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夜会の前、侍女たちが朝から張り切っていた。三人がかりで、腕まくりをせんばかりの勢いだった。
「今夜こそは」と筆頭侍女が言った。
何がこそなのか、リリアーナにはよくわからなかったが、侍女たちの気合いは本物だった。
まずドレスだった。
深い緑のドレスで、デコルテが美しく開いていた。以前のリリアーナには着こなせなかった形だったが、体型が戻った今は、腰のラインがきちんと出た。
次に肌の手入れだった。
侍女がラメの入ったボディーオイルを温めて、リリアーナの首元から鎖骨にかけて丁寧に伸ばした。燭台の灯りを受けて、首元がかすかに輝いた。
「綺麗ですね」
侍女が言った。
「そうですか」
「本当に綺麗です。このあたりが特に」
侍女が鎖骨のあたりを示した。
「首が長くて、ラインが美しくて。今まで首輪で隠れていたのが、もったいなかったですね」
リリアーナは鏡を見た。
首元が、空いていた。
今まで革紐があった場所に、何もなかった。こんなに首元が長かったのかと、改めて気づいた。
最後に首飾りだった。
細い金の鎖に、小さな緑の石が一つついた繊細な首飾りだった。リリアーナの首元に、するりとかかった。
鏡を見た。
首飾りが、ラメの入ったボディーオイルと一緒に、燭台の灯りを受けて輝いた。
「……綺麗ですね」
リリアーナは言った。
「お嬢様が綺麗なんです」
侍女が言った。
リリアーナは鏡の中の自分を見た。
しばらく、ただ見ていた。
クライドが迎えに来た。
扉を開けて、入ってきて。
リリアーナを見た。
一瞬、動きが止まった。
ほんの一瞬だったが、止まった。
それからまた歩き出して「行くぞ」とだけ言った。
「はい」
廊下を並んで歩いた。
しばらくして、クライドが前を向いたまま言った。
「……首元が、違うな」
「侍女たちが張り切ってくれました」
「そうか」
「似合っていますか」
クライドは前を向いたまま、少し間を置いた。
「……ああ」
リリアーナは少し笑った。
クライドは前を向いたまま、それ以上何も言わなかった。耳が、かすかに赤かった。
夜会の会場は、広く明るかった。
シャンデリアの光が満ちていた。楽団が軽やかな曲を奏でていた。正装した貴族たちが行き交い、笑い声と音楽が混ざり合っていた。
クライドとリリアーナが並んで入ってきた瞬間、会場がかすかにざわついた。
視線が集まった。
クライドの隣に立つ令嬢を、皆が見た。
深い緑のドレス。輝く首元。繊細な首飾り。整った体型。そして、以前とは全然違う、健やかな肌と艶のある髪。
ベルテ侯爵家の次女が、こんなに美しかったのかと、会場のあちこちでひそひそ声がした。
クライドは会場を見渡して、そのままリリアーナの隣に立った。
動かなかった。
どこかへ行くわけでも、誰かに挨拶するわけでもなく、ただリリアーナの隣に、堂々と立っていた。
しばらくして、令嬢が近づいてきた。
薄桃色のドレスを着た、笑顔の令嬢だった。以前の夜会でも近づいてきた令嬢だった。
「リリアーナ様、今夜はお綺麗ですこと」
「ありがとうございます」
「本当に。以前とはまるで別の方みたい」
令嬢は扇を揺らした。
「何か秘訣でもありますの? お肌の艶も、髪の輝きも、別人のようで。ぜひ教えていただきたいわ」
リリアーナは令嬢を見た。
「庭のものを、少し」
「庭のもの?」
令嬢は首を傾けた。
「薬草か何かかしら」
「まあ、そのようなものです」
令嬢はしばらく、リリアーナを見ていた。
イザベラに聞かれた時と同じだった。はっきり教えられることではない。
令嬢の目に、少し意地の悪い光が浮かんだ。
「そういえば」
令嬢は扇で口元を隠した。
「ご実家が大変でしたわね。このたびのこと、さぞかしお辛いでしょうと思って」
「ありがとうございます」
「ご両親のこと、お姉様のこと。いろいろと……お可哀想に」
「ご心配いただいてありがとうございます」
令嬢は少し面白くなさそうな顔をした。
同情を装った嫌味が、きれいに受け流された。
それでも、やめなかった。
「でも」
令嬢は続けた。
「アルスター様は最初、お姉様の方をご所望だったとか。お姉様の方がよかったと、そうおっしゃっていたと聞きましたわ。それから……老婆のようだ、とも」
扇の後ろで、笑っていた。
会場のあちこちで、視線が集まっていた。




