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どうしよう?どうしよう?

結局その日は迷宮には潜らず、カルタリアの視察(観光)で終わった。

ただ、彼らの持って帰ってきた情報量の多さと異質さに、彼らの報告書を受け取った松殿首相は頭を抱えていた。

夜中の2時にも関わらず緊急招集された閣僚たちも皆一様に険しい顔をしていた。

「この魔素酔い、他のダンジョンでも観測されれば非常にまずいですね」

長井官房長官が呟いた。

「そういえば、現在の中国軍がモンスターに侵食された土地への反抗作戦が上手くいっていない理由として、多くの兵士が急に意識を失ってしまうかららしいです。原因不明物質によるものとしてガスマスクで対応しているらしいのですがあまり上手くいっていないとか」

波多野防衛大臣が思い出したかの様に切り出してきた。

「これが高濃度の魔素による魔素酔いであるならば色々と説明はつきますね」

松殿首相はこめかみをさすりながら頷いた。

中国で発生したモンスターの侵略は今のところ拡大の一途を辿っている。

多数の犠牲を出しながらモンスターの侵攻を食い止めようとしていたが、うまくいっていなかった。

先日にはついに戦術核兵器が投入されたが、どういう訳か投入された地域には放射能汚染どころかアルメリヤ軍の軍事衛星写真では、焼け野原になっているはずの地点が、数時間も経たずに鬱蒼とした密林へと変貌していたことが確認された。

情報共有してきたアルメリヤ人は努めて無表情だったが、国内の諜報機関、軍の蜂の巣を突いたかの様に急に活動を活発化させている所を見るに、結構動揺しているのだろう。

なんせ核兵器を無効化できる生き物が出てきたのだ。そりゃあ焦るだろう。

「高濃度の魔素への順応、スキルの取得と習熟、モンスター戦闘の基礎。それらが全く無い状態で戦えばそりゃあ負けますな」

朽木統合幕僚長が息を吐きながら頭を掻いた。

「それに、強いモンスター相手に銃や爆弾が全く意味をなさないとはなぁ」

モンスターに関する軽い授業を受けた隊員からの情報だと、モンスターを倒すと倒した武器も強化されるらしい。そして、銃でモンスターを倒した場合強化されるのはトドメを刺した弾頭のみで、さらに言うと飛翔性の攻撃は魔素で強化された物を除き上位のモンスターには効かない傾向にあるらしい。

「なんだったけな…えっと、あった。“多くのモンスターは魔素で覆われていてそれが装甲みたいになっていて、それを魔素で飽和もしくは中和させて攻撃を通すしかない” 、でしたね」

「厄介なものですよ。そりゃあミサイルとかが効かないわけですよ」

朽木と波多野は同時に深いため息を吐いた。

二人の会話の後は紙を捲る音、ペンの走る音だけが会議室に響き渡った。

松殿首相は腕を組みながら天井を睨んでいた。

「どうします首相?国際社会にこれ報告します?」

不意に長井官房長官が尋ねてきた。

「報告をしたいのはやまやまだが、した場合確実にカルタリアの存在が明らかになる。それはそれでより大きな国際問題になる」

「えぇ、ただ教えなかった場合、犠牲者がただ徒らに増えますし、同盟国に“隠していた”ことがバレれば、外交問題では済みませんぞ」

そんなことは百も承知で、“全て隠す”なんてことはしない。

「カルタリヤが露見しない程度に少しずつ情報を出していきましょう。出し過ぎても怪しまれますし、ちょうど良い塩梅を探りながら情報提供しましょう」

「怪しまれた場合は?」

「同盟国以外はシラを切りましょう。同盟国にも引き延ばしつつ限定的に共有しましょう」

一番の大立ち回りをしなければならない波多野外務大臣を除いて、殆ど皆んなが一斉に頷いた。

「いつ、国民には?」

長井官房長官がメモを付けながら尋ねる。

「治安維持の自衛隊や警察が魔法使用のノウハウ、管理が出来るまでは一律に情報を制限します」

「自衛隊日報なども軍事機密の観点から内容のボカシ、情報統制を行なった方が良いのでは?」

「広報にはそういう風に伝えときます」

波多野と朽木が頷き合う。

「えっと…私は?」

今までずっと成り行きをハラハラと見つめていたとある男が手を挙げた。

「島さん、申し訳ない。島さんには新たに設置するダンジョン対策局の長官を頼みたいのです」

松殿がそう伝えると、島さんの目が爛々と輝いた。そんな様子を見て一同はほっこりした。

「私で…良いのですか?」

「えぇ、島さんが最適だと私は考えました。ていうかやりたいでしょ?」

「もちろん!!ありがたき幸せ!!」

そう、この男、島さんこと島 信勝は45歳の若さで参議院議員になったやり手の男だが、彼はゲームやら映画、小説が大の好物だと公言している。

そして、彼は党内外屈指のファンタジー好きだ。彼の優秀さやこれらのことを踏まえ、彼以外にこの役職を任せることはできないと松殿は考えていた。

「関係してくる省庁から職員の異動、募集をかけます。ゆくゆくは一つの省庁になるかもしれないので、どっしりと腰を据えてお願いしますね」

「はい、分かりました」

島は一礼をしたが、鋭い眼光を首相に向けた。

「私はすぐにでも熊本に?」

松殿は頭を横にふった。

「いや、参議院議員でもあるあなたが急に熊本に向かうのは要らぬ詮索を呼ぶ。まず、あなたを局長に指名したことを公表します」

「記者会見の後、まずは新宿のダンジョン視察をしてもらいます。その後全国のダンジョン視察との名目で熊本の方に向かわれた方が色々と工作ができます」

松殿と長井の説明にメモを取っていた島は頷いた。

「了解しました」

お辞儀した島の目にはメラメラと火が灯っていた。


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