14
グルメの幅が広がるにつれて、リリアーナは少しずつ変化していた。
髪が、変わり始めていた。
ぱさぱさで砂のような色だった髪に、かすかな艶が生まれ始めた。
まだわずかで、よほど近くで見なければわからない程度だったが、リリアーナ自身には感じられた。梳かす時の指通りが、少し変わった。
肌も、変わり始めていた。
灰色がかっていた顔色が、わずかに違って見えた。頬に、血の気が戻り始めているような。
でも一番変わったのは、体の内側だった。
力が、あった。
以前は一日の雑用を終えると、地下室に倒れ込むように帰っていた。今は疲れても、疲れきるまでではなかった。
たちくらみが起きない。頭がぼんやりしない。足元がふらつかない。
虫を食べると、力が湧いた。
なぜかはわからなかった。
ただ、ありがたかった。
ある夕方、マルタがいつもより重い荷物を持ってきた。
「お嬢様、これを地下の倉庫まで運んでいただけますか。男手が足りなくて」
木箱だった。両手で抱えてちょうどいいくらいの大きさで、中身は詰まっていた。
以前のリリアーナなら、途中でへたり込んでいたかもしれなかった。
でも今日は、運べた。
階段も、降りられた。
倉庫に置いて、戻ってきた。
マルタが少し目を細めた。
「……お嬢様、最近顔色がよろしいですね」
「そうですか」
「何か召し上がってますか」
リリアーナは少し考えた。
「庭のものを、少し」
マルタはそれ以上聞かなかった。
「そうですか」と言って、出ていった。
リリアーナは庭に出た。
夕暮れの光の中で、草むらにバッタが一匹いた。
捕まえて、口に入れた。
やっぱり香ばしい。夕方のバッタは、朝より少し温かい気がする。日差しを浴びていたからかもしれない。悪くない。むしろ、朝より好きかも。
リリアーナは草むらにしゃがんで、夕暮れの庭を眺めた。
乾いた土が、斜めの光を受けてうっすらと金色に見えた。
庭師が遠くで水をやっていた。でも土はなかなか、水を吸わない。
リリアーナはしゃがんだまま、土に指を触れた。
ぱさぱさとした、乾いた感触が返ってきた。
何かが足りないような気がした。
何が足りないのかは、わからなかった。
ただ、この土がいつかちゃんと作物を育てる日が来ればいいと、リリアーナは思った。
草むらで、またバッタが鳴いた。
イザベラが夜会から帰ってきたのは、深夜のことだった。
馬車の音がして、玄関の扉が開く音がして、それから屋敷が静かになった。
翌朝、イザベラは朝食に現れなかった。
昼になっても、部屋から出てこなかった。
侍女が食事を運んでいくのが廊下越しに聞こえた。扉が開いて、閉まった。それだけだった。
リリアーナには、何があったかだいたいわかった。
うまくいかなかったのだろう。王子との距離が縮まらなかったのだろう。あれだけ準備して、あれだけ期待して、それでも。
廊下を通り過ぎる時、イザベラの部屋の扉はいつも閉まっていた。
リリアーナに食べかけを持ってくることも、しばらくなかった。
数日が経った。
イザベラは少しずつ部屋から出るようになったが、機嫌は戻っていなかった。食堂で顔を合わせても、リリアーナを見ない。廊下ですれ違っても、何も言わない。
意地悪をされないのは楽だったが、食事が来なかった。
マルタも忙しそうにしていて、雑用の押し付けが減っていた。雑用が減るのはありがたいはずなのに、雑用がなければ食事の駆け引きもない。
リリアーナは庭に出た。
草むらにしゃがんで、土を少し掘った。
芋虫がいた。
丸々と太った、白くて大きな芋虫だった。今日は特別に大きかった。手のひらで転がすと、のんびりと丸まった。
口に入れた。
濃い。今日は特に濃い。カスタードよりもっと深みがある。どこか甘い木の根の香りがして……これは当たりだ。今週で一番の当たりかもしれない。もう一匹いないかな。
夢中になっていた。
だから、気づかなかった。
砂利を踏む足音が、近づいてきていたことに。
足音が、すぐそこで止まった。
リリアーナは顔を上げた。
振り向いた。
男が立っていた。
濃紺の上着。切れ長の目。まっすぐな背筋。
クライド・アルスターだった。
二人の目が、合った。
クライドの目が、リリアーナの口元に向いた。
芋虫の後半分が、口の外でうねうねと動いていた。




