悪戯?本物?女の子?
豊は、昨日パソコンに表示されたメッセージが気になっていた。
「5月26日午後3時、安田公園中央噴水前にて待つ。三毛猫」
ウイルスが表示した、意味の無いメッセージだと言ってしまえばそれまでだが、このメッセージの中には、偶然とは思えない部分がいくつかあった。
まずは日時だ。
この日付は、今週末の土曜日の日付であり、豊が行く事が可能な日時が指定されている。
パソコンに設定されている時間から、適当にその週の週末を指定しただけかもしれないが、それなら日曜日の方が確実ではないかと考えられる。
次に待ち合わせ場所だが、グーグルマップとストリートビューで調べたところ、音子が移動してきた、ベクトルのラインに近い場所であり、音子が見覚えのある場所でもあった。
そして最後に、三毛猫。
三毛猫ルートに入ったのだから、恋愛シミュレーションゲーム的に考えれば、三毛猫が待っているってのは、当然の話の流れではある。
しかしやはり、音子の操作していたパソコンに三毛猫ってのは、できすぎではないだろうか。
それに、あのパズルゲームのようなもので、三毛猫を完成させる事ができなかったら、どういうメッセージが出てきたのだろうか。
こんなにも色々な事が偶然に重なる確率は、いったいどれくらいだろうかと、豊は考えた。
おそらく、限りなくゼロに近いと思う。
となると、このメッセージを音子が受け取った事は、必然だった事になる。
豊はそんな事を繰り返し考えながら、学校の授業を消化していった。
昼休み豊は、一応三杯にウイルスの事を話した。
「あの猫ウイルスな、ゲームできたり、三毛猫ルートに入ったり、意外に楽しめたぞ。」
楽しんでいたのは主に音子だが、実際ウイルスにしては面白いものだったと、豊も思っていた。
「マジか!って、あの後実は少し調べたんだが、あのウイルスって、特定のIPアドレスに、強制的にメッセージを送るのに使われているらしい。」
ウイルスは犯罪になり得るものであり、決して配布したり、利用したりしてはいけない。
だけど、そうは言っても、世の中には悪用する人も多く、軽い気持ちで悪戯に使う人や、ウイルスを持っている事を自慢する人さえいる。
「そうなのか?はた迷惑なメールみたいなもんか。」
豊の印象は、正に的を得ていた。
一応言っておくが「的を得ていた」と書いたのは、わざとである。
的を射ても、当たるかどうかわからないし、意味としてどうもあやふやに感じるから、的を得ていたと書いたのである。
得るとは当たるという意味で、正に豊の発言は当たっていたというわけだ。
「そうそう。だから解除する方法もあるみたいで、いくつかのサイトで紹介されていたぞ?言わなかったっけ?」
三杯の言葉に、豊は1週間無駄に待たされた気がしたが、たとえ聞いていたとしても、インターネットサイトを調べる術がない。
いや、学校のパソコンで調べて、プリントアウトして持ち帰っても良かったわけだが、今更なので三杯を責める気にもならなかった。
だけど、一応お約束というやつだ。
言っておかなければならない。
「言ってねぇよ!言えよ!」
うむ、これで全ては丸くおさまる事だろう。
「で、最後のメッセージはなんだったんだ?」
当然、こんなウイルスを使ってまで送ってきたメッセージだ。
どんなメッセージなのかは気になるところだ。
しかし豊は、話す事に少し躊躇した。
自分は行こうと思っている事、そしてその際、音子を連れていく事に決めていたから。
「いや、なんだかギャルゲーみたいにさ、なん時に公園で待つとか、そんなメッセージだったよ。」
豊は、時間や正確な場所まで伝えるのはよろしくないと考え、あやふやに伝えた。
もしも、音子の存在がなければ、豊はきっと三杯と一緒に行ったに違いない。
もしくは、端から行かない公算が高いか。
だけど、豊があやふやに伝えた事で、逆に三杯の興味を引いてしまった。
「それ、面白そうじゃん。これは誰かからのメッセージなわけだし、実際に待っている可能性があるぞw」
豊は考えていた。
三杯に音子を会わせると、色々面倒な気がする。
でも、親友の三杯だし、音子自身話されても気にしていない。
もうこうなったら、普通に話して、成り行きにゆだねようと、豊は思った。
「でもさ、ヤバイ人が待ってるとか、そんな事はないかな?」
「可能性はあるな。その文章正確に、どんなだったんだ?」
あっさりと正確な内容を、三杯に聞かれてしまった。
豊は普通に、その内容を伝えた。
「5月26日午後3時、安田公園中央噴水前にて待つ。三毛猫、だってさ。」
内容は正確に覚えていた。
なんせ行こうと思っていたから。
「ほう。26日ってのは・・・週末の3時か。安田公園は知らないけど、案外近くだったらマジかもなw三毛猫って名前も悪戯っぽいけど、マジなら女の子の可能性がある。」
三杯の予想は、だいたい豊の考えと一致していた。
近くだったらってところは少し違うが、三毛猫が女の子かもしれないってのは、同意する。
だからこそ、悪意のあるメールではないような気がしていた。
悪意がある場合、大概の場合、女性の名前を使う事が多い。
それが一番、相手を安心させるからだ。
たとえば今回のようなハンドルネームや、有名人などの名前だと、本名を明かさない分警戒心を呼び起こす。
男性の名前だと、一部女の子は気になるかもしれないが、やはり会いに行くには気が引ける。
だけどよくある女性の名前だと、本名を明かしている女性ならと安心感がでてきて、実際にアクセスする可能性は高くなるわけだ。
とは言っても、インターネットをよく知る人たちにとっては、逆に疑われる事になるのである。
というわけで、それなりにインターネットをしている豊や三杯にとっては、安心感が持てるメッセージであった。
「俺も、普通の女の子だと思う。それにこんなやり方でってのは、きっと学生かな?」
豊がそこまで話すと、三杯はこの話への興味を失った。
「ま、好きな男にでも届けば良いと思って出したものだな。三毛猫は、その男が見れば、誰だか分かる愛称なんだろw三毛猫なんて知らないし、俺には関係ないな。」
三杯はそう言って立ちあがり、食べ終わった食器が乗ったトレーを手に取った。
豊もそれを見て、同じようにトレーを持った。
結局三杯は、一緒に行こうなどと言う事もなく、音子と会わせる事にはならなかった。
だけどそれは、ほんの少し出会いが延期される程度のものである事は、この話を読んでいる皆さまの予想どおりであった。




