情報収集中
「お久しぶりです、先日はドタバタして申し訳ないです」
竹本はバイサスさんと先日会った会議室で握手を交わした。
「いやいや、色々大変でしょうから。さぁ、お茶を」
「お心遣い、感謝します」
一同はお茶を一服すると、政府の外交官、梶原さんが竹本に目配せして来た。
「バイサスさん、こちらは日本国から来た国同士の交渉などをする人、外交官の梶原由花さんです」
「梶原です、お見知り置きを」
「あぁ、どうもカルタリアの市長、バイサスです。よろしくお願いします」
梶原さんがビジネスウーマンの癖で名刺を渡しているが、受け取ったバイサスさんは不思議そうに眺めていた。
「それは名刺と言って、初対面の人に渡す自己紹介用の紙と思ってくれれば良いかと」
「へぇ〜。上の世界はこんなものを使っているんですね」
バイサスさんがマジマジと名刺を眺めていると、パチンと指を鳴らすとバイサスさんの指の間に名刺らしき紙が現れた。
「では、こちらが私の名刺です」
梶原さんに渡された名刺を見ると、こちら側の文字で書かれた名刺が出来上がっていた。
梶原さんが驚きで固まっているのを他所に、バイサスさんがキラキラと目を輝かす研究者たちに目を向けた。
「こちらの方々は?」
「こちらは、我々の国の学者たちです」
竹本に話を振られた研究者たちは急いで頭を下げる。
「ふむ。では彼らには我らの研究館と学芸館に行ってもらいましょう。我らの識者たちにとって良い刺激になると思います」
「良いのですか?」
再起動した梶原さんが恐る恐る訊くと
「えぇ。特に隠す理由もないですからぜひ見ていってください」
バイサスさんが笑いながら肯定してきた。
背後でDカードを確認していた牧が竹本に耳打ちした。
「上は魔素酔いについてもっと報告をしてほしいとのことです。あと、迷宮探索は急務ではあるが、探索困難と判断した場合はその判断は尊重するとの事らしいです」
静かに頷いた竹本は学者たちと談笑していたバイサスさんと目を合わした。
「本来、こちらの迷宮に入る予定でしたが、魔素酔いなるものや探索許可証が必要と聞きました。もう少し詳しく話を聞きたいのですが」
「あぁ、迷宮ですね。えぇ、確かに迷宮に入るには探索許可証が必要ですね。迷宮は非常に危険な場所なのです。生命の保証がない場所なのですよ。言わば自分の命をチップにしたハイリスク・ハイリターンのギャンブルです。そんな場所に誰彼かまわず入れるわけにはいかないので、きちんと迷宮がどんな場所なのかを理解するための座学と罠やモンスターの基本的な対処法などを修得した証明書が義務付けられているんです」
「それを取得するにはどれくらいかかりますか?」
「最短で1週間ですね。ただ、皆さんスキルや魔法の使い方を習ってないので最低でも1ヶ月掛かるかと」
それを聞いた竹本と城島は静かに合意した。今回、迷宮に入るのは無理だな、と。
「あと、魔素酔いは魔素の濃度に順応しなければ大変なことになります。迷宮の1層はここの濃度より高いので皆さんは確実に魔素酔いを起こしますね」
黙り込んだ自衛隊員をよそ目に梶原さんが口を開いた。
「先ほど魔法やスキルについて仰っていましたが、それは誰でも使えるものですか?」
「えぇ。魔素の消費の仕方や操作の方法を学んで練習すれば魔法やスキルの使用はひとまずクリアです。具体的なスキルや魔法はこれを使わないといけません」
そういうと、机の中からタバコみたいなものと薬のようなタブレットを取り出した。
「迷宮でモンスターを倒したり、宝箱を開けたりすると極々稀にこのようなスキルカートリッジというものが見つかります」
そう言いながら、タブレットみたいなものをバイサスさんが見せた。
「ただ、鑑定をしなければ、どういうスキルかは分からないので、すぐの使用はお勧めしません。呪いのスキルというものもあって、全てのスキルが良いものとは限らないのです。鑑定は無料で行えるのでそこで欲しいスキルが手に入れば吸入器にタブレットを入れて1分ほど吸えばスキルやら、魔法やらが手に入ります」
タバコの様なものにタブレットを入れて吸う真似をした。
「これはダミーですが、吸えばタブレットは無くなります」
バイサスさんが吸入器を机に置くと一息付いた。
「スキル取得時はほぼ確実に魔素酔いになりますね。高濃度の魔素を取り込むので。魔素に慣れていなければ結構キツイですね。あと、強力なスキルや魔法になればなるほど取り込む魔素の量が比にならないので絶対に迷宮内では使用しないでくださいね」
バイサスさんが真剣な顔で念を押した。
話を聞いていた学者の一人が手を挙げた。
「えっと、そのスキルカートリッジは手に入ったらずっと残る感じですか?」
「いや、ドロップしてから48時間で消滅します。なので、使いたくないものだったら放置でも良いですが、探索者ギルドはスキルの買い取りをしているのでそこに売るのもありです。もしくは、賭けをしたい場合はオークションに出しても良いですよ」
バイサスさんがDカードを見せながら説明した。
そこには迷宮競市という名のアプリが起動しており、そこには迷宮のドロップ品が競りにかかっていた。
その中でも特にスキルカートリッジは高額で取引されていた。
Dカードを持っていた人の画面を覗き込む中、竹本はバイサスさんに小声で
「地上には他のダンジョン・迷宮が出現しているがそこに突入した隊員は魔素酔いを起こさなかった。ここは少し違うっていう事ですか?」
「ふむ。他の迷宮については深く存じ上げないが、深くには入ってないのだろう?恐らく浅い層では魔素が薄いのでは?このカルタリアみたいにね」
そういわれれば確かにそうかもしれない。竹本は一人静かに納得した。




