第五話 記憶喪失系金髪少女
目の前に少女がいる。
しかも、金髪の美少女だ。
状況から考えるに、この子はあの空間から出てきたのだろうか?
とはいっても、俺もかなり動揺している。
彼女は、ぼろぼろのメイド服を着ていて右腕がないのだ。
しかも、俺はこれまで一度も彼女がで来たことのない男。目の前に突如として現れた美少女を前に、話しかけるわけでもなく、立ち去るわけ度もなく、ただその場で静止していた。
すると彼女が口を開いた。
「あ、あの、ここは、どこ、ですか?」
恐怖100%って感じの声だった。
「ここは千葉県立千代田蔵高等学校と言う高校です」
とりあえず答えられたが、あまりいい返事ではなかったかもしれない。
その証拠に、ここから5分ぐらい謎の無言タイムが続いた。
まあでも、この5分のおかげで俺も状況を理解してきた。
いや、たぶん何も理解はできていない。
ただ少し冷静になっただけだ。
するとまた、彼女が話しかけてきた。
「私、、多分、、記憶喪失です」
「今必死に、いろんなことを思い出そうとしてるんですが、何も思い出せません」
「それと、体が、とても痛いです」
「そ、そうですか」
それぐらいしか、返せる言葉がなかった。
後から考えてみれば、「病院行きましょう」が正解だったのだろう。
しかし、その時の俺はまともに頭が回っていなかった。
「とりあえず、外行きませんか?学校でなきゃいけない時間なんで」
「わかりました」
そうして俺たちは、学校を出た。
あたりはかなり暗くなっていて、周りには誰もいなかった。
とりあえず、のどが渇いたので自販機で飲み物を買うことにした。
「どれか飲みたいのはありますか?」
「どれもよく知らない飲み物なので水でお願いします」
「わかりました」
確かに、記憶喪失の人にこれを聞くのは悪手だったかもしれない。
「ガッチャン」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
近くに公園があったので少しそこで話してみることになった。
「あの、あなたのお名前は?」
「谷原正人です」
このとき彼女は、ほとんど落ち着きを取り戻していたようで、俺にいろいろと質問してきた。
むしろ俺の方が、緊張していて、俺はただ彼女の質問に答えるだけで、俺からは何も言わない機械のようになっていた。
「私が、いつからあそこにいたのかわかりますか?」
「いや、僕が振り返ったら急にあなたが現れたのでわからないです」
「あのよくわからない空間って何なんですか?というか、私は、あそこから出てきたんですか?」
「あ、あの空間については正直僕もよくわかってなくて、あなたがあそこから出てきたのかどうかは僕も正確にはわかりません」
「でも、あの時扉はしまってたし、窓もほとんど開いてなかったので、多分そうかと思います」
そこからまた沈黙が続いた。
その間に、俺も落ち着いてきた。
そして勇気を出して話しかけてみた。
「あの、さっき痛いっていてましたけど、大丈夫なんですか?」
「あー、あの時は結構痛かったんですけど、なぜかもう痛くなくなりました」
「そうですか」
「あの」
「私って、これかどうすればいいんだと思います?」
「とりあえず、警さっ、、、」
警察に行けと言おうと思ったが、もし警察に行ったらあの空間のことがばれてしまうではないか。
そうしたら俺はもうあの空間を調べることができなくなる。
それは問題だ、俺は俺の力であの空間を調べて見せると決めたのだ。
でも、じゃあどうすればいいんだ。
あの空間がばれないように彼女に、記憶喪失系家出少女と嘘をついて警察に行ってもらうか?
あー、わからない。
というか、自分が家出してるのをわかってるなら記憶喪失してないじゃないか。
やっぱりこういう時は、ちゃんと全部話した方がいいか。
とりあえず、俺の事情も彼女に話して、そのうえでどうするべきか考えてみよう。
というわけで、これまであの空間について調べたこと、俺の事情について話してみた。
「あの、もしできたらでいいんですけど、、谷原さんの家に、泊めてもらうことはできませんか?」
「えっ」
「私こんな格好だし、名前もわからない、その警察ってとこに行ってもどうにもならないと思うんですよ」
「でも」
「それに、怖いんです」
「さっき、あなたと初めてあったとき、とても怖かったんです」
「自分が誰だかわからなくて、ここがどこだかわからなくて、目の前には知らない男性がいる」
「いくら考えてもわからないことだらけで、不安で頭がいっぱいだった」
「今もそうなんです、これからどうすればいいのかがわからない、でも、何より、自分が何なのかがわからないのが堪らなく怖い」
「だからもう、知らないとこにはいきたくないんです!知らない人には会いたくないんです!」
「お願いです、この漠然とした不安がなくなるまででいいんです、どうか、私を泊めてくれませんか?」
「わかりました」
つい、そう答えてしまった。
というか、こんなお願いされて断れるわけがない。
まあ、俺からしても好都合だ。
彼女は、あの空間の中から出てきたんだ、もしかしたら、記憶が戻れば、あの空間について何か知っていることがあるかもしれない。
ということで、彼女と一緒に、俺の家に帰ることになった。
「でも、僕の家に行くのは不安じゃないんですか?僕がいい人だとは限らなくないですか?」
「確かに少しは不安です、でも」
「谷原さんって、女性慣れしてないっていうか、私に危害を加えてくるとは思えない感じがするんですよね」
「そ、そうですね」
どうやら俺は、初対面でしかも記憶喪失の女子にも舐められてしまうらしい。
まあ、別にいいけど。
というか、彼女は何歳で、どこの国の人なんだ?
あと、名前、、、は覚えてないのか。
見た目的には、十六歳、俺と同じぐらいだろうか。
金髪なことや顔つきから明らかに日本人ではないことはわかるが、どこの国かまではわからない。
まあ、ヨーロッパのどこかだろう。
「そろそろ着くので、少し待っていてくれませんか?」
「わかりました」
もちろん、このことが親にばれたらまずいことになるので、先に俺が入って安全が確保されたら彼女を入れることにした。
「ただいまー」
返事がない。
どうやら、母さんは仕事に言っているらしい。
まあ、父さんは自室にいるのだろうがどうせ寝てるから大丈夫だろう。
というか、父さんは働いているのだろうか?
あいつと母さんの仲がかなり悪いせいか、あいつはほとんど部屋から出ない。
一日中合わないが普通だ。
だから、あいつが何をしていて、何を思っているかなんて俺は知らない。
あとは、兄だけだが、あいつもどうせ寝てるだろ、昼夜逆転生活だし。
「まったく、この家にまともな男はいないのかよ」
「今なら入れそうです、失礼しますとか、大きな声はできるだけ出さないようにしてください」
「はい」
階段を上り、二階の俺の部屋に入る。
昨日までの部屋はかなり汚く、とても人を招ける状態ではなかったのだが、ちょうど昨日ジュースを盛大にこぼしそのついでに掃除をしたおかげでギリギリ人に見せられるレベルにはなっていた。
と、思っていたのだが。
「この部屋結構汚いですね」
どうやら、俺のきれいの基準は一般人規格ではなかったらしい。
「すみません、今掃除します」
「大丈夫ですよ、部屋に泊めてもらうんだから掃除ぐらいします」
「でも、今はとても眠いので、今日は寝かせてくれませんか?」
「もちろんです、、でも、、」
「でも?」
「ベッドが一つしかないのですが」
「私が床で寝るので大丈夫ですよ」
「いや、、でもさすがにそれは、、」
「大丈夫ですって、あー、でもできれば床にひくものが欲しいです」
「多分冬用の布団とかがあると思うんで、それ持ってきます」
そうして、俺たちは布団を準備してとっとと寝ることにした。
かくいう俺も、今日は変なことがたくさんあったせいか疲れていて、結構早く眠りにつけた。




