Enchantée
街の方から近づいてきた人影は、近づくにつれ明らかに人間ではないことが分かった。
人間のような高さで二足歩行をし、厚い冬服を着込んでいるが、特に目を引くのが尾骨辺りから伸びる尻尾。そして、頭頂部に生えている犬や猫のような一対の耳。
竹本隊長は彼らを知っているらしく、友達のような雰囲気で話していた。
向こうが使っている言語は初めて聞く言語で、何を言っているのかは分からないが、竹本隊長が日本語で返答していたので半分は理解できた。
知らない言語と日本語で自然な会話をしている不思議な光景だったが、推測できるのは、表情や雰囲気から察するに、久しぶりの再会を喜んでいるらしいことだ。
意味やら内容は全く分からないが、クラシック音楽のような音楽性があって綺麗で聴き入ってしまいそうな感じだ。
「あの尻尾、耳どうなっているんだろう。声帯も気になるなぁ」
隣に立っていた佐伯准教授が呟きながら熱い視線を二人に送っていた。
ただ、それは恋愛のような感じではなく、学者、医者として非常に興味がある様子で、今にも触診しそうな勢いだった。
ひとしきり言葉を交わした後、竹本隊長が二人を紹介した。
「こちら二人は私の知り合いです。こちらの女性がミーシャ」
「イェーイ!」と、猫耳の女性が満面の笑みで両手をピースサインにした。
「それでこちらの男性がツヴァイだ」
ミーシャのお調子者な感じとは対照的な真面目な男で、今もお辞儀しながらミーシャの軽い様子を見て、青筋がピクピクと動いていた。
「先ほども言いましたが、人数の関係から今日全員にDカードを取得して貰うのは困難なので、前回ここに来た自衛官、研究者、そして教授方そのグループが取得してください。他の方々は明日、取得をお願いします」
竹本隊長が言うとミーシャの方を指して
「Dカードを今日取得する組は彼女について行って自衛官がナイフをお渡ししますのでスライムを探して先ほどの手順で取得してください」
一行の3分の1ほどがゾロゾロとミーシャについて行った。
残った私たちに竹本隊長が声をかけた。
「今日は、翻訳機をお渡しします。明日、皆さんにもDカードを取っていただくのでそこまでは辛抱してください」
そういうと、mp3レコーダーのような機械を手渡し始めた。
大学派遣団の中で唯一Dカードを持っていた須加さんはツヴァイさんと会話をしていた。
ツヴァイさんがユキのお腹をワシャワシャとしている様子から、ユキについて話しているのだろう。
翻訳機を受け取った私の耳は急に彼の言葉が分かるようになった。
「ユキちゃんはあなたの事が大好きみたいですよ」
「え、本当?良かった」
このツヴァイさんは犬と意思疎通が可能なのか!羨ましい!
っていうか、何しょうもない話に花を咲かせているんですか須加さん?
あなた、科学者でしょ?
もっと、中身のある建設的な会話をしなさい。
全員に翻訳機が行き届いたことを確認したツヴァイさんが、もう一度ユキを撫でると、姿勢を正し、軽く頭を下げた。
「皆さん。カルタリアへ、ようこそ。由緒あるエクサーゴ家の四男。誇りあるヴァルスリッドの戦士です。ツヴァイと呼んでも全く気にしませんので気軽に声をかけてください」
ツヴァイさん、もとい、ツヴァイが騎士みたいな堅苦しい口上をしていたが、声色は優しめで不思議と落ち着くような感じだ。
「皆さんは明日Dカードを取得するとのことですので、先に街の方へ案内しますね。何か質問があれば可能な範囲でお答えします」
そう言うと、一手を差し伸べた。
「初めまして。肥後大学の准教授、佐伯です」
「タメ口で良いですよ佐伯さん。私は特に偉い人という訳ではないですし、今日からは良き隣人、もしかしたら友人になるのかも知れないので」
そう言われた佐伯准教授は一瞬戸惑ったような様子を見せたが、いつも学生に見せるような大きな笑顔を見せた。
「そうだな。私含め、ここにいるみんなもタメ口で良いのか?」
「えぇ、もちろん」
一連の会話を聞いていた私たちは小さい歓声をあげ、拍手をした。
今のところ、ここの住人、まぁツヴァイは、人の良さそうな感じだ。
他の住人も似た感じだったら良いなぁ、そう思わず独りごちた。




