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姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています  作者: もちもちほっぺ


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夕食の席に、ルシアンが加わった。

料理長が急な追加に顔を青くしながら、それでも見事な料理を並べた。


白身魚のムニエル、季節の野菜のポタージュ、仔羊の煮込み、焼き立てのパン。燭台の灯りが、磁器の白を柔らかく照らした。

三人でテーブルについた。


クライドが上座に座り、リリアーナがその隣、ルシアンが向かいに座った。

侍女がスープを注いだ。

ルシアンはリリアーナを見た。


「今日の庭での収穫は?」


「残念ながら芋虫は見つからなかったんですが」


リリアーナは答えた。


「カナブンが一匹いて」


「カナブン」


ルシアンは繰り返した。


「どんな味がするんだ?」


クライドが「聞くな」と言った。


「いいじゃないか、気になる」


ルシアンはリリアーナに向き直った。


「どうなんだ?」


「サクサクしていて、ナッツに近い風味なんです。バッタと少し似ていますが、もう少し香ばしくて。羽をとると食べやすくて——」


「なるほど」


「聞くなと言っている」


クライドがまた言った。


「お前だって聞いているだろう」


「聞いていない」


「今、前のめりになっていたぞ」


「なっていない」


リリアーナがクライドを見た。


「クライド様、少し前のめりでしたよ」


「……スープを飲め」


ルシアンが笑った。


魚の料理が運ばれてきた頃、ルシアンはリリアーナに聞いた。


「一番好きな虫は何だ?」


「難しいですね」


リリアーナは少し考えた。


「芋虫は安定して美味しいんですが、特別な日のごちそうとなるとタガメで。でも手に入りにくいので、普段はセミの幼虫が一番好きかもしれません」


「セミの幼虫」


「エビみたいな風味で、クリーミーで。羽化する前の子が特に美味しくて、じゅわっと——」


「それは美味しそうだな」


「でしょう? クライド様も——」


「いらん」


「まだ言っていません」


「言おうとしていた」


ルシアンがまた笑った。


「お前、毎回そうやって断るのか」


「当然だ」


「でもちゃんと聞いているよな、グルメリポート」


「……聞こえてくるだけだ」


クライドは仔羊の煮込みに視線を落とした。

リリアーナがクライドを見て、それからルシアンを見て、また前を向いた。


「クライド様は」


リリアーナは静かに言った。


「いつも最後まで聞いてくださっています」


クライドは何も言わなかった。

ルシアンが口元を押さえた。笑いをこらえているのが、はっきりわかった。


デザートが運ばれてきた頃、ルシアンはふと真面目な顔になった。


「リリアーナ嬢、一つ聞いてもいいか」


「はい」


「公爵邸に来て、どうだ」


リリアーナは少し間を置いた。


「……温かいです」


「温かい」


「食事が来ます。お風呂に入れます。寝台が柔らかいです」


リリアーナは続けた。


「庭の土が豊かで、虫が美味しいです」


ルシアンはリリアーナを見た。

それからクライドを見た。

クライドは無表情のまま、デザートを食べていた。


「……クライドはどうだ」


ルシアンは聞いた。


「一緒にいて、居心地はいいか」


リリアーナは少し考えた。


「グルメリポートを聞いてくださいます」


「ほう」


「虫を食べることを、屋敷の中でやるなとは言いますが、庭ならいいと言ってくれます」


「なるほど」


「メープルシロップが切れたら取り寄せてくれます。ハチの子も取り寄せてくれました」


「それは」


ルシアンはクライドを見た。


「随分と献身的だな」


「面子の問題だ」


クライドは言った。


「ほう、面子」


ルシアンは笑った。


「リリアーナ嬢との対面直後とはえらい違いじゃないか。まるで庇護者だ」


クライドが顔を上げた。


「何が言いたい」


「いや、だって」ルシアンは続けた。


「婚約の再考を求めて、ずいぶんと私に愚痴をこぼしていたじゃないか。それが今や、メープルシロップを取り寄せて、ハチの子を調達して、毎朝庭を散歩して——」


「うるさい」


ルシアンが黙った。

でも目が笑っていた。肩がかすかに震えていた。

リリアーナはクライドを見た。


クライドはデザートを食べていた。耳が、かすかに赤かった。


「……クライド様、お耳が」


「デザートを食べろ」


「赤いですよ」


「食べろ」


ルシアンが今度こそ声を上げて笑った。





夕食が終わって、リリアーナが客室へ戻った後、クライドとルシアンは書斎に移った。

暖炉の前に座って、ルシアンはワインを傾けた。


「いい娘じゃないか」


「……そうか」


「そうかじゃないだろう」


ルシアンはクライドを見た。


「あの娘の前だと、お前の顔が違う」


「何が違う」


「柔らかい」


クライドは黙った。


「夕食中、何度目を逸らした? 虫の話が出るたびに律儀に逸らして、でも全部聞いていて」


ルシアンは笑った。


「可愛いもんだな」


「うるさい」


「それから」


ルシアンは続けた。


「庭での話、ちゃんと聞いていたか? 温かいです、食事が来ます、寝台が柔らかいです。それがあの娘にとっての普通じゃなかったんだぞ」


クライドは暖炉の火を見た。


「……わかっている」


「わかっているなら」


ルシアンは静かに言った。


「調査を急いだ方がいい。あの首輪を、早く外してやれ」


クライドは黙って、ワインを一口飲んだ。

暖炉の火が、ぱちりと音を立てた。


「明日から本格的に動く」


「ああ」


ルシアンは頷いた。


「私も協力する」


二人の間に、静かな時間が流れた。


「……ルシアン」


「なんだ」


「……調査を急ぐ」


「ああ」


ルシアンは静かに言った。


「急いでやれ」


暖炉の火が、静かに燃えていた。

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