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第二話 雨、帰宅

 帰り道、雨が降っていた。


 俺は雨が好きだ。


 涼しくなるし、濡れるのは気持ちい。


 そして、うるさい雨音は、俺の意識を閉じ込めて、むしろ思考に集中できる。


 俺は傘を差さないタイプだから、俺を乗せる電車とその乗客には迷惑かもしれないけどね。


 今日の出来事について考えるべきことは二つだ。

 あれは、何なのか。

 そして、俺は、どうすればよいのか。

 前者については、まだわからないという結論がすぐ出てくる。

 後者については、現在思考中だ。


 確かに、俺なんて素人が調べるより、ちゃんとしたとこが調べる方が、人類のためになるのだろう。

 でも、どうしてもその事実を認められない。


 不快感まみれの正解を選ぶのか。

 ワクワクする不正解を選ぶのか。


 結論は出ないまま、家はどんどん近づいてくる。


 「あっ」


 雨が降るたび家の前で見られる美しい景色が今日もあった。

 

 それは、何の変哲もない、雨水で丸い穴の形に削られたただのコンクリートだ。

 しかし、その中にはコケや多肉植物が生えていて、そこに水が溜まっている。

 なぜかその空間だけが、美しい和風庭園の一角のように見えるのだ。


 まあ、だからと言って立ち止まることもなく、ただ淡々と通り過ぎていく。


 この忙しい現代社会で、美しいものを立ち止まって眺められる人が果たしてどれだけいるのだろうか。


 無論、俺は立ち止まらない側の人間だけどね。




 結局結論は出ず、家についてしまった。


 最近、頑張って帰宅後ちゃんと泡をつけて手を洗っていたが、今日ばかりは忘れてしまった。

 まあ、雨で洗えてるからいいだろう。


 自分の部屋に行き、濡れた制服をそのまま床に置き、着替えて、ベッドに横たわる。




 2時間ほど、半分寝ながら考えてみたが、答えは出なかった。


 「仕方がない、あいつに相談してみようかな」


 あいつとは、二十二歳独身、実家住みの俺の兄、谷原敏夫のことだ。


 あいつは、二次元の女の子が好きすぎで、実際に会うために、色々趣味以上仕事未満のことをやっているらしい。

 まあ、本人は仕事だと主張しているが、金銭を得れてない以上仕事とは言えないだろう。


 俺があいつに相談しようと思った理由は一つ。

 あいつが俺に似ているからだ。


 あいつは俺と同じ、いや、もしかするとそれ以上に、自分の目的のためだけに生きるやつだ。

 家族を大切にしない、友人と出かけることもない、彼女がいたこともたぶんないだろう。

 二次元の女の子と会う、それだけのために、それ以外をすべて捨てて生きている。


 それが俺の兄、谷原敏夫だ。


 あいつなら、今の俺と同じ、自分の目的のために、自分の感情、あるいは自分自身を押し殺さないといけない場面に出くわしたことがあるだろう。


 もしかしたら、いい助言をもらえるかもしれない。


 「とりあえず、メール送ってみるか」


 あいつは、自分の部屋に入られたり、急にノックされたりするのが大嫌いだからな、まず、メールでアポを取らないといけない。


 「ピピッ」


 思ったより早く返事が来た。


 「どれどれー、今日は二時まで、推しの配信見るから、そのあとだったらいいぞ、でもノックはせずドアの前で電話を掛けろ。あと、相談料として、ドクペとピンモンと揚げどり三個を持ってこい」


 とのことなので、リビングで飯を食っていったん寝ることにした。

 まあ、貢物は、適当に家にあるジュースと、食べ物を渡しておけば大丈夫だろう。


 無論、あいつが、リビングで飯を食うはずもないので、食事中に話すこともできないだろう。

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