なんていうことでしょう!
自衛隊員をはじめ、若干放心状態の我々に、出来上がった家の前でツヴァイが手招きした。
「皆さん、ドヴェルグたちの腕前を堪能していただいたので、次はアールヴたちの技を見て行ってください」
縦桟のドアを引いて全員を招き入れる。
ゾロゾロと入っていくが、ドアは十分な高さがあって誰一人頭をぶつけなかった。
玄関に一歩足を踏み入れた瞬間、木の香りがふわりと鼻をくすぐった。
天井や足元に仕込まれた間接照明が柔らかな光を落とし、風情のある空間を演出している。
建築段階から気づいていたが、土間は滑らかな石畳でできていて、上がり框と備え付けの靴箱もある。
「ドヴェルグたちは日本人に似た家に住んでいるのですか?」
研究者の一人が靴を脱ぎながらツヴァイに尋ねると、
「あっ、いえいえ。皆さんが来る前に竹本さんたちに住んでいる家屋の写真と皆さんの身長や体格から各寸法を推定して再現したまでのことです」
「「えぇ〜!」」
「やたら実家みたいに落ち着くと思ったら、そういうことだったのか」
みんながびっくりして声を上げる中、竹本隊長が納得したように頷く。
「もちろん、詳細情報とかは見ていませんので若干いつもと違う所とかがあると思います」
ツヴァイが申し訳なさそうにぺこぺこするが、仮設住宅でこのクオリティと再現性の高さは充分すぎると思うのは私だけではないはず。
現に全員が滅相もないという感じで頭を振る。日本人だなぁ。
「さてさて、ここで立ち話も何ですので、皆さん中に」
引き戸をくぐると、天井まで視界が抜けた開放的な空間が広がっていた。
和モダンなリビングとダイニング、とでも言えばいいのだろうか?
1階と2階の吹抜けの高い天井に設けられた天窓と壁いっぱいの一つの大きな窓から光が柔らかく差し込む。
何と、この家には中庭があるみたいで、窓の向こうには小さい池と川みたいなものが見える。あとで絶対見に行こう。
床は深みのある茶色の木張り。
壁は温かみのある白い漆喰仕上げで、コンクリートにはない柔らかな質感をしていた。
リビングだけで確実に私が借りているマンションの1Kより広い。
数十人の見学者がいるから少し狭く感じるが、それでも広い。
私の横でホヘーと自衛官らしからぬ顔で見入っていた竹本隊長の名前が不意に呼ばれた。
部屋の真ん中で作業していたアールヴのひとりが手招きしている。
頭を一振りして気合を入れ直した竹本隊長が前に出る。
「この家は、そちが住まうための家である。我らはそちの造りに合わせて物を作る故、色々と測らせてもらう」
「え!私一人で、この家にですか?」
竹本隊長の驚いた顔を見て準備していたアールヴたちは怪訝な顔を浮かべた。
「むぅ、狭かったか?」
「いやいや逆で!こんな立派なお家に住まわせて貰うなんて勿体無いです」
竹本隊長は慌てて首を振り、日本では一人暮らしならもっと小さな家に住むのが普通だと説明した。
「ふむ、そうであったか。ちょっと待て」
少し考え込んだアールヴの責任者がDカードでどこかに連絡を入れる。
「俺らもこれに住めるんですかね?」
佐伯准教授に小西が期待のこもった声で尋ねる。
「分からないけど、ドヴェルグたちがこの家が日本での標準だと思って作っているのならばそうかもですね」
それを聞いて小さくガッツポーズをする横で、通話をしていたアールヴがDカードを懐に戻した。
「ドヴェルグたちに建築数を減らすようにした。一軒を複数人で使う形で構わぬか?」
「え、えぇ」
竹本隊長が困惑気味に答える。
「では、一緒に住まう者たちをあと3人指名してくれ」
さっきまでガッツポーズをしていた小西が勢いよく手を上げた。
「すみません。他の家もこんな感じなんですか?」
「まぁ、多少意匠は違うが、基本構造は同じである」
「じゃあ、今のうちに誰が一緒に住むか決めておいた方が…?」
「我らの仕事も楽になる」
それを聞いた竹本がキリッとした顔で声を大きくした。
「では、宿営計画で使う予定でしたテント割りをそのまま流用しましょう。もともと四人用天幕で編成していますから都合がいいです。男女も分かれていますし、余計なトラブルも避けられます」
それを聞いた瞬間、研究者も自衛官も一斉にカバンへ手を突っ込んだ。誰もが分厚いフォルダーを取り出そうとする。
「ここでみんな一斉にゴソゴソするのも不便でしょうから、この後すぐ外に貼り出します。それを見て行動をお願いします」
竹本隊長がその動きをハキハキとした口調で制止する。
私も含め、全員が「あ、そうですか」とばかりに素直にフォルダーを閉じた。
誰と相部屋になるのか。
それは、外に貼り出される紙を見るまでのお楽しみらしい。




