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最低階級の戸籍係 ~皇女に拾われた俺は、身分を管理する役人になった~  作者: 大豆


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第11話 味方なき改革

翌朝。王宮中に、ある噂が広がっていた。


『労民出身の少年が、貴族を相手に意見した』


『皇女が、身分の低い者を重要な役職につけた』


『戸籍制度に不正があるらしい』


噂というものは不思議だ。王宮の中では、どんな重要な報告書よりも早く広がる。


俺が改革室へ向かうと、廊下を歩く人間の視線が変わっていた。

昨日までは、存在すら見られていなかった。

今は違う。好奇。警戒。敵意。様々な視線が向けられている。


「有名人になったわね。」


隣を歩くリリアが言う。


「嬉しくありません。」


「そう?」


「昨日までは誰も気にしていなかったので。」


リリアは少し笑った。


「それは、あなたが何もしていなかったからよ。」


その言葉に、少し考える。

確かにそうかもしれない。今まで俺は、自分の人生を受け入れていた。変えることなどできないと思っていた。


しかし。一度声を上げると、世界の見え方が変わる。


改革室へ入る。机の上には大量の書類が置かれていた。


「これは?」


俺が聞くと、リリアが答える。


「各部署から送られてきた戸籍修正依頼。昨日の報告を受けて、調査許可が出た。」


俺は驚く。


「許可が?」


「正式なものではないけれど。」


リリアは苦笑する。


「あなたが提出した報告書を無視できなくなったのよ。」


俺は書類を見る。一見すると、ただの変更申請。

しかし。俺には分かった。


「多い。」


「何が?」


「不自然な変更が。」


数百件。いや。数千件。

特定の地域。特定の家系。特定の時期。

偶然とは思えない。


「これは……」


リリアが覗き込む。


「何?」


「身分を上げた人間がいます。労民から市民へ。市民から貴族へ。」


リリアは眉をひそめる。


「でも、それは良いことでは?」


普通ならそうだ。

身分が上がる。それは幸運なことに見える。

しかし。


「問題は誰が上がったかです。」


俺は一覧を見る。


「全員、同じ商会と関係があります。」


リリアの表情が変わる。


「商会?」


「はい。」


この国では、商人の力は強い。特に王都最大の商会。アルバート商会。


武器。食料。物流。

国の経済を握っている巨大組織。


「つまり。」


リリアが言う。


「貴族だけではなく、商人も関わっている。」


「おそらく。」


俺は頷く。

敵は思ったより大きい。単純な貴族対平民ではない。この国を支配する仕組みそのものが相手だ。


その時。改革室の扉が開いた。


「失礼します。」


入ってきたのは、一人の女性だった。年齢は二十代前半。王宮職員の制服を着ている。


「あなたは?」


リリアが尋ねる。女性は頭を下げた。


「記録管理部所属。ミリア・フォードです。」


彼女は俺を見る。


「エイルさん。少し、お話があります。」


警戒する。今まで俺に近づいてくる人間は、ほとんど敵だった。


「何の話ですか?」


ミリアは周囲を確認する。


そして小声で言った。


「私は、あなたの調査を手伝いたいです。」


意外な言葉だった。


「なぜ?」


彼女は少し迷った。


「父が……父が、戸籍改ざんを告発しようとして消されました。」


空気が変わる。


「消された?」


「はい。」


ミリアは拳を握る。


「事故として処理されました。でも私は知っています。父は殺された。」


リリアが静かに尋ねる。


「あなたは、危険であると理解していますか?」


「理解しています。」


ミリアは答える。


「だからこそ、今しかありません。先代皇帝も動いた。あなたたちも動いた。なら。」


 彼女は俺を見る。


「私も、記録を守る人間として戦いたい。」


俺は考える。

今まで。俺たちは二人だった。皇女。戸籍係。力もない。

しかし。初めて。同じ目的を持つ仲間が現れた。


「分かりました。」


俺は手を差し出す。


「協力してください。」


ミリアは握り返す。

その瞬間。改革室に新しい仲間が加わった。


しかし、その夜王宮の地下では一人の男が報告を受けていた。


「改革室に新しい人間が入りました。記録管理部のミリアです。」


男は静かに笑う。


「なるほど。ならば、そろそろ潰す頃合いだな。」


侯爵グレイヴ。彼は命令する。


「証拠を探している者は。証拠ごと消せ。」


改革は始まった。そして同時に。

敵も本気になった。

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