺は静かに紙を見る。

昨日まで。俺は戸籍制度の矛盾を調べていた。

今日は。自分自身が、その制度に消された。


「なるほど。」


俺は呟く。


「これが、この国のやり方か。」


ミリアが心配そうに見る。


「エイルさん……」


「大丈夫です。」


俺は顔を上げた。不思議だった。怖くない。

むしろ。確信した。


「俺たちが正しい証拠が増えました。」


リリアが驚く。


「どうして?」


「もし本当に何も問題がないなら。」


俺は抹消された戸籍を見る。


「わざわざ俺を消す必要なんてない。」


沈黙。敵は焦っている。だから動いた。

つまり。俺たちの調査は、確実に届いている。

その夜、俺たちは新しい作戦を決めた。

敵が俺の存在を消したなら。


逆に利用する。


「エイル。」


リリアが言う。


「あなたは、もう戸籍上存在しない。」


「はい。」


「それでも戦うの?」


俺は少し笑った。


「だから戦います。存在しない人間だからこそ。この国から消された人たちの気持ちが分かる。」


そして。俺は新しい書類を作った。

タイトルは一つ。


『存在しない者たちの記録』


これは。

消された人間を取り戻すための最初の一歩だった。

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