第三話 兄
二時になったので、兄の部屋の前に来た。
ノックはせず、電話をかける。
「部屋の前来たけど開けてくんない?」
「わかった、ちょっと待ってくれ」
「ガチャ」
ドアが開いた。
「入っていいぞ」
「いつ見ても汚い部屋だなー、マスクつけといてよかったぜ」
「黙れガキが」
「もう俺も十七歳だぜ、ガキの称号はそろそろ返上したいんだけど」
「お前の年齢を俺がいちいち把握してるわけないだろ」
「それもそうか」
床がティッシュとゴミだらけで座れないので、ベッドに座る。
「それで、相談ってなんだ?」
とりあえず今の現状をそのまま話してみた
「フフフッ」
「何がおかしい」
「いやー、お前がそんな高尚な悩みを抱えるようになったとはな」
「別に高尚でもないだろ」
「いや、高尚だよ、普通の人はそんなことで悩んだりしない、幸せを求め、感情に従えばいいのだからな」
「でも、お前は傲慢なことに、自分の意思が感情に勝てると思っている」
「それは…」
「では一つ聞こう、お前が知識を、あるいは世界の真理を求めている根本的な目的はなんだ?」
「…幸せになりたいから」
「わかってるじゃないか」
「仮に、お前が、目的のために生きる理性的な自分だけを自己とし、感情で動く自分を自己として認めなかったとしても」
「その理性的な自分も、所詮幸せになりたいという本能的な感情から生まれたものだ」
「つまり、お前は自分の母親、あるいは兄弟を殺そうとしているのだ」
「じゃあ、俺たちは永遠に自己同士の対立に苦しまないといけないのかよ」
「いや、俺は別に、それが不可能だとは言っているわけではない」
「それを解決にする方法は二つある」
「一つ目は時間との制約をなくすことだ」
「なんで急に時間が出てくるんだよ」
「考えてみろ、もし時間が無限にあったら、お前が生み出す目的も、欲求も、すべて満たすことができる、満ちるまでやり続ければいいのだからな。でも、現実には、寿命という時間制限がある、限られた時間で目的を達成するために、人々はいろんなものを捨てていかなきゃいけない」
「例えば、感情とかね」
「二つ目は、脳みそを機械化することだ、コンピューターは与えられた目的だけを達成する。これもやりたい、あれもやりたいなんて思うことはない。まあ、脳みそを機械化した時、その人間の自我は保たれるのか、というかまず、そんなものを人間と呼んでもいいのかはわからないけどね」
「まあ、この二つとも現代の科学ではどうしようもないことだ」
「じゃあ、これらを可能にする、機械を作ればいいのか?」
「完成する前に寿命が来なければいいがなww」
「ッチ」
「少なくとも、今はできないのだ」
「だから、自分の感情を殺そうとするのは諦めろ」
「わかった」
「代わりに、自分の感情も計算に入れたうえで何を選択するのが一番合理的か考えろ」
「まあ俺的には、お前が自分で調べてくれた方が面白そうだし、一つ助言をしてやろう」
「早く教えろ」
「お前、昔よく言ってたよな、自分は天才だって」
「だったらなんだよ」
「天才なら、超常現象の原因ぐらい、自分で調べ上げて見せろよ、そうすれば全部解決だろ」
「ふっ、それもそうだな」
「最後に一つ忠告だ、新しい目的、新しい夢、新しい自分をこれ以上生み出すのはやめた方がいい、身を亡ぼすことになる。生まれてしまったものはどうしようもないが、生まれないようにする工夫は必要だ」
「確かに、こっから俺がスポーツ選手になりたいだなんて言い出したら最悪だろうねww」
「まあ、避妊は大事ってことだ」
「はいはい、そうですか」
俺は静かにベッドから立ち上がる。
「今日はありがとう」
「まあ、俺も、たまにはこうして、人と話しておかないと、わが嫁に会ったとき、コミュ障になってたら困るからな」
「あっそ」
「あっ、そういえばお前食べ物と飲み物はどうした」
「げっ」
俺は、急いで兄の部屋から出た。




