呑兵衛の本気
ドヴェルグの建築法は上の人間からしたら全く参考にならない、っていうより実現不可能なのが正しい言葉だろう。
ツヴァイからゴーサインが出たドヴェルグたちは、まずシュミット親方の前に整列する。
「よし、オメェら今夜の褒美のために一肌脱ぐぞ!!」
「「おぉー!!」」
「速さも大事だが質は絶対に落とすな、いいか?手抜きでもしてみろ?褒美は抜きじゃあ」
「「うっす」」
「じゃあ、仕事始めの儀じゃ」
親方が言うと、全員懐からフラスクを取り出す。
「「主よ。我ら主の御手により創られし者、我らの誓いを聞きたまえ。創り手としての名誉と理に則り、一切の手抜きは許さず、持てる力と技を尽くすことをここに誓う。主よ、我らに加護を。主よ、我らに奇蹟を」」
ドヴェルグたちが全員揃って宣誓した。迫力もすごいが、一言一句揃っていることから言い慣れているのだろう。
感動で感慨にふけそうな流れだったのに宣誓仕切ったドヴェルグたちはフラスクを一斉にグイッとあおり、プハァを決めているではないか!
この呑兵衛たちを本当に頼って良いのだろうか?
フラスクの中身を知っている私はほんの少し不安になった。
そんな私の一抹の不安は誰にも届かず、ドヴェルグたちの目はやる気に満ち溢れ、テキパキと動き始めた。
ツヴァイたちに手招きされた私たちはクラインたちの建築の様子を見学することになった。
クラインは地面に箱を置き、それに乗って映画で見るようなスクロールを腰のポーチから取り出した。
クラインはスクロールから手を離した。
ただ、スクロールは地面には落ちず、彼の腰の高さで静かに宙に浮かんでいる。
彼の開いた左手が淡い光を帯びると、スクロールの紙面が少しずつ動き出した。
それと同時に、前に突き出された右手から糸のようなものが飛び出し、家の骨格のようなものがうっすらと浮かび上がった。
私の予想では、スクロールには図面が記されており、左手の光がそれを読み取っている。
そして右手から放たれた糸のような光が、その設計図を空中へ立体的に描き出しているのだろう。
後で、クラインに聞いてみよう。
その間にジャンヌさんたちをはじめ、アールヴたちが馬を使って資材を運び始めていた。
地面に置かれた資材は魔法の力なのか、綺麗に分別され始めた。
クラインの横で待機していた二人のドヴェルグたちは地面に置かれた丸太や石などの資材を確認すると、腰のポーチからスクロールと工具箱を取り出した。
彼らの横にスクロールが浮いているのは同じだが、左手は資材に添えられ、右手は工具箱の上で輝き出した。
片方が木材担当、もう片方が石材担当なのだろう。
工具類が箱から浮かび上がると、丸太の皮剥ぎ、整形、削り出しが進む一方で、石も削り、整形、研磨掛けなどがすさまじいスピードで進む。
それぞれの大きさや長さ、形状も少しずつ違うが、ミスというより、出来上がった物を見る感じ、カタログ通りにそれぞれ作られているのだろう。
クラインの右手の糸が出来上がった資材を蜘蛛の糸の如く引き寄せ、組み上げ始めた。
クラインも、組みあがる基礎やら柱を指差し確認している。
他のところを監督していたシュミット親方が駆け足でクラインたちのところへ近づくと、出来たばかりの基礎を大槌でいきなりフルスイングした。
ドカンと大きな音がして地面と空気が揺れた。
いきなりのことに全員ビクッとしたが、基礎には傷ひとつなく、柱とかはぴくりとも動かない。
「北東の14番が少し甘い、そこを直したら続けろ」
シュミット親方が完璧そうに見えた柱の一つを指さすと、次の現場へ駆けて行った。
私にはどれが十四番なのかさっぱり分からない。しかしクラインたちは一瞬で理解したようで、一本の柱へ駆け寄った。
その柱と周りの基礎が取り外されると、手作業で細かい調整をし始めた。
魔法よりは遅いが、人間の工事より数倍速い手作業。
満足できる結果ができたのか、もう一度組み直された北東14番の柱。
そこから床や壁、窓、そして屋根が完成する。
「本当に30分以内に出来上がっちゃった」
時間をスマホで測っていた佐伯准教授の画面には、27分37秒の数字が映っていた。
私たちの目の前には、仮説としては立派すぎる瓦屋根を持った和風の木造二階建ての家、というよりも邸宅が鎮座していて、現在はアールヴたちが中に資材を運び込んでいる。
工事を終えたクラインをはじめ、ドヴェルグたちは出来上がった家を背後にフラスクをあおって一服すると、すぐに次の現場へ向かった。
「このように、ドヴェルグたちは建築が非常に速いです。これらは仮設の家なのでいつも以上に早かったですね」
ツヴァイが満足そうに頷いた。
これを日本や世界の工事現場の人が見たらひっくり返るだろう。
帰ったら父さんにも教えよう。一つ、土産話が出来ちゃった。




