23:騒音
喉が痛い。
風邪にご注意。
どしーん…… どしーん……
谷山が仮眠室のベッドで寝ていると、壁伝いに耳に残る音が聞こえる。谷山の生活リズムは最早無いに等しい。眠い時に寝て、腹が減ったら飯を食う。かなり不摂生な生き方だが、外との繋がりが無いためか、昼夜の実感がない。
どしーん…… どしーん……
「ああああああああ!!」
騒音とは一度気になってしまうと、気にするなというのは酷である。
ビルにおいて、騒音問題は必ずといっていい程上がってくる案件だ。大体が、上のフロアのテーブルを動かす音であったり、空調の風切音であったり。珍しい物だと近くの工事現場で杭打ちをしている音が、地面を伝わり、柱を伝わり、壁を伝わり……。音は振動する為、離れた場所でも物体を伝って騒音はやってくる。
「あの神経質なテナント代表の気持ちが分かって来た」
谷山は騒音クレームを対応した際に苦労した経験がある。お客様の主張する騒音が発生する時間がまちまちである場合、その事象である音を聞かなければ、原因の特定が難しい。お客様には音が聞こえたら連絡するように伝え、連絡がある度に現場へ急行する。この事象確認が厄介で、現場に行くと音が聞こえなくなったり、張り込みしている時でも、あざ笑うかのよう音が鳴らない。疑心暗鬼になって態度が悪くなればそれこそクレームに繋がってしまう。根気の要る作業なのだ。
最終的に原因は2つ上の階のエアコンのモーター異音が鉄骨を伝って響いていたものだった。上の階とその上の階は他のテナント様のサーバー室だったので、誰も音に気が付かなかった。
「下から聞こえるな……気になって寝れん! 散歩がてら巡回するか」
そういうと、欠伸をしながら呆けていたマリを連れて、各階層の巡回に出かける。
「騒音ですか? 私には何も。センサーにもなんの反応もありませんね」
「ふむ。まぁ、1階は相変わらずだな。全体的に増えたか?」
「家畜動物が各1割。ゴブリンの数が2割増えていますね」
「マジか! 家畜は食えば良いけど、ゴブリンの繁殖やばいなぁ。まだ大丈夫だけど、最悪オスとメスを分けて、繁殖させないようにするしかないな」
「マリのデータでは繁殖の方法を、そのようなやり方で止めた記録はありません」
「仕分けるなんて面倒な事しないで、外に出しちゃう方が楽だろうしね……お、エリカも励んでるな~。ここの訓練場は、まぁうるさいけど、この音じゃないんだよね」
「次の階層が、新しく作られた場所です」
マリがそう案内し、階段を下りた所で、谷山の眠りを妨げた諸悪の根源が全身を震わせた。




