表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています  作者: もちもちほっぺ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/42

27

リリアーナは庭を見た。


「私が来たから、土が変わったんですか」


「わからない。でも」


ルシアンは空を見上げた。


「太陽の愛し子として、自然の力には敏感なんだ。この庭の土は、最近急に力を取り戻している」


三人の間に、静かな時間が流れた。

噴水が水を落とす音がした。風が生垣を揺らした。

リリアーナが、土に指を触れた。


「……この土、好きなんです」とリリアーナは言った。


「ベルテ家の庭の土は、いつも乾いていて、ぱさぱさで。でもここの土は、ちゃんと生きている感じがして」


ルシアンがリリアーナを見た。

それからクライドを見た。


クライドは無言で、ルシアンを見た。

二人の間で、言葉なく何かが通じた。




夕方、リリアーナが客室に戻った後で、クライドとルシアンは書斎に移った。

クライドが文献を開いた。


「精霊の愛し子について、調べていた」


ルシアンは文献を覗き込んだ。


「首輪が封印具だと思っている」


クライドは続けた。


「母親が怯えながら外してはいけないと言い続けた理由、ベルテ家の庭の土が痩せていた理由、虫が集まってくる理由。全部繋がる気がして」


ルシアンは文献を読みながら、黙っていた。

しばらくして、口を開いた。


「虫の精霊の愛し子、か」


「知っているか」


「伝承として。自然の恵みを媒介する存在だと言われている」


ルシアンは文献から顔を上げた。


「太陽だけでは作物は育たない。土が必要だ。土を耕す虫が必要だ。ミミズが土を柔らかくして、虫が花粉を運んで、死んだ虫が土の栄養になる」


クライドは黙って聞いていた。


「ここ十数年、日差しは申し分なかった。なのに作物が育たなかった」


ルシアンは続けた。


「私にはずっと、原因がわからなかった。土が、死んでいたからだ」


「封印の首輪のせいで」


「おそらく」


ルシアンは椅子に深く座った。


「その首輪をつけたのはいつだ」


「十数年前だと思われる」


ルシアンが、静かに目を閉じた。


「不作が始まった頃と、一致するな」


書斎に沈黙が落ちた。

暖炉の火が、ぱちりと音を立てた。


「封印を解けば」


クライドは言った。


「土地が戻るかもしれない」


「戻るだろう」


ルシアンは目を開けた。


「でもそれより」


クライドを見た。


「お前、その娘のことが心配なんだろう。土地のことより先に」


クライドは黙った。


「違うか」


「……調査の結果として、封印を解く必要があると判断した」


「そうか」


ルシアンは笑った。


「まあ、そういうことにしておこう」


クライドは文献に視線を落とした。


「一つ、頼みがある」


「なんだ」


「ベルテ家を調べたい。あの家で何があったか、正式な記録として残したい」


ルシアンの笑いが消えた。


「……どの程度だ」


「食事の記録。居住環境。使用人への聞き取り。全部だ」


ルシアンはしばらく、クライドを見ていた。


「わかった」と言った。


「協力する」


「助かる」


「ただし」


ルシアンは立ち上がった。


「一つ条件がある」


「なんだ」


「今夜の夕食に呼んでくれ。あの娘の虫グルメリポートを、直接聞いてみたい」


クライドは額に手を当てた。


「……王子がすることか」


「いいだろう、たまには」


ルシアンは笑った。

「それに」と続けた。


「あの娘が庭の土に触れた時の顔、見たか?」


クライドは黙った。


「あんな顔をする娘が、十数年そのような過酷な環境に置かれていたのか」


ルシアンは静かに言った。


書斎に、また沈黙が落ちた。

暖炉の火が、静かに燃えていた。


クライドは文献を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ