植林のすゝめ (非推奨)
「姉貴」
声の主は先ほどまでツヴァイに説教されていたジャンヌさん。
馬上にいるのか、塀の上からでも顔が見える。
表情の変化が乏しいのか、全く感情が読めないが、さっきから尖った耳がピコピコ動いている。
「もう、ジャンちゃんたら。えーちゃんって呼んで、っていつも言ってるのに」
「いや、姉貴を『ちゃん』づけで呼ぶのは…」
えーちゃんがブーブーと文句を言うと、ジャンヌさんは僅かに眉を下げた。
えーちゃんの手招きで塀の外に出ると、ジャンヌさんが馬上からヒラリと降りた。
「今日もノアール君は元気ですね〜」
えーちゃんがポンポンと首を叩くと呼ばれた黒馬はフンッと鼻息を鳴らした。
「今日は目一杯走らせることが出来たから機嫌が良い」
ジャンヌさんが満足そうに頷く。
「まぁ、けど明日雷が落ちるけどね〜」
えーちゃんが軽く指摘すると、ジャンヌさんの耳がぺたんと垂れた。
「姉貴。どうにかならないか?」
綴るようにジャンヌさんがえーちゃんを見つめる。
「どうにもならないわね〜」
耳を垂らしたまま項垂れるジャンヌさんをよそに、えーちゃんが歩き始める。
私たちがぞろぞろと歩き出すと、ジャンヌさんもノアール君の手綱を引きながら、とぼとぼと後ろをついてきた。
みんなと会話をして交流を深めながら、周りをじっくり観察した。
ドヴェルグたちが作った家は和風の面影が色濃く反映されていて、白や黒を基調とした外観の家が立ち並ぶ。
一見すると江戸時代の大河ドラマで見るような光景だ。
ただ、少し違うとしたら、各家はプライバシーも考えて、塀と小さな道で隔てられている。
4軒の家を1区画としたその区画の真ん中には大きな木が枝を伸ばす公園?広場?が設けられている。
左右に和風の家々が立ち並ぶなか、広いプロムナードではアールヴたちが木を生やしていた。
そう、大きい木を移しているのではなく、生やしているのだ。
種子を地面に丁寧に埋めると、立ち上がって集中しているのか目を閉じ、
右手を突き出す。
彼らは何かに語り掛けているのか、ブツブツと小声で何か言うと、右手が光り出し、ニョキニョキと新芽が地中から顔を覗かせる。
グングンと幹が太くなり、枝葉を広げながら数メートルに及ぶ高さまで一気に伸びていく。
そんな中、後ろで待機していた別のアールヴが右手を掲げると、鋏がひとりでに宙へ浮かび、伸びすぎた枝を軽快に刈り込んでいく。同時にジョウロもふわりと浮き上がり、若木にたっぷりと水を与え始めた。
4、5メートルの高さに成長した木はブルッと震えたかと思うと葉っぱを一斉に落とす。
アールヴたちはきちんと、その落ち葉を袋に回収して、木の状態を確かめると、「よく頑張ったな」とでも言うように幹をぽんぽんと優しく叩き、次の木へ向かっていった。
そんな驚きの光景を眺めながら歩いているうちに、私たちは竹本隊長たちが住むことになる区画から数ブロック離れた場所までやって来た。
「はい、ここがみんなのお家です〜!はい、拍手〜!」
えーちゃんに言われるがまま、私たちは顔を見合わせながらも素直に拍手した。
私たちの区画ははっきりとした違いがあった。
「ピンク、超キレイ!」
細川さんが感嘆の声を漏らす。
そう、この区画の家はプロムナードに面した塀に生垣が植っていて、幾つものピンク色の花が塀を覆い、白と黒を基調にした街並みの中で、その一角だけが春を先取りしたような柔らかな色彩に包まれていた。
「白と黒を基調とした街はシックで良いが、やはり華があってなんぼのものだ」
耳はまだ少し垂れたままだったが、花を眺めたジャンヌさんは満足そうに頷いた。
「はい、みんなちょっと話を聞いてね〜」
えーちゃんが真面目そうな顔で呼びかけるが、そんなえーちゃんの腕の中には櫛田さんがすっぽり収まっていた。
……いつの間に捕獲されたんだろう?
私は色んな意味で困惑したが、大事そうに抱かれている当の本人は慣れているのか、全く気にしている様子がない。
まぁ、本人が平気なら問題ない。そういうことにして、私は考えるのをやめた。




