第四話 私の存在、何それ災難?!
シズイさんには手紙をちゃんと送った。
早く仲間を増やしたい。
リーフィリアの置かれている状況は最悪だ。
父は妹しか大切にしておらず、兄にも宗教関係で魔力を利用される未来しかない。
兄グレイスはリーフィリアに愛情が無いわけでは無さそうだが…。
リーフィリアには守ってくれる絶対的な保護者がいないのだ。
信頼していいのはケトルだけ。
そのケトルはあくまで父様が雇った使用人。主は父様だ。ケトルの身分も決して高くない。あまり無理はしてほしくない。
「転生はハードモードが基本なのだろうか?」
日本で生きてるより裕福なのに、バッドエンドフラグ、下手したら死亡フラグも立っていそうだ。
コンコン。
「リーフィリア、開けていい?」
「は、はい!」
ひぇ。兄様だ。
咄嗟に返事しちゃったけど、兄様の顔面見てニコニコできる自信がない。
ど、どうしよ…。
「リーフィリア、突然で悪いけど君に会わせたい人物がいてね…」
わあ。見事なアルカイックスマイルですね、兄様。
感情があんま感じられないこんな笑顔でも、将来の兄様がニコリともしなくなることを考えると貴重だ。
…決して自分に向けられたくなかったけどね!!
なんだろ。魔力鑑定してもらってから兄様の目線が冷たい気がする。
「彼に入ってきてもらっていい?」
「は、はい…」
兄様の赤い目に輝線が縦に鋭く走ってる。
こっわ。拒否権ないぞ、これ。
そして入ってきたのは兄様と同じくらいの子ども。
その子の燃えるような赤い髪がクルクルはねてる。凄い天パだな。日本じゃ固めないとそんなに曲がんないと思う。
目はつり上がってるけど、大きくてこぼれ落ちそうな緑。
「これがグレイスの妹?」
あ"?これ?
今、聞き捨てならない言葉が耳に…
「クレナイ、この子はリーフィリア・クロヴィース。ボクの妹。
リーフィリア、この子はクレナイ・プワーブル。君の婚約者だ」
ワッツ?
ワタシノコンヤクシャ?
この不機嫌そうなガキが?今、睨まれておりますけど。
「グレイス、婚約は受け入れるが、コイツと親睦を深めるはずはないと言ったはずだ」
ムカッ。まじで腹立つんだが。
というか、これ父様の許可得てるのか。
……いや、父様、私に興味無いんだった。
家の繁栄の為なら兄様の一存で何とかなるわ。
「クレナイ。社交界では悪い噂が広がるのはほんの一瞬だよ。君の不本意な所で噂が立つのはボクの本意じゃない」
「…分かってはいる。これでお前の立場が保証されるなら俺だって努力は惜しみたくない。世間体は考慮しよう」
私、ハブられてる上に、道具にされてない?
私の意思は?これが貴族社会のやり方か!
クレナイはさっき迄シカトしてた私の存在をやっと思い出したのか、近づいてきた。
「リーフィリア、俺がお前と婚約するのはグレイスの後ろ盾にプワーブル家をつけるためだ。他人の目がある時だけはお前に優しくしよう。世間体の為に通いもしよう。ただそれだけだ」
「…そうですか」
こ、こいつ〜!!
と心の中で思えども、口から出たのはただそれだけ。
リーフィリアの存在とは何のためにあるのか。
小さな疑問がちくりと刺さる。
でも、気づいてはいけない。
私は転生者で、大人なんだから。
季節は流れ、冬になった。
今日はシズイさんが来る日。
私の仲間になってくれるかもしれない人が。
期待に胸を高鳴らせているとノック音がした。
「はじ、うわぁあぁぁ!!」
大きな物音ともにその人はスライディングで部屋に入ってくる。壁に激突し、長い脚に頭がすっぽり挟まるさまは無様としか言いようがない。
噂に違わぬドジっぷり。間違いない、シズイさんだ。
「大丈夫ですか、シズイさん!」
せっかくの長い脚も、たれ目の瞳も、透き通ったエメラルドグリーンの髪も、痛みに呻く彼にはギャグシーンを映えさせる演出の一つにしかなっていない。
「え、ええ。失礼いたしました。
私はシズイ。今日から家庭教師としてこの屋敷に参りました」
メガネにつけたグラスコードの位置が気になるのか、カチカチと直しながら彼は立ち上がる。
てか、あの勢いでメガネ壊れてないの?!
凄い!!
「私はリーフィリア・クロヴィースです。今日からよろしくお願いします!」
「ご丁寧どうも。…おや、私の顔に何か?」
「いえ、メガネの神秘を…」
「はい??」
いかん。初対面から私の印象が変になる。
軌道修正、軌道修正。
「いえ、何でもないです。シズイさ、いえ、シズイ先生。手紙にありましたように私は魔力操作が上手くないのです。先生は氷、闇、緑の魔法に適性があるとお聞きしました」
「はい。確かリーフィリアさんの適性は氷でしたね。いっ、まずどんな魔法を覚、え、が、たいと思ってますか?あがっ」
「……取り敢えず先生の上に降ってくる、どこから落ちてるのか分かんない植木鉢とかタライとかが防げるくらいの強度は欲しいですね」
「これは気にしないでください」
いや、気にしないでって言われても。
この部屋、植木鉢もタライも置いてないのに降ってきてるんですよ?
無から災難を生成しないでくれ。
「強度を上げたい、ですか。
今現在の強度を見せてもらっても?」
降ってきてるなぁ。
やかん、人参、人形、鉄板…鉄板?!
いや、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
魔法教えて貰う前に先生が死んじまう!!
「"固定"!!」
シズイ先生の頭上に氷の壁を発生させる。
しかし、鉄板とぶつかった氷は意図も容易く壊れ、破片ごとシズイ先生の頭に直撃した。
「がはっ!!」
「せ、せんせいーーー!!」
これ、逆効果だった気がする。
むしろ破片が頭に突き刺さってる。
床に伸びた先生に慌てて駆け寄ると、先生は血を流しながら震える手でグッドサインを出した。
「貴方の優しさ、伝わってますよ……がくっ」
「ぎゃー!誰か、誰かーーーー!!」
処置をした先生に後遺症はなかった。
土下座して謝罪した。
その後も先生の頭に四方八方から物が飛んできたが、それでも授業は進んだ。濃い授業だった。




