ウェーイとヒーハー
「おう、少し早いな」
焚き火で肉をナイフで焼いていたドヴェルグが降りてきたツヴァイに声をかけた。
低くて酒焼けしたような掠れ声だが、不思議と迫力のある喋り方だ。
「先に一部の人たちを連れてきました。ミーシャが残りを連れてくる予定です」
「あの子に任せて良かったんか?」
「あんな感じですが、根は真面目です…、なはず…、だと思いたい」
だんだん声が小さくなっていくツヴァイを見て、少し学者さんたちのことが心配になった。
「皆さん、こちらはシュミット親方です。土木工事では右に出る者がいない程の強者です」
「おっほん。煽てても何も出んぞ」
紹介されたシュミット親方はポーカーフェイスのように見えたが周りのドヴェルグたちが男子高校生みたいに、
「お、照れてんな親方」
「ヒューヒュー。親方、随一ですって」
「“おっほん。煽てても何も出んぞ”ですって、奥さん。かぁー、真顔でよく言えますこと」
怒涛の悪ノリとツッコミが入ってきた。
シュミット親方は、これがいつものことなのか、あるいはスルースキルが高いのか、涼しい顔で受け流していた。
「オメェら、事実だからって嫉妬は良くないぞ」
ドヤ顔で周りのドヴェルグたちを逆に煽り返すと、周りから“おぉ〜”やら“ヒューヒュー”と歓声が上がった。
ドヴェルグみんながこうなのかはわからないが、ノリは男子高校生っていうより、居酒屋で酔っ払ってハイになったおっさんたちみたいだ。
「シュミット親方、ジャンヌさんたちは?」
未だにワイワイと煽り合っていたドヴェルグたちの会話をぶった斬ってツヴァイが訊ねた。
「知らん、どうせそこら辺をほっつき回ってるんだろう。なんて綺麗な草なんだ、なんてのたまいながらな」
シュミット親方がペッペとしながら返答した。
ジャンヌさんたちが誰かは知らないが、ドヴェルグのブーイングや親方の渋い顔を見る感じ、仲良くないのだろうか?
「う〜ん、彼女らがいないと建築が遅れるのでは?」
ツヴァイが周りを探しながら心配そうにいうと
「ふん、あいつらが居ても居なくても作れるから全く問題ない」
腕を仰々しく組むシュミット親方の背後から“そうだそうだ”やら“いよ〜、カッコいいぞ!親方!”っていう声が飛んでくる。
本当にこの人たちがシラフなのか怪しくなってきた。
一連の会話を微笑ましそうに眺めていた竹本隊長が突然目を顰めた。
「アレは?」
悩ましそうにしていたツヴァイに声を掛けた。
竹本隊長の指差す方を見ると、遠くから雪ぼこりを上げながら近づいてくる一団があった。
「あぁ、ジャンヌさんたちですね」
ツヴァイがほっとした様子で答えた後ろで、シュミット親方を含め、ドヴェルグたちが聞こえない大きさの小声でブツブツと悪態をついていた。
「お〜い」
なんだか聞き覚えのある声が遠くから聞こえた。
同じことを思ったのか、ツヴァイの顔からフッと穏やかな表情が消え、険しい表情が浮かんだ。
大量の蹄が産む独特の地響きが耳に届く。
近づいた一団をよく見ると、各馬の背に騎手と見覚えのある人たちが必死に騎手の腰に手を回していた。とある一人を除いて。
「いや〜、楽しかった」
ヒラリと黒馬の背から軽やかに飛び降りたミーシャが背伸びをしながら宣言した。
「我らも、久しぶりに友を走らせることができ満足だ」
ミーシャが乗っていた馬の騎手もポンポンと馬を撫でると、馬も楽しそうに嘶く。
「ミーシャ?」
ツヴァイのこめかみに青筋がピクピクと浮かんでいた。
「んあ?あぁ、ちょっとね、スキムロードを体験してもらったらねちょうど良いところにジャンヌさんたちがいて、乗せて貰ったのにゃ。ね?」
「うむ。友が走りたかったのでこの平原を走らせていた所居合わせたので」
馬から降りた騎手、おそらくこの方がジャンヌさんなのだろう、の背後で学者さんたちが手を借りながら降りていた。
ほぼ全員が腰が抜けたのか、あるいは乗馬未経験から起きる内股死亡事故で、雪の上で大の字になって倒れ込んでいた。
佐伯准教授がいそいそと彼らの様子を見に行っている間、ツヴァイがミーシャとジャンヌさんを正座させて説教していた。
説教されている本人たちは、なぜ説教されているのか分かっていないのか、不思議そうにツヴァイを見ていた。
悪気はないのだろうけれど、生真面目なツヴァイは苦労人だな。
私はそっと同情しながら、わちゃわちゃが収まるのを眺めていた。




