第四話 謎と謎の少女
決意は決まった。
やはり今の俺にこの好奇心と高揚感を抑えることはできないようだ。
いや、多分実際はそんなポジティブ理由ではなく、自分の無能さとこれまで自分がやってきたことの虚しさを認められなかっただけだろう。
「それにしても暑いなー」
夏の登校ほど嫌なものはない。
特に俺のような、お家大好こ民からするととんでもない重労働だ。
そして、俺のシャツが汗で水浸しになったころ、俺は学校についた。
今日、俺がやるべきことは、宗助先輩を説得することと、あの空間について調べることだ。
まあ、あの人を説得するのはそこまで難しくはないだろう、あの人も結局は俺と同じ理系オタクだから、こんなワクワクするSF展開を潰したくはないだろう。
問題は、あの空間のほうだ。
ものが消えるなんて、これまでの科学では考えられないことだ。
でも待てよ、本当に物は消えたのか?
もしかしたら、あれは、中に入ったものを見えなくするだけで、実際には消えていないのかもしれない。
まあ、ここで考えてても仕方がない、とっとと先輩たちを説得して、実物を調べてみよう。
「おはようございます」
宗助先輩と目が合う。
「答えは出たのか?」
「出ました」
「どんな答えだ?」
「これは、俺が調べさせてもらいます」
先輩が、??、みたいな変な顔になった。
「なんでそうなった?」
「俺はこれを自分で調べたいと思った、だから調べる、それだけです」
「もし、これが本当に危ないものだったらどうする」
「そう思うなら、お前のパソコンはお前の家で使えるようにしてやるから、二度とここに来るな」
「そうすればお前に危険はないだろ」
先輩は少し考えた後、こう言った。
「はー、仕方ない、わかったよ」
「ただし条件がある」
「何ですか」
「正直、俺もこれには興味はあるが自分で調べるのは危なすぎる。だから、俺は、危険な実験とかは一切手伝はないが、実験の結果だけはしっかりと教えてもらうぞ」
「わかりました、ありがとうございます!」
「あとお前、さっきは結構な言葉遣いだったな」
「そ、それはすみません」
「まあ、いいけど」
「とりあえず、俺に危険がないようになー、あと、一応ほかのみんなにも言っとけよ」
「はい」
安藤と、坂本ちゃんはちゃんと頼んだら納得してくれた。
そのとき坂本ちゃんに、「先輩も、あんまり危険なことしないでくださいね」って、心配していてちょっとかわいかった。
というわけで、実験開始だ。
まず、ペンを持ったままこの空間に入れてみよう。
と、思ったが、持ってるまま入れたら、俺まで一緒に消えるかもと思いやめておいた。
とりあえず、何か投げ入れて、その物体が空間に触れた瞬間物体全体が消えるのか、それとも、空間に触れたとこから順に消えるのかを確かめたい。
近くにあった「何か」を投げてみる。
ん?
何か?
?
何を投げたかが、思い出せない??
!
そういえば
昨日これを見つけたとき投げたものも思い出せない。
あの時は、ただ興奮してて忘れただけだと思っていたが。
もしかしたら、この空間は存在ごと消してしまうのかもしれない。
いや、結論付けるのはまだ早い。
単純に俺が鶏以上のバカだという可能性も残っている。
とりあえずもう一回「何か」を投げてみる。
!
まただ、また思い出せない。
「どうなってるんだこれは…」
やはり、俺が忘れているわけではなさそうだ。
「何か」を投げたということはわかるのだがその「何か」がどうにも思い出せない。
次は、投げるものを写真でとっておこう。
そうすれば俺が忘れることはないはずだ。いや、せっかくなら投げるところを動画で撮ってみよう。
「おーい、安藤ちょっと手伝ってくれ」
「はいはい」
次は、「何か」を投げてみた。
今回も思い出せなかった。
しかし
動画には、しっかり俺が消しゴムを投げる姿が映っていた。
映像を見たからと言って投げたものが思い出されることもない。
自分の記憶にないことを数秒前の自分がやっていたという事実。
奇妙な気分だ。
安藤も、俺と同じように記憶からなくなったらしい。
この結果から言えるのは、空間の中に入ったものは、存在が消えるわけではないが、人間の記憶からはなくなる。
いや、感覚的には、その「もの」の情報に俺の脳がアクセスできなくなったような。
その情報だけがすっぽり記憶から抜け落ちている。
「んーーー」
かなり意味が分からない。
入れた物体が、この空間の影響で消えるのはまだわかるのだが。
触れてもいない俺の脳が、影響を受けるのはさすがに不可解すぎる。
「とりあえずいろいろやってみますか」
俺は六時間ほど様々な実験をしてみた。
わかったことは以下のとおりだ。
・この空間に入ったものは消えるあるいは人間の目ではとらえられなくなる
・大きさは半径約47.2cmの円柱型、上下に伸びているが、長すぎて高さは測定できず
・この空間に触れたところから物質は消失していき、すべてが入ったとき、記憶の消失が起こる
・記憶の消失は、投げたものだけでなく、全員に起こった。
・この空間は、匂い、音、熱、光、を遮断している
・空間に、速度を持った物質を投げ入れても貫通することはない
・液体、気体を入れた場合も同様の性質がみられる
今日調べられたことはこれぐらいだ。
特に記憶の消失が不可解すぎる。
まるでこれまでの人間の科学、論理をもてあそばれているように感じる。
人間はこれまで、さまざまな現象の「原因」を調べることで知恵を増やしてきた。
なぜ火が燃えるのか
なぜ物は落ちるのか
それらの「原因」を知り、その「原因」の「原因」をまた調べる。
このいつ終わるのかもわからない繰り返しを経て人は世界を知ってきたのだ。
しかし
これについて調べれば調べるほど、これがその「原因」の繰り返しの最後にあるのではないかと思えてくる。
もしかしたら、この現象に「原因」なんてなくて、神様が初めからそうであると決めたもののような。
人間の限界、いや、世界の限界なのかもしれない、そう思えてくる。
でも、
「面白いねぇー」
そこであきらめる俺ではない。
それにまだ調べるべきことはたくさん残っている。
「とりあえず明日は、これがどこまで伸びてるのか、調べてみますかー」
気づいたら、もうかなり遅い時間だった。
ほかのみんなはみんな帰っている。
「よし、俺もそろそろ帰るかー」
と、思い、あの空間の方に目をやった。
すると
金髪メイド服の片腕のないボロボロの美少女が出てきた。




