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一万年の復讐と黒い薔薇  作者: 空想人間
第2章 砂上にて舞う黒薔薇とひょっとこ
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第19話

 真於の虚無を映す瞳と、二上院ふたのじょういんと呼ばれた、長いツインテールブロンドヘア少女の鋭い視線がぶつかり合う。

 久弥は何がどうなってるのか分からないといった様子であるが、この場の落ち着きを取り戻そうとして二人の間に割り込んで必死の説得を試みる。


「落ち着け、落ち着けって! 俺たちは感染してないし、ただの人間だ!」

「ただの人間、のぅ……」

「――いいえ、今は貴方の正体の是非なんてどうでもいいの。黒薔薇、なぜ貴方がこんな所にいるのかしら?」

「はぁ」


 真於は一つ溜息をつくと、自ら視線を逸らし、彼女の横を通り抜けていく。

 まさか無視されると思っていなかった金髪の女性は、ムッとした様子でセバスと呼ばれた男に指を鳴らして指示を出す。

彼は目にも止まらぬ速さで久弥の後ろに回りこみ、あっという間にテイクダウンを済ませていた。



「おうおう、人質作戦かえ? 聡い選択とは思えぬぞ」

「ぐっ、ぁ!何する――」

「黒薔薇、私を無視したいと言うなら別に構わないわ。だけど、その行為は貴方の仲間の心臓を抉ることになるわ。お分かり頂けまして?」

「……」

「あ。儂もか。おーい!黒薔薇よ! 儂も The・人質じゃあ!」

「なんでいつも刀狩(百々刀)はこんなに緊張感ないんだ…? 俺たち人質だぞ……?」


 久弥はセバスに拘束されながら背中に短剣の切っ先が向けられており、百々刀に対しては金髪の女が手を向けている。

 能力を使って殺すことが可能であるという示唆であろう。


 無言のまま真於は振り向いたものの――大変面倒そうな顔つきであり、未だ緊張感も無く、何もしない百々刀に対して恨み言を呟く。


「なにやってんの。時間ないんだけど」

「まぁまぁ!儂ら前々回の代から十家と絡んでなかったじゃろ!いい機会だと思って会話しとくのじゃよ!」

「煩いわね。少し人質としての実感が必要かしら――」


 彼女が虚空上に指で線を描くと、百々刀はフガフガと何か言いかけて口が無理やり閉じられる。

 これは超然の能力によるもので、対象の言動を封じる行為であった。


「超然の前では距離など無いに等しい。分かっていただけたかしら? 貴方の心臓だって、簡単に捻り潰せるのよ」

「んー? んーんんんんーんん」

「……全然危機感なさそう」

「……セバス、その男の指、二本落として」

「畏まりました」

「嘘だろ!? 俺に来るのか!? 止めてく――ぐぁっ!?」


 久弥は必死に抵抗した腕を固められているため、抵抗の意味を成さない。

 真於に助けを求めても、もはやこの距離では遅い。

 指が無くなる――!?


「あ、指痛くない……ありがと黒薔――」

二上院ふたのじょういん、邪魔。帰って」


 関節を固められて、動けなかったはずの体が動く。

 ドサリと隣で倒れる音を振り向けば、先程久弥を拘束していた男は泡を吹いて意識を失っていたのであった。

 真於の能力、《刀気》というものだろう。

 思わず感謝を叫ぼうと思って彼女の姿を仰ぎみて――絶句する。


「っ!? 何をしたの!?」

「二度は言わないから」

「んんー、んんー!んんんー!」


 感情のない声で圧倒的な存在感を放つ姿に、久弥も二上院と呼ばれた人間も恐れを抱く。

人間の形をした化け物と向かい合ってるような圧倒的な実力差を実感し、言い返すどころか視線を合わせることすら出来ない。


「ほれ、なんか言うたらどうじゃ。もしくは大人しく踵を返すのもいいぞ」

「っ、……どういうことなの。完全に封じたはずなのに……」


 圧倒的優勢だと思っていた金髪の女性は一瞬の形勢逆転に付いていけず、困惑した声を上げてしまう。

 真於はあまりにも冷たい極寒の瞳で彼女を見つめており、恐怖のためか彼女の足はガクガクと、震え始める。

 十家として様々な相手と敵対したからこそ分かる、圧倒的な実力差だ。逆らってしまったその瞬間、刹那のうちに殺されることは明らかだった。

 今までとは明らかに違う雰囲気に飲まれ、数歩下がる。


二上院ふたのじょういん

「っ――」

「帰って」

「それは……っ、嫌……よ」

「ほーん、言いたいことがあるようじゃな。真於や、少し緩めてれ」


百々刀の一声で一気に重圧が軽くなり、息を詰まらせてた久弥も二上院もようやく呼吸が許可されたように感じ、一気に呼吸が荒くなる。

一通り落ち着いたあと、二上院は震えた声で語り始める。


「助けに、きたのよ、この場に閉じ込められた人をっ! でもダメだった! みんな死んでるか……ゾンビになってるかだった!」


 額に汗を浮かべながら、必死の表情で真於に食らいつくが、あまりにも彼女の反応は薄い。

 十家の第二位を目の前にしても圧倒的な存在感の差を見せつけられ、金髪の女性は悔しそうに手を握りしめ、そして実感した。

 この黒薔薇と思わしき人物は、叔父の語りでしか聞いたことの無い伝説上の人物は、きっと彼女のことを言うのだろう。


 ――だから、おじいちゃんはあんなに怯えてたんだ――


「他の十家は?」

「……っ、一天上いってんじょう以外皆避難したわっ、私がここに来たのはただの勝手! だからお父様やお母様は何も関係ないわっ!」

「……あの様子だと本物の十家でも、黒薔薇にはやっぱり敵わないのか?」

「まぁまず無理じゃろうな。真於と儂は今と一世代前の子を知らぬとはいえ、十家に深く携わっておる。彼奴の発言はせめて家だけは守ろうとしての言動じゃろうな」

「そう! 私は朱莉あかり! 今は二上院ふたのじょういんとは全く関係ないただの朱莉あかりとしてここの人々の救助にきたのっ!」

「そう」


 金髪の女性の名は二上院ふたのじょういん 朱莉あかり。彼女も怖気ずに真於へ向けて返答を返すが、まるで興味無いといった様子であり、その鉄仮面が彼女の心を逆撫でする。


「行くよ。百々刀」

「そうじゃな。間違いなく目的のぶつもこの先じゃろうし」


 真於は朱莉とは反対の廊下の奥へと視線を移すと、最奥部に明らかにセキュリティレベルの異なったエレベーターが存在していた。

 解錠、そして起動にパスカードや暗証番号が必要のようで、恐らく二上院ふたのじょういんはこの場を最下層として帰還を行おうとしていたのだろう。


 しかし、真於の目的はこの真下にあるため――


 ガァァァァンッ!


 極厚合金の扉は彼女の一脚によって固定具ごと吹き飛ばされ、凄まじい爆音が響き渡る。

 当然そうなれば音に敏感で、飢えた感染者ゾンビが向かってくるのは道理である。


「おいおいおい!! あいつらが呻き声あげて階段を転げ落ちてこっち向かって来てるぞ!?」

「そりゃそうじゃろう。殆どがゾンビに変異したばかりでお腹がペコペコのペコリーノチーズじゃ。儂らは新鮮な餌じゃろうて」


 慌てた様子で久弥は非常扉を閉め、近場にあったロッカーを倒して真於の元に駆け寄り、彼女が破壊したエレベーターの底を見て――思わず叫んでしまう。


「と、とにかくあそこを降りるんだな!?……って、随分と高くないか!?」

「仕方ないのぅ、儂がおぶってやるとするかの」

「いやいや!? あんた身長140もないよな!? 俺170ぐらいで体重も――ってうわぁぁぁ!?」


 身長差はまるで気にならないようで、百々刀は足払いをして転んだ久弥を肩で担ぎ、崩落したエレベーターの穴を覗き込む。


「なーに仮に落ちても命は取り留めるように善処しておくのじゃ。儂らが先に向かうとするかの! では、お先じゃ!」

「俺の扱い雑すぎるってぇぇぇ――」


 久弥の断末魔と共に、百々刀は空中に浮かばせた刀を足場にひょいひょいと穴底へ向かって行った。


 真於も続いて降りようとしたその時、震えた声で背後から「待って!」と響き、彼女の足を差し止める。


「待って。最後に、聞かせて欲しいの。貴女と、虎崎さんの関係を!」

「それを聞いて何になるの?」

「さっきは私の得のならない情報を語ったわっ!なら、私に対しても少しぐらい話してもらってもいいじゃないッ!」

「……はぁぁ」


 必死の表情で語る朱莉あかりを見て、真於はあからさまに面倒臭い、と言った色を明らかに浮かべながらも、ただ一言述べ、落ちていくように穴の底へと消えていった。


 しかし、それは更なる彼女の混乱を招くのであった。


「黒薔薇は明らかに虎崎さんよりも年下のなのに……虎崎さんが、弟子? いいえ、ありえない。ありえないけど……もし有り得えたとしても……なんであんなに、綺麗な姿のままでいられるの……?」


 思考の沼に陥るその既のところで、ガンガンガン! と、扉を激しく叩く不快な音が響き渡る。

 遂に感染者ゾンビたちがこの階層でたどり着いたことを示しており、既に扉は破壊させる既であった。


「セバスも起きないし……一天上が戻ってくるまで私が守るしかない、よね」


 酸素の薄い空間でめいいっぱい空気を取り込み、頭の中の能力使用を司る器官へ向けて意識を集中させる。


「出来る。出来る。私一人でもセバスは……守りきる。だから、一天上いってんじょう……!さっさと帰ってきなさいよっ!」


 自らの手でゾンビたちの防護壁となっている扉を念力によって吹き飛ばし、その後方に居た者は圧力によって押し潰される。

 しかし、その程度ではゾンビの行動を止めるに至らない。

 完全に破壊するには心臓と脳の両方を潰さなくてならないのだ。


「私は負けないわ。こんな穢らわしいゾンビにだって……黒薔薇にだって、いつか絶対に――!」

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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