第16話
用語集
七華人形
真於が所属していた頃の一万年前呼び名
六華人形
現代の大国にいるすごーく強い人たちの総称
真於を除いた6人
ここに真於が入って七華になろうとしてる
人形兵器
能力者のこと
緊張気味で虎崎が口を開いたが、二人の顔つきや雰囲気に変わりなく、だから何? といった言葉を今にも投げかけられそうな様子であった。
「えっと……」
「六華も興味はあるがそれはそれじゃ。とにかく、我らがすべきことを教えてくれぬか? ちゃちゃぁっと力を披露すれば文句はないんじゃろうが、後でぐーたら言われるのも困るのでな」
「そういうこと」
「……分かりました。話を逸らしてすみません。では、改めて今回の案件の説明を始めさせていただきます」
彼は黒革の手提げカバンから書類を三部取り出し、そのうち二部を二人に与える。
彼女たちは軽く流し読みを行ったが、これも案の定といった様子で、真於は直ぐに渡された紙を返そうとして――百々刀に止められる。
「まぁまぁ、最後まで聞いてやろうではないか。せっかく作ってくれたんじゃし」
「そうだね。虎崎、お願い」
「はい。今回は――」
虎崎は至って真面目に説明してくれて、二人は一回で理解することが出来た。
基本的なルールはドクターストップが出るまでのバトルロイヤル形式――だったのだが、真於と百々刀はそもそも伝説上の人物として、七華人形の扱いを希望している。
政府は彼女らが伝説的な実力を持つことと仮定し、国内にいる貴重な戦力である一般の人形兵器たちを殺傷し、ただでさえ少ない戦力が減ってしまうことを危惧した。
その結果、真於たちはエキシビションマッチのみの参加となった。
国へ力を誇示すること成功条件といえば、一度だけ出場し、特別観客席にいる大御所たちへ活躍する姿を見せつければ良いとのこと。
「間もなく開会式が行われますが――その、お二人には折り入って個人的に頼みたいことがございます」
「……ん? 珍しいね」
「おぉ! キ真面目のお主が儂らに頼み事とはのぉ! なんでも言うてみよ!」
虎崎は基本なんでも一人で出来てしまう、かつ自分に厳しいので頼み事をする、と言った彼の姿は二千年前でも見たことがなかった。
余程重いことであると察し、百々刀はワクワク気分で机に立ち上がりながら返事を待つ。
「この試合は十家全員が観戦致します。そして師匠たちのお姿を見て、全員に刺激を受けてもらいたいと考えています。正直に言って、今の十家は海外のエリートたちに大いに引けを取っています。だからこそ、今回の試合ではこの会場を壊すぐらいの勢いで取り組んでいただきたいのです」
「おぉう、そりゃまた随分大胆なお願いじゃな。勿論お茶の子さいさいじゃが……本当にいいのかえ?」
「はい。どうか、よろしくお願いします!」
「……なるほどね。わかった」
十家に力不足感を感じているのは虎崎も同じであった。
ニホンの力を象徴する彼らが弱いのは、国の力が弱まっていると見られることを指し、一度見破られればあっという間に食い物にされるのは彼も理解している。
彼は何としても今のニホンを守り続けたい、という原動力で動き続けているようだ。
「それでもダメなら……真於が先生となり、生徒指導をする他あるまいなぁ!?」
わざとらしくニヤリと口を歪めながら語る彼女は、真於のコミュニケーション能力を理解しながらも意地悪そうに首を提げ、彼女を下から見上げる。
冷たい視線で睨み返され、変な声を上げていた百々刀を横目に、虎崎は満更でもないような表情で考え込み、ボソリと一つ呟く。
「師匠――」
「絶対にだめ」
「いえ、でも……」
「絶対にだめ」
「……そうですか。残念です」
凄まじい圧力を感じ、彼も折れざるを得なかった。
実際に真於から教育を受けてきた彼としては全ての課題を解決できる策であり、万能の案であったが……彼女の様子は悪く、一目で無理だと判断した。
スピーカー越しに呼び鈴が鳴り響き、開会式の召集がかかる。
この時をもってトーナメント表と、バトルロイヤルの振り分け発表であるが、既に真於たちはその書類を虎崎から受け取っている。
真於たちが知っている顔は特に無い様子である。
黒薔薇ということで彼女たちは開会式の出場は免除されているが、モニターの向こうでは揃いも揃って三百を優に超える人々が集まり、姿勢を正していた。
開会式では創世會の會長を初めとして、創世會幹部、そして外国から来たであろう来賓の紹介もあった。
「おお、あやつ見た事あるな!」
「思い出せない。会ったことあるの?」
「ほれ、割と近年に会ったあのスーパー髭じじいじゃよ。歴代で一番多くの感染者に追われた男の称号を付けたじゃろ?」
「あぁ……確かに。そう言われれば。三年ぐらい護衛したっけ」
「はい。お話に出てきたとおり、あの方は何故か感染者を引き寄せる遺伝子を持っております。彼の貢献もあり、一部の感染者のコントロールが可能になりました」
たどたどしいニホン語で挨拶を述べるのは、サンタクロースのような凄まじい長さを誇る白髭を拵えた老齢の男性だった。
ニホンに在住しておらず、隠居生活を送っていると語っていたとおり、彼の所在地は元々別国だ。
違法闘技だけを見学しに入国したのならば、現在も相当いい生活をしていることだろう。
薄い挨拶と薄い拍手が鳴り響き、彼はよぼよぼな足取りで画面外へ立ち去っていく。
百々刀は待合室の煎餅を頬張りつつも、他にも誰か知ってる人を探しているように見える。
しかし、真於といえば今にも帰りたそうな表情をしておりタイミングを測っている様子がうかがえた。
煎餅を食べ終え、もう一枚に手を伸ばしたところで彼女は声をかける。
「帰るよ」
「はん? ほほへぇひふほはぁ?」
「『どこへ行くのじゃ』っていいたいの?……まだ分からないけどお腹が空いたの」
「でしたら、私に任せてください」
「「……」」
その発言を聞き、二人の時間が止まる。
そして、蘇るのはおよそ二千年前の記憶だった。
ただ具材を切って、腐りそうなのから使えと言ったはずなのに――
『神ですら発狂する味と下手くそさじゃぞこれ!? 本当にこれ料理かの!? っておおい!? なんで刃物が鍋の中に入っとるんじゃああ!? 闇鍋にしても闇深すぎじゃろ!?』
『おかしい……ただの水炊き鍋を作らせたはずなのになんで焦げ付いたパンとかバナナがこの中に入ってるの……? うわ、何この内臓っぽいの。え、もしかして脳みそ?』
『貴重な食料を無下にするのは許せない行為であると思い、そのまま使用しました! また、師匠たちなら何でも食べることが可能であると知り、できる限り詰め込みました! 先程仰ったちょうみりょ?というのが分からないので全て入れてあります!』
キラキラとした子供らしい笑顔で彼はやり切った感を出しているため、二人はもう呆れて突っ込むことしか出来なかった。
確かに拾い子で、常識なんて知らない男の子だった。
とはいえ、あれほどまでの衝撃を受けさせられた以上、彼女たちは絶対に虎崎に料理を作らせないと決めている。
「あ……いや。申し訳ありませんが、私が作るのではないです。少々この付近では行きつけのお見せがありまして……」
「ほっ……なら安心じゃな!!」
「行こうかな。案内よろしくね」
「子供の頃以来、確かにお見苦しいところがあったと思いますがそれほどまでに顔に出さなくても……」
微妙に噛み合わない雰囲気のまま部屋を後にし、周りの視線を受けながらも数分歩く。辿り着いたのは老舗の定食屋といった言葉が似合う、時代を感じる一軒家だった。
横戸を引き、背の高い虎崎はサングラスと帽子を外しながら潜るように店に入っていく。
「ほうほう、テーマパークとは遠い雰囲気じゃな。テンション上がりはしないのじゃ」
「いい味出てるお店だね」
「いらっしゃ――」
二人の姿を見た途端に男店主は硬直し、顔にかけていたハチマキと眼鏡がズレる。
暖簾をくぐり入り込んできたのは、黒いヘルメットを被った女性、そしてひょっとこのお面を付け背中に四本も刀を差した女の子が現れたのだ。
簡単に言ってコスプレイヤー、もとい不審者である。食事をしに来たとは到底思えない姿だった。
「えっと……お連れさん?」
「はい。三名でお願いします」
「……そうか。あんたも大変な仕事だもんな」
「なんか変な感じに解釈されたのじゃが」
「話しかけられなくてよかった」
それぞれ別の感情を抱いたまま席に案内され、使い古されたメニュー表とお冷が渡される。
提供される料理は定食物が多く、二人にとって店の食事は前回のカフェぶりの事だった。
色あせた写真でも料理は全て綺麗に撮影されており、どれも美味しそうに見られる。
「そういえば虎崎、儂らお金ないのじゃ。そこでだが――」
「任せてください。百様、私は元よりそのつもりです。ですのでしっかり多めに持ってきて……き、て……?」
「……虎崎?」
「し、少々お待ちください!」
顔色を一気に豹変させ、彼は体中のポケット、そしてすぐ横にあるカバンを漁る。探す。そして見つからず。
「スられたかの? 間違いなく盗られたかの!?」
「お、おかしいです。後ろポケットに入れておいたはずなのに……!」
「さっきぶつかってきた奴にスられたか、もしくは落としたか。どちらにせよお預け……か。そっか……仕方ないね……」
彼は体躯が大きいことから人が軽くぶつかってくることも多い。
あまりぶつかることに気にしていなかったが、どうやらその隙を突かれてしまったようだった。
ヘルメットを脱いだ真於の明らかなテンションの下がり具合に虎崎は危機感を感じ、慌てつつ両手を彼女の前で振りながら何とか宥める。
「今すぐに! 今すぐに見つけてきます! すみません! ツケでお願いします!」
虎崎は店主にそう言い残すとこの店から弾け飛ぶように駆けて出ていき、その様子に同じく食事をしていた人々は唖然となってしまった。
「視線が集まるのぅ……って、あ」
「あぁー! あんたらはっ!」
「……誰だっけ」
こちらを向いて立ち上がり、指を向けていたのは茶髪の男で、どこかで見たことあるような顔だちであった。
彼はゾンビを引連れて真於たちに助けてもらった人物であり、その名を下梅 久弥。創成會の一員となりたい男である。
彼の周りには柄の悪そうな刺青のある筋骨隆々の男がおり、創世會と何らかの会話をしていたことが伺える。
とはいえ、真於はまるで彼のことを覚えていなかった。
「知り合いか?」
「い、いや? 違う」
「嘘つけ。お前が話しかけたんだろ?」
「た、確かにそうだけど……ひっ!?」
「調子乗ってんなよ三下。お前の命なんざ俺たちはいつでも取れるんだからな」
彼はテーブル越しに襟首を捕まれ、首に短いナイフを当てられる。あまり良い雰囲気ではなさそうだった。
元より真於は直ぐに忘れるほど男に興味はないため、助ける素振りは微塵も見せない。
百々刀と同様にメニュー表に視線を戻し、何を食べようかと見ないふりをする。
「お、お客様、荒事はお控え――」
「あぁ!? てめぇ創世會に首を突っ込もうってのか!?」
「い、いえ! そういう訳じゃなくて……」
「おい。ならタダでメシ提供しろよ。俺たちに巻き込まれたくなければ――」
その時、一人の背の高い男が店内を一喝する。
「止めてもらおうか」
「……てめぇ」
「外に来い。私が直々に相手をする」
虎崎である。彼は片手にたんこぶのある男の襟首を持ったまま、引きずり回し、店内に入っていたのだ。
どうやら財布は取り返せたらしい。
「おうおう。また始まったぞ」
「相変わらず手に持ったまま動く癖は抜けてないみたい」
我関せずといった様子で百々刀はメニューを注文するべく、店長を呼び寄せたのであった。




