メインヒロイン、始動!!
自分の人生はなぜこんなにも上手く行かないのだろう。
自分の凡ミスで先輩研究員が事故死してしまい、業務上過失致死罪に問われかけた。
ただ、会社の機転で先輩の手違いによる事故として扱われたため、無罪放免となったが、研究所内では腫れ物扱い。
数ヶ月後には異動という名の左遷で地方の部署に移ることとなった。
異動の命令書が来たとき、私は退職届を出した。
哀れみ、不快感、そんな視線を向けられながら出た私は数週間アパートに閉じこもっていた。
やる気も起きないし、人生に希望を見出せなかった。
見かねた親が私を引き取りに来て、地元熊本に戻ってきた。
久しぶりの地元は新鮮で居心地が良かった。
ただ、父親は私に心傷を癒す時間も与えず、大学の研究員として雇った。
大学内の権力者としてそんな理不尽も通せるのが私の父さんだ。
ただ、そういうわけで入れられた私に近づくのは媚を売りたい人ばかりでうんざり。
「牧田さん、研究資料まとめておきましたので」
「牧田さん、教授の好きなお酒買っておきましたので渡しといてください」
こんな感じが数ヶ月続くと嫌になるのは当然だ。
そんな中、世界が一変した。
ダイニングのテレビには、ダンジョンなどという空想上のものが現れた、などという耳を疑うような報道が流れていた。
世の中がすごいことになったな、そう他人事のように思いながら職場に行くと、珍しく誰も自分に媚びずにダンジョンの話をしていた。
1週間近く経っても職場ではダンジョンの話しか出てこない。
この大学の近くに件のダンジョンが見つかったからだろう。
小銃を持った自衛隊員、盾を持った警察官が物々しい雰囲気を醸し、一帯を封鎖していて、医療関係者や大学関係者など以外は一般人の通行が禁止なのだ。
発見された場所は中心部の大きな道路が交わる交差点だったので、多くの市民は通行禁止の発表時に反対したが、県知事は有無を言わさず封鎖を続行した。
そんな中、
「ダンジョンに1週間近く滞在しないか?ということ?」
私は父さんに尋ね返した。
「あぁ、まぁ一度話を聞いてみろ」
私の不満げな顔を見て、苦笑しながら宥めた。
「これは、極秘情報なんだが、この熊本で見つかったダンジョンは結構特殊なんだ。ほれ」
そう言って渡されたタブレットにはアニメや映画でしか見たことのないような写真が複数写っていた。
「数日前、大学に行かなかったのだが、そのときにダンジョン内に入った。その時の写真だ。見ての通り、住人もいるし中々の街もある」
父の説明と写真の内容で頭がパンクしそうだったが、なんとか立て直した。
「それで、胡散臭いかもしれないが、ここには魔素と言われる未知の物質があるらしい」
それを聞いた私の中の化学屋が首をもたげた。化学者の中でも一定の権威である父さんが未知という場合、本当に分かっていないであろう。
「そこの住民は無害だと言っており、我々が数時間滞在しても特に問題は見つかってない。だが」
父さんはそこでグッと前屈みになった。
「長期的なことなどは分からない。そこで自衛隊のお偉いさんが研究者を含め1―2週間を目処にダンジョン内に滞在すると決めたらしい。父さんの手で色々調べたいが、大学の教授で、学部長だ。長期間離れられん。そこでお前さんだ」
父さんは私の肩に優しく手を乗せた。
「唯香、東京でのことは不運だった。忘れろとは言わんが、それを教訓に成長しろ。自衛隊から大学に研究グループの派遣を打診されたから、その一員になってほしい。教員じゃないからリーダーとかにはできないけどこれを機に飛び立って欲しい。どう?」
父さんの提案は非常に魅力的に感じた。希望の光に見えた。
けど、研究者として、人としてしてはいけないことをした私にそんな資格はあるのだろうか?
「唯香」
その声は教授としてではなく父親としての声だった。
私は思わず俯いた。
そんな私を見て父さんは静かに抱き寄せた。
「唯香がどう思われようが、父さんと母さんはいつでもお前を支えるし、助ける。嫌なら嫌でも全く問題ない。お前の判断を尊重するから」
父さんの腕の中で私は一雫の涙を流したがすぐに拭いて顔をあげた。
「父さん、私行くよ」
父さんは私の顔をじっくり見た。
「本当にいいのか?」
「うん!ありがと!」
私はギュッと父さんを抱きしめると父さんも優しく
「頑張ろうな、唯香」
そう、優しく呟いた。」




