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一万年の復讐と黒い薔薇  作者: 空想人間
第1章 1万年後の世界にて
12/22

第12話

 黒薔薇の目撃証言が目立ち始めてから一ヶ月後、ニホンにおける戦力図は荒れに荒れ果てていた。


 真於が居なくとも九割の国土を日々増え続ける感染者たちから守ることが出来ていた理由に、三つの巨大な戦力が領土を敷いていたという背景がある。


 一つ目にニホンの政府が最高対染者防衛機構として公認している、「対感染者掃討部隊」。通称 IPD と呼ばれる。

 ニホンの首都、トウキョウを中心とした正式な部隊であり、三つの内で最も大きな領土を敷いているのが特徴である。


 二つ目に創世會そうせいかい

 国のありとあらゆる場所に拠点を置いており、本部は国の南の方にあるとされている。

 政府から危険であると認識された巨大組織であり、規模は大きく、所属しているものは荒くれ者が多いと言われている。

 創世會に所属しているものは皆特徴的な入れ墨をしており、数々の事件を引き起こしているが、国は感染者たちの侵略における防衛に必死でそこに回す戦力はない。だからこそ今の今まで存在を見過ごされている組織である。


 三つ目に北征軍ほくせいぐん

 名前の通り主に北に居る感染者たちから国土を防衛する部隊であり、環境の厳しさからほぼ独立した「対感染者掃討部隊」と同等の力を持つ戦力だ。

 人数は少ないが、黒薔薇の姿がもっとも多く見られ、人形兵器ドールズの所有が三つの組織の中で最も多いとされている。


 これら三つの組織は互いに不干渉、そして領土内での事件は領土内のルールに従うという条約を敷いているが、それぞれ国のために協力する誓いを立てている。

 ライフラインが希薄かつ弱いのはこのような背景があるためであった。

 しかし、近頃なんの前兆もなくReVo耐性を持って産まれる赤子が増加し、あらゆる場所で人形兵器ドールズの顕現数が増加している。その影響で三組織のパワーバランスが崩壊し始め、条約も揺らぎ始めていた。


 そんな混沌の時代が始まる寸前で人々の話題となったのが黒薔薇である。

 歴代と比較しても明らかに発見頻度が増しており、街中でもその姿を見る、と言った話題は絶えない。


「黒薔薇だぁっ!?」

「くそ……こんな所で!」

「あ……」


 漆黒の闇を孕む大きな倉庫の中に複数の軍用車両と銃火器を持った多くの男たちが居る。

 鉄壁を誇っていた大きなシャッターを蹴り飛ばし、ブーツの音を響かせてゆっくり迫り来るのは――フルフェイスのヘルメットを被り、黒いミニスカートを履いた女の子の姿をしている人間だった。


「てめぇ……ここは俺たちのシマだぞ……! 黒薔薇だかなんだか知らねぇが……ReVoの耐性を持たないただの人間風情でイキってんじゃねぇぞ!」


 倉庫の中に居た男たちは何らかの取引の邪魔をされると思ったのか、二十人を超える人々は一斉に自動小銃の銃口を向けた。

 しかし、彼女は何ら怯えた様子はなく、歩きながらも腰に差していた刀を抜き、無言のままゆっくりと正面へ突き出す。


「っ……どうせ()()偽物だ! ビビらず殺れ!!」

「黒薔薇さんッ!!」


 誘拐されていたと思われる女性が悲鳴に近い声を上げたその瞬間、凄まじい炸裂音が連続して響き渡る。


 目に見えないような速度で発射された弾丸は指示通り小さな少女の体を目掛けて向かっていったが――彼女はその速度を優に超えた光を振り抜いた。

 弾丸は真っ二つに切り裂かれ、体を捉えることも出来ずに背後へと抜け去っていく。


 それも一度ではない。この刹那の時間で何度も、何度も、ただ一つも漏らすこと無く切り裂き、斬光は彼女の体に迫る万物を全て切り伏せていた。


「あ……ありえねぇよっ……」


 彼女の周りには半分に分かたれた弾丸が無数に転がっており、当の本人は無傷。そして、今なお足音を響かせながら迫り来ている。

 あまりの迫力を目の前に数人がこの場から逃げ出そうとしたが――皆は一斉に転んでしまい、起き上がることは無かった。


「ほん、もの……」


 もはや男たちの大半は既に諦めてしまい、武器を捨て、動くことすら出来なかった。

 黒薔薇の目の前で逃げ出そうとした者は転んで動けなくなる。そんな伝説も最近では話題となっていたのだ。

 それが本物の死神だと察するには十分な時間である。


「……」

「て、めぇ……!!」


 遂に黒薔薇はリーダー格である屈強な男の目の前で足を止め、手に持った刀を喉へと向ける。

 黒薔薇は遺言を聞く猶予を与える、これも伝説どおりの事だった。


「舐めてんじゃ……ねぇぇぞおおおおおおッ!!」

「……」

「あぁ!? 炎があああ!?」

「わああああああっ!?」


 リーダー格の男が叫び声を上げた瞬間、彼の足元から勢い良く炎が吹き出した。

 黒薔薇はそれを素早く察知し、直ぐに下がる事で事なきを得る。

 炎は吹き荒れたままで、倒れて動けない者や周りにいた人間を巻き込み、悲鳴とともに炎の規模は大きくなっていく。


「はっはぁぁぁ!! 無能力者には出来ないだろぉ! 黒薔薇ァ!」


 彼は目を両目を真っ赤に染めたまま、辺り一帯を全てを飲み込むかのように爆炎を撒き散らす。

 それは能力の暴走と呼ばれる現象だった。制御のない炎は荒れ狂い、辺りにあるもの全てを燃やし尽くしていく。

 もはや彼には物ごとを判断する余裕すらないだろう。


「きぁぁぁぁっ!?」


 誘拐されていた女性は炎に飲み込まれる既のところで、とてつもない引力に従い、この場を離脱することができた。

 引かれて降り立った先はフルフェイスのヘルメットを被ったままの黒薔薇の前であった。


「ぁ……あぁ……」


 黒薔薇は怯える女性に躊躇せず素早く刀を振り下ろす。拘束していた縄は一瞬にして粉微塵となり、パラパラと崩れ落ちる。


「ぁ……え?」

「行って。じゃないと燃えるよ」

「……は、いっ!」


 黒薔薇の言葉を素直に受け止め、女性はこの場から覚束無い足取りで去っていく。

 そうして、ヘルメットの内にある黒い眼光は体から炎を吹き出し続けている「獄炎の能力者」へと向けられるのだった。


「てめぇ……何してやがるぅぁぁぁッ!」

「……」


 男は纏っている炎を吐き出すように、口腔から火炎を放射する。

 凄まじい熱量の炎はビームのように直線上に解き放たれ、黒薔薇が元々居た空間は猛り狂う炎の螺旋に飲み込まれてしまった。


「へへ……やったぜぇ……黒薔薇を俺がやってやったぁぁ……」

「そんな能力任せの攻撃が当たるとでも?」

「なに――」


 声を認識した瞬間視界がぐしゃぐしゃになる。動くどころか、防御体制をとることすら出来なかった。炎を纏った大男は衝撃波と唾液を撒き散らしながら激しく吹き飛ぶ。

 ドラム缶の山へ飛ばされると激しい爆発が巻き起こり、倉庫を大きく揺らす。


「……」


 炎の男を吹き飛ばしたのは小さな少女回し蹴りであった。

 残心のまま佇んでおり、爪先で燃えていた炎はゆっくりと鎮火する。


「クソがァァァァッ!」


 崩れたドラム缶の山を貫いて轟音を響かせ、爆発が巻き起こる。炎を纏った男は足から炎を噴射し、黒薔薇へ向けブースト全開で黒高速で飛来する。


 炎を纏った拳は――確かに捉えた。


「大して熱くないね」

「なっ……」


 ――いいや、捕らえられていた。


 黒薔薇の小さな片手のひらの中に、巨大な拳があり、燃え盛る炎は未だに彼女を焼くことすら出来ていない。

 黒いヘルメットのバイザーに、怒り狂う赤髪の姿が映し出され、更に男は全身に力を込める。


「離し……やがれぇぇぇ!」


 激昂した様子で大振りの上段蹴りを放つが、黒薔薇は拳を解放すると同時に距離を取る。

 好機であると判断したのか男はそれを許さず、一気に距離を詰め――


「喰らえやおらぁッ!」


 黒薔薇へと向けて、獄炎の能力を溜め込んだ右ストレートを打ち込む。

 炎は爆発を起こしたかのように辺りに広まり、コンクリートの地面は融解を引き起こされる。


「……ぁ?」


 しかし、男の顔と声は予期していない事象を引き起こされたと察するに容易い、拍子抜けたものだった。

 先程引き起こされた爆発は、水を入れすぎた水風船のような炸裂だ。


「う、で、は?」


 男は黒薔薇を爆発させようとしたのにも関わらず、何故か自分の腕が消失している現実が理解できない。

 先っぽ消えてしまった腕からは炎と血液がとめどなく溢れてしまっている。体力も従って恐ろしい勢いで減少していく。


「……っ」

「……」


 黒薔薇は男の背後にいた。右手に持った刀には血と炎を纏わせており、流麗な動きでそれを払う。


「もっと抵抗しなよ。さもなきゃ――俺に喰われるよ」

「あ、あ、あっ……あああああああああああああッ!!」


 可愛らしく、そして黒いバイザーの向こうで薄い笑みを浮かべながら、少女は男に語りかける。


 恐怖半分、怒り半分で黒薔薇へと突進した男は――無数の真っ白な斬光を身に宿し……一言も声を上げられないまま血の池を作り、沈んでいく。


「はぁ……まだ一本しか使ってないのに。近々百々刀に喧嘩相手お願いしてみようかな」


 呆れたように呟いて刀に付いた炎と血を払い、そのついでに辺りで燃え盛っていた火炎を風圧を生み出して消し飛ばす。

 静かに、そして暗くなった倉庫の中で黒薔薇は倒れ付して動かなくなった男の首元に視線を当てる。そこには自らの尾を噛んだ龍のような入れ墨が彫られていた。


「また創世會そうせいかいの一人か。そろそろ虎崎に報告すべきなのかな」


 ヘルメットを外し、頭を振るう。

 現れたのは黒髪黒目の少女だった。彼女は辺りを見回し、誰もいないことを確認した上で呟く。


「いただきま――」


 落ちた腕を拾い上げ、口を開いたその瞬間、パーカーのポケットにある携帯端末がバイブレーションと通知音を発する。

 食事をしようとしたところで邪魔された気分になり、顰めっ面で端末のロックを解除して――頬が緩む。


「へぇ……十家の前で力を証明してみろ、か。虎崎も案外頑張ったじゃん」


 その通知は何よりも待ち望んでいたものだった。


 食べようとしていた腕を放り投げ、真於は再びヘルメットを被り、端末を操作しつつ移動する。連絡先は現在遠く離れた場所にいる百々刀へ送った。バイクの音は遠くなって消えていく。

 バイザーの裏にある真於の顔には緩やかな笑みが浮かんでいた。

1000PVありがとうございます!

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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