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一万年の復讐と黒い薔薇  作者: 空想人間
第2章 砂上にて舞う黒薔薇とひょっとこ
14/22

第14話

 中心部に近くなると、この光景ばかりだった。

 路上に設置された多くのスピーカーからは爆音で音楽が流され、人々は知っている曲であるとまた盛り上がりを見せる。

 視線をどこに移しても露出の激しい男と女が絡み合っており、目のやり場に困ってしまうので、真於は手で顔を覆っ手呆れたような顔をしていた。

 百々刀の軽口も響き渡る音楽にかき消されてしまうと分かってから、彼女は死んだような目で黙っている。

 

「なぁ、お前らどこ出身?」

「はぁぁ……」

「……」

「無視はつまんねぇだろ? 取り敢えずなんか飲めって! これ、俺の奢りと……連絡先な」

「こんななよっとした男なんか放っておいて俺たちと遊ぼうぜ!」

「あぁもう! 二人ともこっち」

「っておい! 逃げんのかよ! そんなやつより俺たちの方が気持ちよくなれるのによ!」


 着いて早々に男たちに囲まれてしまったため、二人は久弥きゅうやに引っ張られてしばらく歩く。ようやく人混みから抜けて騒音が遠くに聞こえる場所に来たが、百々刀の顔は大変つまらなそうな顔である。

 ようやく落ち着ける場所に来れたと思えば……真於はぎゅっと彼の手を握る。


「ぎやぁぁぁ!? 痛い痛い!? 折れる折れる折れますって!!」

「こっちだめ。目の前見て」

「だだだだダメって、どういう――!」


 ボン、と効果音が聞こえそうなほど彼の顔が一瞬にして赤く染まる。

 その視線の先に居るのは――お互いに半裸になり、今にもズボンを脱ぎそうな男女のカップルだった。

 二人とも腕にタトゥーを入れており、胸には自らの尾を噛む龍の刺青が掘られており、創世會の一員であることが推測される。


「わああああ!? 失礼しましたああああ!!」


 急ぎこの場を離れ、戻ってきたのは街から遠く離れた荒地であった。

 喧騒から離れ、お互いのつぶやきも聞こえる静けさを確保したところで三人は深く溜息を吐く。


「ままま、まさかいきなりナンパされるとはのぅ……儂、本当に一天上フェイスなのでは……?」

「なんで全員公序良俗に反してるのに誰も咎めないの……? 信じられない……これが俺が守りたかった人類……?」

「あーゆー街だからな……コロシアムも近いし年がら年中パーティだよ……飲むか?」

「おおう! 酒じゃ酒じゃ!」


 彼は何処からか酒瓶をくすねてきたらしく、二人へ渡した。

 彼女たちの飲む勢いは凄まじく、簡単に瓶を空けてしまっていた。緊張していたのか、喉が渇いていたらしい。


「ぷははぁぁぁ……まっずい酒じゃのぉ」

「もういい。黒薔薇してるの馬鹿みたいになってきた。あいつら全員喰われろ。もうこっち来ない」

「おいおい……まだ酒はあるよ。飲むか?」

「もう一本ずつ貰おうかの」


 彼女たちもやっと落ち着いたのか、会話が出来るようになってきた。

 二人同時に飲み終えた瓶を久弥に渡すと、全く酔った様子も見せず百々刀は会話の口火を切る。


「もう街の様子にはとやかく言うまい。それより先程のあの注射器じゃ。もう一度見せよ」

「駄目だ。これ見せたら俺の話聞いてくれなくなっちゃうだろ!」

「ならさっさと要件を話してって伝えて」

「その中途半端な伝言やる意味あります!?」


 思わず突っ込んでしまったが、真於の冷たい視線を浴びて「ひぃっ」と声を上げてしまう。

 百々刀が真於を宥めると、荒れた大地に炎を作り出し、会話の進行を求めた。


「それで、お主は儂らに何を求めるんじゃ?」

「さっきも言った通り、家族を助けて欲しい! 凄まじい戦力を持ってるあんたらにしか頼めないだ!」

「話聞き終了じゃ。ほれ、今度は儂らの番じゃぞ」

「いや終わってないって! 元から話聞く気ないだろ!?」

「さっきから無いと言っとるじゃろ。何言っとるんじゃ」

「……もういいよ勝手に話すから……」

「壮大そうな独り言じゃのう……」


 真於は長くなると察して腰にある刀を抜き出し、一回一回が突風を引き起こすような凄まじい素振りを初め、百々刀は彼の語りの出鼻を挫き、もう一本のお酒を久弥から受け取る。

 横になって頬杖を付き、懐に入っていた干し肉を噛み千切りながらも申し訳程度に視線は彼の方へと向いていた。

 一応聞いてはくれるらしい。態度は酷いものだったが。


「話し始めるけど……実はここ一年ぐらい前はトウキョウのスラム街に居たんだ。俺も生まれてこの方スラム育ちだし、あの町に関しては特になんも思ってない。けど……ある日、行方不明になってた姉ちゃんが何の連絡もなくトウキョウに来てくれたんだ」

「おお、悪霊の類いかの! それでワシらに助けて欲しいってことじゃな!」


 この会話もお酒の肴であるのか、彼女は割と楽しそうに聞いている。

 しかし、まだ序の序で口を挟まれてしまったため、思わず会話を途切り、返してしまう。


「違うって、勝手に姉ちゃんを殺さないでくれよ。行方不明になってた姉ちゃんは俺と同じスラムに捨てられた身だ。ReVoの耐性は絶対に持ってないのに……帰ってきた時には、人形兵器ドールズになっちまってた」


 真於の素振りが数秒だけ止まる。後天的にReVoの耐性を獲得するのは確率的にも容易ではない上に、一般ルートでは確実に入手できない特殊な薬品が必要だった。

 そしてそれは、一天上いってんじょう 才也かどやしか作ることが出来ない、あまりにも貴重な品である。


「姉ちゃんは創世會そうせいかいの偉い奴に薬を打たれて耐性を獲得したっていってた。その時に貰ったのがさっき見せた注射器だ。多分あんたたちはあの薬のことを知ってるんだろ?」

「そりゃあ、のぅ」

 

 百々刀は真於へと視線を飛ばすが彼女は変わらず素振りを続け、目もくれていなかった。

 干し肉を再び噛み千切り、一気に酒で胃に流し込むと、百々刀は表情を変えずに話の催促を行う。


「スラムにいても幸せになれない、って言われて俺たちはトウキョウを出て……何日も歩いてこのトットリに来た。姉ちゃんも姉ちゃんで人形兵器ドールズとしての試運転が必要、とかいわれてたから、この街に来ざるを得なかった」

「ふむ」

「姉ちゃんは創世會から闘舞劇に出ろって命令されてて、逃げ場がない。けど、俺は唯一の家族の姉ちゃんを失いたくないんだ!」

「だったら死に物狂いで出場を止めればいいじゃろ。儂らの力を借りんでも出来ることじゃろうに」


「興醒めじゃ」と呟き、彼女は空中に浮かばせた刀を幾つも並べて擬似的なベットを作り、完全に眠る姿勢へと変わった。

 しかし、彼の話はまだ終わっていなかった。


「頼む……姉ちゃんは出なきゃ殺されるし、俺も殺されるんだ。そうでなきゃ、俺たち家族はみんな死んじまう……! だから本当にお願いだ! 黒薔薇、あんたの力で姉ちゃんを闘舞劇で優勝させてくれ!」

「儂らは何でも屋ではなければお主の陪神でもない。そろそろ大概にせい」

「ッ……!? わ、悪かった――」

「……誰か来る」


 百々刀の僅かな圧力を感じ取り、久弥は恐怖に満ちた表情を浮かべていた。

 それを横目に真於は刀をしまい込み、この場を離れようとするが……どうやら挟み撃ちに遭ってしまったことを察し逃げ場がないことに溜息を吐く。

 百々刀も何となく状況を察したようで、空中に浮かぶ刀から降りて大欠伸をつくる。


「……どうやら、儂らも人が良すぎたようじゃな。そういえばお主も末端とはいえ創世會じゃったか」

「……え?」


 なんの事だか分からない久弥は顔を変えずに思わず問いかけるが、返答はない。

 真於や百々刀は背中を預け、遠くの方を見ていた。


「儂らはまんまと誘き寄せられたってとこかの。全く、人間と言うやつはいつも信用ならないものよ」

「ち、違う! 俺はそんなことしてない……!」

「――この際どっちでもいいよ」


 周囲から見えてきたのは創世會のメンバーと思われる柄の悪そうな男と女たちであった。

 スラム街で囲まれた時のような滲む悪意を感じ取っても、真於は変わない様子で溜息を吐く。


「百々刀。この男の話を聞いて、ちょっと気になることがあった。貸し一万個で手を打ってあげるよって伝えて」

「……え?」

「……ほほう、珍しいのぅ。お主がそんなことを言うとは。人間は嫌いではなかったのかの」

「言ったでしょ。俺は復讐のためなら何だって利用するってね。」

「居たぞ。あいつだ!」

「へぇ、いい女どもじゃねぇか」


 一人の男がコンクリートに座ったままの久弥を蹴り飛ばし、真於へと近づく。

 そうして、男は彼女の耳元でボソリと語りかけてきた。


「俺たちの女になるなら命だけは助けてやるよ」

「……」

「あちゃぁ……」

「だが、その刀を抜いたら……どうなるか分かるな? 俺たちは創世會だ。逆らったら――」

「下梅 久弥とやら、よく見ておくのじゃ。あれが意固地に真於だけに話しかけてしまうと引き起こされる結果じゃよ」

「あぁ? 何言ってやが」


 男は最後まで発言出来ることもなく、久弥の背後の方から岩が砕かれるかのような轟音が響き渡る。

 その異音は人間が殴られ、吹き飛ばされた結果響いた音である。事実を直ぐに理解出来たのは百々刀だけであった。


 辺りの創世會と思われる者たちは完全に何が起こったか分かっていないが、真於の小さな拳に付いた血痕を見て、少しずつ、少しずつ男の“逝き先”を察する者が増えていく。


「真於はな……まぁ、その、色々事情はあるが、普段の状態の彼奴は簡単に言ってコミュ障じゃ。冗談抜きで儂無しで変なアプローチで話し続けようものなら……可可っ、あのように廃ビルに頭から突っ込むことになろうぞ」

「……え」

「まぁ少なくとも敵意を持たない奴にはしないとは思うがな! 確証は無いけどのぅ!」

「……」


 星空の下、真於のため息と久弥の驚いた声が響き渡る。

 その後男たちは彼女へ向けて一斉に襲いかかったが、流れ星のように消えてしまった。

「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」

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