匂うぞ、芳しいネタの匂いが
週刊文藝冬夏の夏苗デスクはヤキモキしていた。
日本を含め、全世界が急激な変化で混乱している中、記者たちは全く良いネタを持って来ない。
海外のニュースは大手の報道会社に負けるため、日本のダンジョンについて情報収集をしていたが、全くのハズレ。
机でタバコを吹かしながら今日も今日とて渋い顔で記者たちのつまらないネタに目を通していた。
やはり、何も無いな。そう思って、最後の報告書にも希望を持たず、軽く目を通した。
そして、手が止まった。なになに?
タブレットを下ろそうとしていたが、再びじっくり目を通した。
読み終えたときには口に咥えたタバコの火が消えていたが、それにも気付かず熟読していた。
顔を上げて、夏苗は深く息を吸い込んで、タバコの火が消えているのにやっと気付いた。
不思議とイライラした気分にもならず、灰皿に吸い殻を捨てて新しいものに火をつけて深く吸い込んだ。
まだ不確定な情報が多いし、最終的な行き先は不明ではあるが、記者だったときに養った勘がこの線を追えと囁いていた。
一瞬、悩んで机の電話を手に取った。
「それで?」
「いや、中々に追及のし甲斐がありそうな内容だと思って」
夏苗が言うと、千崎編集長はグラスの水を一杯飲み干した。
「確かに、日本全国に多くのダンジョンが出現した。そんな中多くの大学教授、専門家たちが新宿ではなく、熊本のダンジョンに向かっているのは分かった。ただそれだけではスクープにはならん」
電子シーシャを吹きながら千崎編集長はソファーに腰掛けた。
「えぇ、直近の週刊誌には載せられないですが、複数の記者を送って嗅ぎ回してきた方が良いのかなと思いまして」
夏苗の言葉に千崎は数秒間黙り込んだ。
室内には電子シーシャの音と千崎が机をゆっくりと指で叩く音だけが響いた。
千崎が何を考えているかは全く分からないが、夏苗はこの静けさが非常に居心地が悪かった。
「分かった、数名増員をしよう。若い衆も派遣しておく。ただ、その代わり」
千崎の目が射殺すかのように鋭くなった。
「徹底してバレないように探れ、良いな?」
「はっ」
夏苗は深く、深く礼をした。




