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第七話 名前と運命

 「なんだが家がたくさんですねー」


 「まあ、最近は、大体のとこがこんな感じだと思いますよ」


 俺たちは、彼女の不安を取り除くため、近くの森林公園に遊びに出かけることにした。

 今はそこへ向かう人気のない道を二人で歩いている。


 「あの四角い建物は何なんですか?」


 「あれはコンビニです。というか、コンビニを知らないんですか?」


 「はい、多分見たことないと思います」


 記憶喪失の影響だろうか?

 それとも、もともとコンビニというものを知らなかったのか?

 もしかしたら、メイド服を着ていたこともあるし、過去から来たという線もあるのか。

 まったく、謎は深まるばかりだぜ。


 「谷原さんは、その公園によく行くんですか?」


 「いや、昔はたまに虫取りとかでいってたんですけど、最近は全く行ってないです」


 「へー、虫取りですか、どんなのがいるんです?」


 「ニホントカゲとか、、今の時期だとカブトムシやクワガタもいるかもしれません」


 「捕まえられるといいですね」


 「別に虫取りをしに行くわけではないんですよ」


 「せっかくなんだし、やっていきましょうよー」


 そんな話をしてたら、目的の公園についた。

 ここは、住宅街のど真ん中にあるくせに結構バリバリの森になっている。


 「すごい、緑って感じですね」


 「まあ、夏なので蚊がいるかもしれませんが、そこはご了承ください」


 「大丈夫ですよ、私、ジャージなんで」


 「それより早く入りましょう!」


 草や土の上を歩き、どんどん奥に進んでいく。


 「なんだか、、懐かしい気分になります」


 「そうですね」


 日本の森で懐かしくなるということは、はやり彼女は日本育ちだったのだろうか。

 というか、彼女の名前は何だったのだろう?

 さすがにこのままずっと名前がないというのは、いろいろと不便だろう。


 「あの、自分の名前とか、、思出せませんか?」


 「んー、やっぱり難しそうです」


 「そうですか、、」


 


 「じゃあ、いっそのこと自分でつけてしまうのはどうですか?」


 「いいですね!でも、自分で自分の名前を付けるってなんか変じゃないですか?」


 「それもそうですね」


 「あ!谷原さんが私の名前を付ければいんじゃないですか」


 「え、、でも、僕名前つけるのとかあんま得意じゃないんで、あんまいいの作れないと思いますよ」


 「それでもいいので、作ってほしいです」


 んーーーーー、どうしよう。


 

 「あの、これは僕個人の考えなんですけど、正直、名前なんてどうでもいいと思ってるんですよ」


 「どうしてですか?」


 「名前って、結局は言葉の一種じゃないですか。

 そして言葉に意味はあってもその言葉自体の読み方や、その言葉に使われている文字とかに意味はないと思うんですよ。

 それは名前に関しても同じで、その名前自体には意味なんてなくって、意味があるのはその名前が示すあなた自身なんです。

 確かに、名づける側にとっての意味はあるかもしれませんが、生まれた時からこうなってほしいとかそういう気持ちを子供に押し付けることは僕はしたくない。

 それに、僕の名前は正人だけど正しい人になんてなるつもりはない。

 要するに、名前に意味なんてないってことです。もし意味がるとしたら、それは名づける側が願った意味ではなく、名づけられた側がそうだと願った意味だけです。

 こんな思想を持つ僕が付ける名前でいいのなら、何か考えますよ」



 しまった。

 つい、長々と偉そうに自分の考えを語ってしまった。

 彼女は嫌な顔をしてないだろうか。


 「確かにそうですね、、でも、私は、こう生きてほしいと願われることを押し付けだとは思いません。

 だって素敵なことじゃないですか、生まれる前から愛情と願いをかけられているだなんて。

 それに、たとえその名前の通りに生きられなかったとしても、名前というのもが名付けた人の願いの形であるという事実は変わりません。

 私はもう生まれてしまってるけど、、、やっぱり名前は、誰かに願われて、つけてもらいたいです。

 私の場合は、あなたに、、」

 


 確かに。


 俺の考えは、単純に俺がこの名前が気に入っていないのと、人に自分のことを勝手に決められるのが嫌いな性格なだけかもしれない。

 そう考えると彼女の言ったことの方がよっぽど客観的だ。


 「わかりました、考えてみます。でもさすがに今すぐは厳しいので今日の夜でいいですか?」


 「ありがとうございます!今日の夜で全然大丈夫ですよ」


 「すみませんね、急にあんな話しちゃって、、たぶん僕は自分の名前が気に入ってなかっただけなんです」


 「私はいい名前だと思いますよ、「正人」って」


 「そうですかねーー」


 「まあまあ、そんなことよりちゃんとかわいい名前、付けてくださいね!」


 「善処します」


 それから俺たちは、虫取りをしたり、植物や花を観察して時間を過ごした。


 「そろそろ、暑くなってきたし外に戻りませんか?」


 「いいですね、おなかもすいてきましたし」


 「じゃあ、行きに見たコンビニでご飯にでもします?」


 「いいですね!早くいきましょう!」


 

 まずい。


 ついコンビニに行こうといってしまったが、彼女には右手がないんだった。

 別にただのコンビニだしそこまで人はいないと思うが、彼女がそういう目で見られるのは正直かなり不快だ。


 仕方がない、彼女には外で待っていてもらおう。


 「すみません、ちょっとここで待っていてください」


 「はい、、、わかりました」


 その後俺は、おにぎりやホットスナック、飲み物などを購入し、近くの川沿いのベンチで昼ご飯を食べることにした。


 「さっき、私を待たせたのって、、やっぱり、、、この腕のことですか?」


 違う、、とは言えなかった。


 「ごめんなさい」


 「なんで謝るんですか、私のことを思ってしてくれたことなんですよね、だったら私が怒ることなんてないですよ」


 「ただ、、、少し、悲しいなって」


 「やっぱりそういう目で見られちゃうんですかね」


 彼女の声は震えていた。

 「俺が治してやるよ」、とか、「俺が助けるから大丈夫」だなんて言えるほど俺は無責任ではない。

 いや、それを言う勇気と覚悟が、俺にはないのだ。


 だから、、ここで俺が言えるのは事実だけだ。

 責任や行動が伴うことは言ってはいけない。

 なぜなら、所詮、俺にとって彼女はあの空間について知るための道具であってそれ以上のものであってはならない。

 彼女にっとっての俺も、たまたま、記憶喪失後初めて会った人というだけだ。

 それ以上の関係は、俺にとっても、彼女にとっても、きっとよくないものだろう。


 だからと言って、何も言わない訳にはいかないし、昔、俺が、自分の父親が嫌いすぎて悩んでるときに思い付いた運命への考え方を話してよう。

 

 「手足がそろってる俺が言っても、説得力ないかもしれないですけど。

 この世に、自分が本当に望んだ状態で生まれられた人なんて、いないと思いますよ」


 「あなたのように身体に不自由がある人、戦争中に生まれてしまった人、はたまた、望んだ容姿で生まれてこれなかった人々は、等しく自分の運命を呪って生きている。

 しかし、いくら呪ったところで、「過去ですでに決まってしまった事象」である運命を変えることはできない。

 でも、運命への態度は人それぞれだ。

 運命を受け入れ、未来を少しでも変えようとすることも、不幸な運命を前に、ただ苦しみながら立ち止まることも、あなたの自由だ。

 あなたはどちらを選びますか?」


 「慰めては、、、くれないんですね」




 「申し訳ないが、俺はこういう人間だ。

 だから、もし俺と暮らすのが嫌になったら、すぐに警察に行ってもらって構わない」


 「、、、、」


 この後からは、終始無言で家に帰ることになってしまった。

 正直、これでよかったと思う、よく知らない男の家に記憶喪失の少女が親の許可なく住んでいるという状態をこれ以上続けるのはよくない。

 それに、俺は、今日のように彼女とただ時間を浪費するよりも、できるのなら、とっととあの空間の調査を進めたいのだ。


 結局、家に帰った後も何も話さず寝てしまった。

 もちろん、名前を付ける約束は果たされていない。

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