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国会討論

ダンジョンが出現して1週間が経過した。

世界各地でダンジョン発見が相次ぎ、危険を顧みずに突入した一般人が死んでしまう痛ましい事件も数多く起きている。

中国で発生したモンスターの大量出現(モンスター氾濫)は収束の目処が付かず、逆に隣国のモンゴリアとルース連邦にまでモンスターが進出する事態になってきた。

人の被害は初動の逃げ遅れた民間人千人とモンスターとの戦闘による2千人近くの軍人が死亡しているらしいが、実際はそれ以上だと考えられている。

モンスターが通った場所は、衛星写真などによると、人工物の一切がまるで最初からなかったかのように消え去った様子だという。

さらに、未だにモンスターの特徴や習性などは分からない状態だ。

アルメリヤなどは支援の申し出をしたが、中国をはじめ、口出しは無用だと拒否した。

ここで当該3カ国は緊急で共同軍事作戦を展開し始めたが、今のところ好転の兆しはなく、拡大の一途を辿っていた。

一部報道によると、この1ヶ月で収束しなければ、中国は核兵器の使用を検討しているらしいが、真偽は分からない。

日本ではこれらの事態を報道各社がセンセーショナルに取り上げ、SNSでも大盛り上がりを見せていた。

そんな中、開催された臨時国会の予算委員会でも論戦の中心はダンジョン関連のもので一色になった。

「ですから。今発見されております、ダンジョンにつきましては、現在も引き続き自衛隊の方で安全性や危険度を精査しております。安全性の担保が確約出来ない現状、民間人への開放は今の所考えておりません」

松殿首相は、一礼しながら席についた。

その返答を受け、質問者の野党党首、澤口代表が手を挙げた。

「澤口くん」

「ありがとうございます。それでは、何を基準にこのダンジョンは安全なのか、危険なのか決めるのでしょうか?そして、もし危険と判断した場合、どのような対処をするのか教えてください」

松殿はチラッと手元のタブレットを見て、手を上げながらその質問に対する答弁を探した。

「松殿くん」

「基準につきましては、現在、現場の自衛隊と警察などと協議中のため、今お答えできませんが、数日中に仕上げる予定ですので少しお待ちください。危険だった場合ですが、Jアラートなどを活用した避難、地下シェルターを各地域に導入などを考えています。ダンジョンへの具体的なアクションは軍事機密となりますので、答弁を差し控えさせて頂きます」

その回答に議場がざわつき、一部の野党議員が――

「答弁になってないぞ!」

「対応が遅いんじゃないか?」

と野次を飛ばし始めた。

「静粛に!」

議長が注意を促した。

議場が落ち着くのを見計らった澤口が再び口を開いた。

「それらが、今回政府が追加で組んだ補正予算に含まれているとおっしゃることは理解しました。ただ、私が今回聞きたいのは、自衛隊は今回ダンジョンの中で武器の使用があったのではないのでしょうか?また、今後も自衛隊による武器の使用はあるのでしょうか?」

松殿首相は資料を確認し、静かに答え始める。

「自衛隊による武器の使用についてですが——」

議場が再び静まり返る。

「現時点で、国内で確認されているダンジョンにおいて、自衛隊による銃器等の武器使用はありません。自衛隊は、探索および安全確認のための最小限の装備を持ちつつ行動しておりますが、発砲、爆薬などの使用は行っておりません。」

「また、今後の武器使用の可能性についてですが、これは法律上、自衛隊法第95条の2に基づく治安出動の要件や、警察との役割分担を踏まえる必要があり、現在、内閣・防衛省・警察庁で調整を行っております。」

「仮に、ダンジョン内部において国民の生命・身体に危険が及ぶ事態、いわゆる人命救助や正当防衛に該当する状況が発生した場合に限り、必要最小限度の武力行使が検討される可能性があります。」

ここで一息置き、明確に言い切る。

「繰り返しますが、現段階で政府として積極的な武器使用を想定しているわけではありません。しかし、国民の命を守るため、あらゆる選択肢について議論している——この点だけは明確に申し上げます。」

議場は再び喧騒に包まれ、議長が制止しようと声を上げていたが、今回はヤジの声が彼の声をかき消していた。

収拾のつかない様子を眺めながら、松殿はSNSやテレビで荒れるだろうなと予想していた。

ただ、やらなきゃいけないことは自分が悪者になっても良いからすべきだ、そう腹を括っていた彼女は厳しい顔をしながらも堂々とした様子で野次を受け流していた。

紛糾した委員会はその後一時中断となったが、その前に澤口を始め、一部のベテラン議員だけが松殿首相の覚悟を感じたのだった。

堂々とした様子で退出する首相を、彼らは政敵でありながら政治家として感心していた。

今後も追及はするが、この場に限って、彼らは無言で送り出した。


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