第15話
「つまり、人見知りってことか?」
「まぁ似たようなもんじゃ。彼奴は人間とかゾンビが主食じゃからのぅ。肉が喋ってるぐらいの意識じゃろうて」
久弥が視線を飛ばす先には、折れて崩壊したビルの窓に頭から突っ込んでいる男たちの姿があった。
全て真於が投げ飛ばしてしまった成れの果てである。
「はぁ……」
「戦ってる時はまともに喋れるのにのぅ」
「しょうがないでしょ」
「黒薔薇にそんなことがあるとか……夢か。これ」
焚き火は消え、空には星が瞬いている。
誰も何も話せず、静かになった所で真於は視線を地面に落としたまま久弥に向けて人差し指を立てて見せつける。
「貸しが一万個。返し忘れたら喰うから。って伝えて」
「だそうじゃ」
「あんたが言うと冗談に聞こえないよ……というか、本当に創世會に手を出していいのか? 多分、というか絶対やばい事になりそうな気がするんだが」
転がされて体についた砂埃を払いながら彼は立ち上がり、不安そうな声をあげる。
この区域は全て創世會が治めており、いずれこの惨状も知られることになるだろう。
だからこそ、組織から彼女らへの報復が心配で声をかける。
「ヤバいも何もこの人間ダーツを見たのは儂らだけじゃ。お主が余計なことを話さない限り犯人は闇の底じゃよ」
「え……俺も共犯者?」
「何言っとる。当たり前じゃろ。そんなに共犯になりたくなければ――儂があのビルの窓目掛けてお主をぶん投げようかのっ!」
「なんでそんな嬉しそうなの!? やめて!?」
ジリジリと寄る百々刀から距離を取るように両手を広げ、久弥はゆっくりと後ろに下がる。まるで恐竜に囲まれた時に見せるような動きだった。
いい加減にして、という呆れた意図を含んだ様子で真於が彼女の名を呼ぶと、返事としてつまらなそうな声をあげて咳払いを行い、浮かんでいた刀に腰をかける。
「何はともあれ、真於が協力すると言った以上儂も協力するのじゃ。その代わり、お主もそれ相応の態度と器量を持つのじゃぞ。儂らが協力してあげる側じゃ。いいな?」
「っ! ……ああ! ありがとう! 俺もなんでも協力する! 本当にありがとうございます! 黒薔薇っ!」
「救えるかどうかは知らないけど」
「……え?」
「手を打つとは言ったが、こちらにも条件があるということじゃ」
「えっと……つまり?」
彼の表情は引きつった笑みを浮かべたまま固まっている。
久弥の命とその姉の命を救うためには、姉を闘舞劇で優勝させ、創世會が望む結果をもたらさなければならない――と考えていたが、ここで違う思考が過ぎる。
そしてそれは、黒薔薇ならやりかねないという恐ろしく現実味を含んだ一考だった。
「真於の言いたいことを儂が要約しようかの。とりあえずこの近辺の創世會支部は潰す。そのごたついてる内に勝手に逃げとけ、あとは知らん、じゃろ?」
「そう」
「そう……? そう……って、え? そうなの?」
「……」
二回も言わせないで、という視線を受け思わず丸い目で返したが、まさか視線を合わせられるとは思わず、お互いに視線をすぐに逸らす。
落ち着かない口調のまま視線を百々刀へ戻し、手をバタバタとさせながら彼は今一度考え直すように発言する。
「と、とりあえず潰すって言うけど……あんたら、言ってることが分かってるのか? 八千人近い構成員と戦うってことだぞ。中には強力な潜在能力を持ったやばい人形兵器だって居る――!」
「なんだそんだけかの。てっきり百万や二百万やと思っとったのに」
その言葉を聞いて彼は格の違い、生物としての違いを思い知る。人間を超越した、何か根本的な違いがある気がしてならなかったのだ。
そして、それを成し得てしまうような雰囲気も、至極当然のように語る百々刀も、全て実現可能であるという力を感じてしまい、思わず感嘆の念が湧く。
「……あんたら、まじで黒薔薇と刀狩なんだな」
「可可っ、最初から否定しとらんじゃろ! 感謝をするならもっとその名を広めい! ようやく儂のブーミングの兆しを感じるのぅ!」
「ブーミングって……」
百々刀は黒薔薇ばかり人間界で有名になっていた事を多少癪に感じていたのか、テンションが上がったまま、真於の脇腹に人差し指でつんつんするというちょっかいを出して楽しそうにしていた。
チョップを受けて地面を割って沈む彼女の姿を横目に、久弥はもう何も考える気力もなくなり、寝転がって星空を見上げる。
「――なぁ、お二人とも。何でそんなに仲がいいんだ?」
「おおう!! よくぞ聞いてくれたの!! これには溶岩が掘り起こせるようなふっかああああい歴史があるのじゃ。まず出会いから許される範囲で語っていこうかの!」
「……長そうだからやっぱいいや」
「っておおおい!! お主がボケてどうするのかの!? 儂がボケ担当じゃろうが!」
いつの間にか現在地点に復帰している百々刀に付き合う事が正しいかどうかも分からなくなり、目を瞑ってゆっくりと微睡みの中へ入り込む。
意識をほぼ手放しかけた寸前、久弥の耳に微かに二人の会話が響いた。
「――まぁ、間違いないじゃろうのぅ」
「虎崎の言ってたことも本当の本当ってことね」
「儂も完璧に持ってくるとは思わんかったよ。キ真面目じゃなぁほんと――」
何を言っているのは分からない。
ただ、黒薔薇たちの言ったことであれば、恐らく本当のことなんだろうという直感を信じつつ、そのままゆっくりと眠りについた。
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翌日、二人は久弥に案内されるがままコロシアムという場所に連れていかれた。
余裕を持って到着したはずが、案外ギリギリであったようで、彼は酷く焦って受付まで引っ張る。
そのため、美女二人を連れているという周りからの羨望の視線を集めており、百々刀は何となく柔らかい表情に変わっていた。
全体通してコロシアムと呼ばれるエリアが今回の闘舞劇が行われる会場だ。
この施設はとんでもなく広く、全体の広さはおよそ三十キロ平方メートルある。
廃街エリア、砂丘エリア、海上エリア、そしてメインホールであるコロシアムと打数の観客を受け入れることができるように会場分けされている。
予選としてくじ引きに従って各エリアに配属させられ、バトルロイヤル制の戦闘が行われるのが一日目。
トーナメントを行ない、上位の者たちが直接戦うのが二日目。
決勝、そしてエキシビションマッチ、後夜祭が三日目の豪華三本立てで送られる世界でも有数のお祭りであった。
何処からか情報が漏れていたのか、参加手続きをする前に黒薔薇や刀狩が闘舞劇に現れる、はたまた、エキシビションにて参加する、という話題で持ち切りであり、メインホールは大いに盛り上がっている。
「お待ちしておりました」
「……俺たちが出ることは内密、とか言ってなかったっけ」
久弥を置いて別室へと案内され、厳重な警備を敷かれた一室にて、スーツ姿の虎崎と合流する。
彼の顔はあまり良くないようで、やや体調の不良が伺える。
「……申し訳ありません。十家の内の誰かが漏らしたと思われます」
「案の定って感じじゃな。本当に国のカースト考え直すべきじゃと思うぞ」
「か、カーストまでとは行ってないとは思うのですが……とにかく、無事にこちらに到着されたようで何よりです。そしてもう一つ――」
彼は息を呑み、緊張した様子で二人を見つめ、口を開く。
「六華と名乗る男が、このニホンに来て居ます。そして、この闘舞劇に参加するという噂が出ています」
「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」




