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黒幕ってやっぱ怖い

さてはて、皆さんお久しぶりです。創造神様ことダンジョンマスターの天海碧です。

一年間苦心して創り上げたダンジョン都市はひとまずひと段落着いた。

最初は、どうしようか四苦八苦していたが、住民が増え出して気付いたことがあった。

そう、住民が増えれば増えるほどなぜかDPが増えるのだった。

一瞬バグかな?と思ったが、継続的にDPが増えていくのをみて俺は思った。

(・・・これ、使える)と。

そこで、DPを結構使ったが、一年という短い期間だけダンジョン内の時間を現実より早くする設定をつけた。

なんせ消費されるDPより生み出されるDPの方が圧倒的に多いからだ。

うん。まさに創造神様らしい行動だ。

日本での1日がダンジョンでは一年。住民にとっては一年だが、現実ではたったの一日。

するとなんていうことでしょう。

たった数人で始まった街が今では数万人が住む大都市になったではありませんか!

1年でこの伸びようは嬉しい想定外だ。

街のど真ん中になんかシンボルが欲しいなぁって考えた時に、よく漫画や小説とかに使われる北欧神話のユグドラシルが頭に浮かんできた。

試しにユグドラシル風の巨木を植えたら……これが思った以上に街に馴染みすぎて笑った。いや、予定調和ってあるんだな。

街に関しては、生前、行ったことのあるドイッチュラントのモンシャウ。

あそこは雪の景色が最高に綺麗で神秘的だったのを今でも覚えていた。

そこで、あそこを参考にしながら、ファンタジーらしくありながら、どの季節においても綺麗に映えるような街並みの建設に取り掛かった。

その時、街の住民にも参加してもらった。

依代がないから顕現はできないが、彼らの脳内に喋りかけることは可能なのでそこまで難しいことではなかった。

初め彼らは何をすべきか分かっていなかったが、かなりのDPを注ぎ込んで作っただけのことはある。めちゃくちゃ要領が良い。

種族の特性として、ヴァルスリッドが知識の収集、保存と共有、そしてリセリアが創造と芸術に価値を見出すという設定が良かったみたいだった。

彼らの要望を取り入れながら、現実の街の便利さとファンタジーらしい神秘的な要素が絶妙に交わる不思議な街が出来上がった。

強いて悪い点は、ダンジョン都市を作った代償にダンジョン自体の深さはかなり浅い。

ダンジョン都市カルタリアの下に迷宮ユスカル。なんだかマトリョーシカみたいなことになっているが、これにも理由がある。

現実の人たちだけが探索していたら絶対に探索が遅々として進まないからだ。

世界に開かれる前にダンジョン都市の住民にノウハウを積んでもらうことで、外からの探索者がきた場合に伝授が出来る。

いや〜。我ながらすざましい価値のあるダンジョンを作り出せたものだ。

そして、世界に開放される前日。突如、エンティティが訪れた。

是非、前もって知らせてもらいたいが、こっちの驚いた顔を見て、なんだか達成感のある雰囲気を醸し出している感じ、頼んでも絶対に聞かないだろう。

「久しぶりだね、熊本のダンジョンマスター」

以前と同じく、漆黒のスーツ、アイも変わらず、何故か見えない顔。

ただ、今回は手にはワイングラスはなく、代わりになぜか映画館で見るようなポップコーンが大量に入っているバレルとストロー付きの飲み物を持っていた。

「私が個人的に面白そうだなと思うダンジョンの一つですので、開かれる前に一度訪ねておこうかと」

「いや、そりゃどうも」

エンティティが指を鳴らすと、どこからともなくピクニックテーブルと二つの折りたたみ椅子がボンって出現した。

机の上にはピクニックらしくサンドイッチやら飲み物やらが載っていた。

「まぁ、座ってくれ」

エンティティが椅子に腰掛けながらポップコーンをひとつまみした。

何が起きているのかよく分かっていなかったが、とりあえず素直に横に座った。

「やっぱり、人間って面白いですね。十人十色。ダンジョンマスターを元人間たちにして成功でしたよ」

一息ついたところに急にエンティティが切り出した。

「お隣の中華社会主義共和国連邦だったかな?そこのダンジョンマスターは生前よっぽど世界を恨んでいたのか、創ったモンスターで人間を殲滅しようとしているみたいでね。ダンジョンからモンスターたちを解き放って“地球から人間という存在を抹消する”って言っていましたよ」

エンティティはそれが面白いことかのように笑った。

(……いや待て。そんなラスボスみたいな計画が隣国で起きているって、笑えないんだけど)

生きてはいないとはいえ、これは怖い。普通に怖い。

「それに対抗できるのが、偶然ではあるが、あなたの創ったダンジョン都市ですよ。現状、モンスターと戦うノウハウ、魔法技術の使い方。それはどこにもない。ダンジョン都市を創ったマスターはあなただけ。いや〜、どうなるか楽しみですね」

自分の創ったダンジョン都市の価値がとてつもないことになっている。

嬉しい反面、なんだか心配にもなった。

「それを止めないのは何故って顔をしていますね。あなたは元いた世界、あそこを一言で言うとなんて言いますか?」

エンティティがストローに口を付けながら訊いてきた。

なんでそんなことを訊くのかわからなかったが、少し考えてみて、

「激動、ですかね」

俺の答えにエンティティは軽く頷いた。

「確かに、気候変動であったり、地政学的な緊張だったり。色んなことが起きている。ただね、それはいつも起きている事で特に今に限ったことではないんだよ。むしろ産業革命の時や第1、2次世界大戦の時の方が激動だったよ。」

そう言われてみると確かにそうだ、納得する自分がいた。

「私はね逆に、今は停滞しているって感じているのだ。技術的には進歩が見込まれるのはAIとかの方面ぐらい。それに付随して他の分野も進歩はするかもしれないが、そこで終わってしまうのだよ。経済なんて言わずもがな長い間停滞しているよ」

エンティティがポップコーンを机に置き、サンドイッチをパクと口に入れながら持論を展開し出した。

「私は停滞が嫌いでしてね。だから激動を与える。それが私の“仕事”であり“趣味”なんですよ」

そう言った瞬間、エンティティの周囲の空気が一段だけ重くなる。

趣味で世界を揺らすなよ……。

心の中で突っ込んだが、口には出さなかった。

「ダンジョンによって人間の破滅がありうる世界的な危機。その危機に対抗出来るダンジョン都市。ただ、そのダンジョン都市の社会的、技術的価値の高さからその取り扱いで大いに揉める国際社会。新たな技術、魔法によって進歩する世界。まさに激動だ」

エンティティは満足したのか、椅子から立ち上がり大きく背伸びする。

「まぁ、そういうわけで、君のダンジョンには期待しているよ。あと借金のことも忘れないでくれ。きちんと回収に来るから」

そう言って指を鳴らすと、エンティティが来た時と同様、突如消えた。

後に残ったのはご飯が乗ったピクニックテーブルと折り畳み椅子だけだった。

今、現実世界で生きている人たちがエンティティの趣味・仕事で振り回されると思うと可哀想だが、自分にはどうしようもない。

まぁ、創造神なんて名乗ってるけど、結局俺ができるのは祈ることくらいだ。

世界よ、どうかうまくやってくれ。


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