三毛猫?待ち合わせw
時の流れとは、早いものである。
特に、日々充実していたのなら尚更だ。
音子は毎日パソコンと格闘し、猫画像を見る合間に、ストリートビューで、見た事のある景色を探す。
豊はそれなりに勉強しながら、隣の席が空いているのを見て、ため息をつく日々をおくっていた。
私が思ったより、充実はしていなかった。
だけど時は流れるもので、気がつけば26日。
豊は一度家に帰って、再び音子をつれて出かけた。
安田公園には、2時半ごろに到着した。
今日も食事は先にとる予定だったが、音子は相変わらずで、音子の分のパンは、鞄の中に入っていた。
噴水が見えるあたりに来ると、適当なベンチに座った。
するとすぐに、音子は鞄からパンを取り出しかぶりついた。
「うんめぇ~!ジャムパン最高~♪」
音子の食べているパンは、何処にでも売っている、添加物満載のただのジャムパンだ。
だけど1年前まで猫だった音子にとっては、それはそれは美味しいごちそうであった。
その食べる姿を見ると、以前にも書いたとおり、豊は心が和むのであった。
だからといって豊は、必要以上に音子に食事を与える事はしなかった。
別に太るからとか、健康に悪いからとか、そんな事を考えていたわけではない。
食費が倍になり、ただ単にお金が無かった。
更に、毎週週末には出歩き、今月は洋服なんかも買っている。
週明けには仕送りが振り込まれる予定だが、既に三杯に借金までしており、音子と一緒に暮らして行くには、お金の使い方を真剣に考えなければならないと豊は思っていた。
豊が音子を見る視線の先には、待ち合わせ場所に指定された、噴水が見えた。
何人か人がいるが、その人達が待ち合わせに来た人なのか、メッセージを送った人なのか、豊に分かる要素は何もなかった。
だからとりあえず、豊はボーっと音子の食事を眺めていた。
しばらくすると音子の食事も終わった。
音子はゴミを捨てに、少し離れたゴミ箱へと駆けて行った。
その姿もまた楽しそうで、豊は目を細めた。
遠くに見えるゴミ箱に向かって、ゴミを投げる音子。
入らなくてゴミを拾いに行く音子。
拾ったゴミをゴミ箱に入れる音子。
どれもなんだか可愛いと思わせる振る舞いだった。
そんな音子に、一人の女性が話しかけているのが見えた。
豊はハッと立ちあがり、走って音子に駆け寄って行った。
別に知らない人に話しかけられても、普通にしていればなんて事はない。
でも、話しかけていた女性の表情が凄く驚いていたようで、何かがあると豊は思った。
豊が駆け寄っている途中、音子の声が聞こえてきた。
「私は幸恵じゃないのさ。三毛猫なのさ。」
すると話している女性が、更に驚いてこたえた。
「え?三毛猫?あのメッセージを出したのは幸恵お嬢様だったのですか?」
幸恵という名前が出ている事から、話している女性は、川上幸恵を知る人物で、音子を幸恵と勘違いしていると豊は悟った。
故に、音子がこれ以上下手な事を言うと、状況がややこしくなりそうなので、豊は駆け寄りながら声をあげた。
「おーい、音子!どうしたー」
すると音子と、話していた女性が、同時に豊の方を見た。
そこで豊は、二人の所に到着した。
「このお姉さんが、私の事を幸恵と呼ぶのさ。私は幸恵じゃないさ。」
そこでようやく、女性は冷静に考えられるようになったのか、落ち着いた表情になっていた。
「失礼しました。あまりに似ておられたので、てっきり幸恵お譲様本人かと思いまして。冷静に考えると、こんなところにおられるはずは・・・あ、こちらの話でした。」
豊は確信していた。
この人は、川上幸恵をよく知る人物であると。
そして、これはチャンスだと思った。
今まで、休んでいる幸恵を心配しても、どうする事もできなかった。
この人からなら、何か幸恵の情報を聞く事ができるのではと思えた。
豊は、自分が幸恵のクラスメイトである事を話す事にした。
でもその前に、女性が思いがけない事を、豊に言ってきた。
「あの、もしよろしければ、家にきませんか?幸恵お嬢様と会って、少し話をさせていただきたいのですが。」
すると音子は大喜びで「おお!幸恵に会いに行くのさ!」と両手を挙げた。
それを聞いた女性は再び、少し疑問の顔つきになった。
もしかして、幸恵の事を知っているのか?と思ったからだ。
豊はすかさず女性に言った。
「僕、幸恵さんのクラスメイトなんです。川上幸恵さんの。」
場を落ち着かせ、収拾させる為に豊は言ったつもりだったが、女性には色々と疑問がわき上がる結果となった。
幸恵のクラスメイトが、幸恵とそっくりの女の子と一緒にいて、何も感じないのだろうか?
音子と呼ばれている女の子も知っているようだけど、どう思っているのだろうか?
落ち着くのに少しだけ時間を要した。
「そうでしたか。では、そちらのネコ?様が、幸恵お嬢様に瓜ふたつの容姿をしておられる事は、ご存じなのですね?」
女性の質問に、豊は「はい」と一言こたえた。
「では、ついてきてくださいますか。」
豊は再び「はい」とだけこたえた。
女性が歩きだすと、豊は「音子、行くよ!」と手を差し出した。
音子は「おー!」と言って、一人意気揚々と歩きだした。
豊は、出した手が悲しかった。
そして、三毛猫との待ち合わせの事は、すっかり忘れていた。




