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一万年の復讐と黒い薔薇  作者: 空想人間
第2章 砂上にて舞う黒薔薇とひょっとこ
13/22

第13話

 崩壊して蔓に覆われたビル群を抜け、目的地を目指しバイクで穴だらけの高速道路を走る。

 傀儡のように徘徊している感染者たちを見かけても、真於とそのすぐ後ろに居る百々刀は全く気にしない。時には刀を飛ばし、時にはすぐ横を抜け、スピードを落とさず時間は過ぎていく。


「それにしても、よくここまで話題を持っていったのぉ。虎崎には褒美が必要かえ?」

「あげられるものがあればいいけどね。俺たちであげられるものといったら……ゾンビたちの首ぐらいだよ」

「ならいっそ最近話題になっとる創世會そうせいかいを叩き潰す手土産でも持っていこうかの?」

「……一部国民に被害を与えてるとはいえ、あれも一応国防として機能してるからね。潰しちゃうと人口がまた減りそうだ」

「うーむ、なにかいい案はないかのぉ。案外何も出ないもんじゃな」


 二人を乗せたバイクは崩落した跡地を飛び越え、更に先へ急ぐ。

 現在向かっているのはトウキョウではなく、トットリと呼ばれる県だった。

 砂漠化の影響と一万年が経過したこともあってか、砂礫地帯は大きく広まっており、今では砂の街と呼ぶ者も多い。


 しかし、街は広大な特徴と土地を利用し、新たな娯楽を生み出した。

 それが「闘舞劇」と呼ばれる催しである。

 実際のところ、このイベントは国から奨励されたものでは無く、むしろ参加しないように言われているまである。

 行われる内容としては闘舞劇という名前の通り、戦闘だ。

 人間同士、そして感染者と人間、更にはReVoウイルスによって自然と発生した化け物と闘い、己が実力を試し合うというコンセプトである。


 下手をすれば命を落とす、というより高確率で命を落とす危険なものであるが、国が直接止める事は出来ない。その理由として、トットリは創世會の領土内であることが上げられる。

 同じニホン国内といえど、トウキョウを主体とした国の政府は介入できない区域であった。

 基本的に誰でも参加自由であるが、命を落とそうが、怪我をしようが自己責任の世界だ。


「お! いいこと思いついたぞ! 儂らが偽名で参加し、勝ち取った賞金を彼奴に取らすのはどうかの! 儂らなら余裕じゃろ?」

「あいつはお金には興味無さそうだけど……やるとすればそれが一番なんだろうね」


 このように危険なイベントであっても、外から見れば国を代表するお祭り扱いであり、各国の要人が来賓として観戦に来るのは恒例となっている。

 ニホンにおいてもこの場で良い戦績を収めたものはIPD(対感染者掃討部隊)などで非常に良い優遇が与えられたり、創世會でも二ヶ月ほどで幹部職になれるという話がある。

 国全体で見れば間違いなく違法闘技であるが、根っこの方では各国の繋がりや組織同士の関係あるため、推奨しないといった形でしか留められないのが現実である。


 今回真於たちが「力の証明」として行うことを虎崎と約束したのがこの闘舞劇である。

 三日目にあるエキシビションマッチにて、名前の言えない誰かと手合わせを行い、六万人の前で力を示すことが今回の目的である。


「そーいえばお主、刀一本しか毎度のこと使ってないから無能力者の思われているらしいの。髪色はヘルメットで隠しとるのになぁ」

「二本目を解禁するほど強い相手がいないだけ。そういう百々刀もなかなか変な目立ち方してるよ」

「儂はこれでいいと思う! だからこそ儂これでいいと思うのじゃ!」

 

 百々刀は非常に破天荒かつ気まぐれで、前回虎崎と話した後に別れた理由といえば「刀狩のおうなに、儂は成る!」

 となんの脈絡もなく言い出し、そして飛び出したからであった。

 慣れているので真於は止めなかったが、彼女が騒動を起こしてからというもの、創世會側に悪い意味で認知されており、ひょっとこの面を付けた子供はそれだけで誘拐されるという噂まである。


「さて、そろそろ近づいてきたの! わしもそろそろ面をつけようとするかのぅ!」

「そうだね。この辺に来るのは初めてだけど……砂埃が凄い」


 真於たちは闘舞劇に参加したことは無い。お金が欲しいといっても、黒薔薇で参加するというのは彼女の主義に反する為だった。かといって目立つのも好きでは無いので、何となく敬遠していたのがこれまでである。


 しかし、今回は違う。明確な目的を持ってむしろ目立ちに来たのだ。

 人目につくのはあまり得意ではないが、一天上いってんじょう 才也かどやがこちらに来るまでの平和な二十年を過ごすために、必要な課程であると彼女の中で割り切っている。


「お主は黒薔薇として参加、儂は刀狩の嫗として参加じゃ。手筈は虎崎が整えたじゃろうし、本名でゆめゆめ参加することなかれよ」

「一応虎崎から推薦書も貰ったし大丈夫――」

「おんやぁ? なーんか前方からやたら気配が……」


 嫌な気配を感じてバイクのスピードをほぼゼロにまで落とし、片足を付いて前方の様子を確認する。

 よく見れば坂の向こうから一つの影がこちらに向かって一所懸命に走ってくる。


「うわっ、これまた沢山連れてきたの……」


 百々刀から嫌そうな声が漏れる。

 一つの影の姿が走りながら真於たちへ向かってくると同時に、彼の背後から黒く蠢く壁が迫り来るためであった。

 それらは一つ一つがゾンビであり、追われている影はただの人間であることが推測される。


「助けてくれぇぇぇ!」

「うげぇ、モンスタートレインしとるのじゃ。ゾンビを効率的に倒そうとした結果、殺し損ねて群れておるわ」

「はぁ……とりあえず今日のご飯は決まりだね」

「儂はもっと味の濃ゆいのが食べたかったのぅ……」


 バイクから降り、真於は腰から刀を抜き出し、百々刀は上空から大太刀を取り出して迫り来るゾンビたちの群れを見据える。


「儂に半分寄越せ、真於よ」

「元からそのつもり。よろしくね」

「可可っ、任せい」

「ひ、人っ!? 助けて、下さいッ……てっ!?」


 涙と鼻水、そして砂埃でぐしゃぐしゃな様子で現れたのは高校生ぐらいの男であった。

 もう体力の限界だったのか、フラフラと座り込み、彼女たちを見上げる……が、二人は男を通り過ぎ、ゆっくりと大群へ向けて歩いていく。


「くく、く黒薔薇と、か、刀狩!?」

「三百とちょっとじゃな。軽い軽い」

「……やるよ」


 最初に動き出したのは真於であった。 砂煙を巻き上げながら走り来るゾンビたちに対して彼女は飛び上がり、空を駆けて群れの中ヘ自ら潜り込んでいった。


 彼女が黒い群れに飛び込んだその瞬間、うねった白い蛇が極隙間を縫うように動き回り、一瞬にして厚壁の群れを抜けていた。


「――これでピッタリ半分」


 淡い残光は消えていき、一人呟いて静かに太刀を納刀すると――凡そ百五十の有象無象が突如赤い血を吹き出し、ドミノ倒しのように崩壊する。

 真於はこの一瞬で半分の感染者たちを葬ってしまったものの、まだ物足りないといった様子であった。

 群れが崩れたとはいえ、飢えた感染者たちは隣で倒れたゾンビを蹴り飛ばし、次は目の前にいる百々刀へと狙いをつけている。


「あぁ……終わり、だあ……」

「黙っとれい。泥船に乗ったつもりで儂に任せよ」

「それ沈みますよぉ……」


 彼女は肩に乗せていた大太刀を細くて華奢な片腕一本で持ち上げ、迫り来る感染者たちへ狙いを付ける。


「そぉらっ!」


 気合いの声と共に放たれたのは、虎崎が使用したような斬撃を飛ばす武技だ。

 しかし、解き放たれた威力は文字通り破格。地面寸前振り抜かれた大太刀は残心のまま止められているものの、凄まじい衝撃波と斬撃がゾンビたちの肉壁と衝突し、炸裂する。

 剣圧の絶壁は瞬く間に感染者たちを飲み込み、吹き飛ばし、塵芥と変えて消滅させてしまう。


「やりすぎ」


 三百程度のゾンビたちでは全く壁にならなかったようで、真於が斬った死体諸共消し飛ばし、剣圧は衰えた様子も見せず、真於へ迫る。


「うわぁぁぁぁぁッ!?」

「吹き飛ぶとここから落ちるぞ。気張れい」


 向かい来た衝撃波は凄まじい爆烈音と突風を吹き散らし、突然消失した。

 男は百々刀に襟首を掴まれて旗のように煽られて……衝撃波が落ち着いた頃には非常にグロッキーな表情を浮かべている。


「耳がキーンってする……鼓膜破けた……?」


 ひょっとこ面の百々刀の視界には、変わらずヘルメット姿の真於が歩いて戻って来ている光景が映り、先程の衝撃ではなんの影響もないことが伺え、思わず笑顔になる。


「可可っ、むしろお主がいるから少しぐらい力を出しても大丈夫じゃろなぁーって思っとったよ!」

「……」


 バイクの近くに戻ってきた真於は無事であるものの、先程百々刀が巻き上げた砂埃で非常に汚れており、バイザー越しでもあからさまに不機嫌であることが伝わった。


「にぅ!にゃにをするんにゃ!」

「街ごと消す気なの?」

「のぉぉぉぉぉ」


 彼女は罰として片手で百々刀の両頬を抑えブンブンと揺らしたため、グロッキー状態へ変わり果てていた。

 終わったと同時に彼女は素早い身のこなしで面を外して高速道路から身を乗り出し、下にある川へ向けて虹を吐き出していた。


 その一連の動作を見ていた男はなんとも優しい気持ちになるが、先ほど言ったセリフを脳内で再生して表情が固まる。


「……街ごと、消す? え?」

「……」

「うぼぇぇぇ……」


 彼女の吐き気が収まるまで会話は無く、男性もこの場で留まることを要求されたのだった。

 数十分後彼女はやっと吐き気が収まったようでスッキリとした顔で戻ってきた。


「うぬ! 気分爽快清々しい!」

「……」

「あの……黒薔薇さん、ですよね? あのー……もしもーし、聞こえてますか?」

「可可っ、こいつはちょっと一癖あってな。今からワシが通訳してやるからの! ほれ、聞いてるぞ真於――いやいや、黒薔薇よ!」

「名前は忘れてって伝えて、刀狩の嫗」

「だそうじゃ!」

「これ翻訳必要ですか!? まんまじゃないですか!?」


 百々刀が復活するまでの間、真於はずっと刀の手入れをしており、男が語りかけてもずっと返事をすることがなかった。

 彼はニホン語が通じないと思い様々なアプローチをかけたが、ひょっとこ少女が語りかけるとすぐに反応したため、つい突っ込んでしまった。


「おおぅ、良いツッコミじゃな! 気に入ったのじゃ!」

「ああぁ、すみません! つい癖で――それと、助けていただきありがとうございました!!」

「……」

「俺には返事してくれないんですね……」

「可可っ、そういうやつなんじゃよ。ついでに聞いておくかの。お主はどうしてこんな所におるのじゃ?」

「あぁ、俺は――」


 彼は一瞬伏し目で躊躇った後にすぐ顔を戻し、二人を見回してからどこか緊張気味な様子で口を開く。


「創世會の小間使いとして最近入會しました 下梅しもうめ 久弥きゅうやです! 改めて、命を助けていただきありがとうございました!」

「ほぅ、創世會とな」

「はいっ! 今回は感染者たちの髪の毛が必要ってことで取りに来たのですが……その、先程の通りで」


 コンクリートの上で正座をし、改まって語る様子に、真於たちが知る創世會の人々とのギャップを感じる。

 その組織のイメージは彼女たちにとってあまり良いものではなく、簡単に言ってしまえばギャングのような集まりであると二人は認識している。

 だからこそ、この礼儀正しい様子に疑問を感じてしまう。


「……刺青が見当たらないけどって伝えて」

「じゃとよ。確かに刺青が見当たらないの。お主は本当に創世會かの?」

「……っ、正式には……まだ加入していません。しかし、俺にはどうしても入らなきゃいけない理由があるんです!」

「ほーん、そうかの。興味はないがな。何も言ってないがこやつも同意見じゃぞ」

「……へ?」


 このまま話を聞いてくれると思っていた久弥は、突然の興味喪失に拍子抜け、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 二人は素早くバイクへ跨り、エンジンを吹かす。

 しばらく正座したままだったが、このままではどこかに行ってしまうと焦り、慌ててバイクの目の前で行く手を塞ぐように立ち塞がる。


「おい。轢かれるぞよ」

「待ってください! そして……俺に協力していただけませんか! 家族を救うため、黒薔薇さんたちの力を貸してほしいのですッ!」

「可可っ、助けられたばかりであるのにまた助けろとか図々しいやつじゃ」

「どうか、どうかお願いします! こんなことを頼めるのは黒薔薇さんたちしか居ないんです!」


 彼は土下座をし、その態度を体で示す。

 しかし――真於の心には響かなかったようだ。


「悪いけど、他の人に頼んで」

「そういう事じゃ。縁がなかったの」

「いいえ……いいえ! まだ待ってください!」


 彼は懐を漁ると小さな箱を取り出し、そこから現れたのは液体の入った注射器であった。

 そして、その正体を知っている真於と百々刀はあからさまに雰囲気を変え、言葉は強くなる。


「……どこで手に入れたのじゃ?」

「まずは話を聞いてください」

「……百々刀、五分だけ聞いてあげるって伝えて」

「儂の名前めちゃくちゃばらしとるが……まぁ良いわ。多少話ぐらいは聞いてやろうかの」


 二人を説得できたことで明るい表情を浮かべたが――その表情は一瞬にして固まる。


「このバイクは二人用でな、お主の席はない。だから、引っ張って連れていくのじゃ」

「え、これ、その……」

「死ぬ気で祈れよ。落ちるかどうかは運じゃ」


 彼のシャツと背中の僅かな間に抜き身の刀が差し込まれる。

 そうして彼の現在の状態とは……豚の丸焼きのように、空中で浮いた刀を支えに真横に吊られてしまっているのだ。


「ええええええええ!? 雑すぎませんかぁぁ!?」

「さぁ往くぞ真於よ!!」

「名前バラさないでくれる?」


 バイクを吹かす音と同時に悲鳴が響き、トットリの入口はもう目の前だった。

 彼女たちの頭の中に闘舞劇の内容は全く含まれておらず、彼が取り出した一本の注射器に思考を支配されていたのであった。


「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」

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