水面下の手合わせと魔将ヘリウス
SIDE--ヘリウス
今朝レオナルド陛下が午後に外出なさると言い出し、私はその護衛役としてお供する事になった。
そしてその午後、私は逸早く昼食を済まし、陛下と合流した後陛下が先頭に迷う事なく先へと進んで行った。
城の城門の近くに来て、そこに他のものが予め用意した馬車の前に私もそして陛下もその足を止めた。
レオナルド陛下が馬車に乗ってから私もその後を追って馬車に乗った。
目的地はどこなのか私は知らないまま馬車は動き出し、数分もしない内にまたその動きを止めた。動き出してから止めるのに時間が短すぎるから私は故障じゃないかと疑ったが、逆にレオナルド陛下はもう目的地に着いたと確信があったように馬車から降りようとした。
護衛役である私はレオナルド陛下の意を察して、陛下が降りる前に先に降りて回りに危険がないか四周を見回した。
幸い危険になりえる要素が無く、陛下も馬車から降りて来た。
その時ようやく私は自分が今何処にいるのかがわかった。
兵舎、もちろんこの王都レギオンに置いてたった一つしかないようなものじゃない。ただ今私とレオナルド陛下がいるのはその中でも一番特殊の軍隊、その無二の軍隊が使用してる兵舎だ。
「......」
こんな場所に来ていったい何の用事があるのか皆目見当もつかない私は考えを巡らせていた。
しかし立ち止る暇も無くレオナルド陛下は兵舎の中へ入り、私も立ち止らずに前へと進んで行った。
陛下はすらすらと前へ進み、その歩き方から何の迷いを感じず、まるでこの場所を熟知してような人のようだ。
「こっち...で...こ...」
先へ進むに連れ、向こうから誰かの声が聞えてきた。
兵士であろう、と兵舎だから当然な想像を浮かべた私は依然と先頭で歩いているレオナルド陛下を見た。その顔に何故か喜びの色があった。
更に先へ進むと練武場らしき場所へ辿り着いた。
「やぁ、レクス、それにクリスもそしてリオンだったかな、元気にしていたのがね?」
その練武場に誰かの姿を確認できたのだろうか、陛下はそいつらの名を呼び、挨拶の言葉を口にした。
「「「陛下!」」」
レオナルド陛下 だと気付いたようで向こうにいる三人の内、二人が剣を持ったまま慌てて片膝を地に着き頭を下げ、もう一人も一瞬のズレも無く同じように跪いた。
「面を上げたまえ、公式な場なら致し方ないとして、こう言う非公式の場ではそう言う堅苦しいものは無しにしたいのだ。」
跪いている三人の元についた途端、レオナルド陛下はそう 面を上げよ て意味を込めたように手を差し伸べた。
「陛下此度こちらにいらしたのは、何か御用があったのでしょうか?」
面を上げた三人の内、さっき少し後ろに立っていた一人の青年が前へ出てきて、レオナルド陛下の来意を尋ねた。
「御用で程の事ではないさ、此処に来たのは此処に来ればそこに居る リオン と会えると思ったからだ。」
陛下は意味有り気にもう一人の青年を見た。
「お、自分にですか?」
陛下に見られた青年は疑問を感じ、人差し指で自分自身を指し、信じられないようにもう一度陛下に確認をした。
「そうさ、君にだよ、リオン。」
何の躊躇いもなく陛下は肯定した。
「…うん?えっと、あの、自分は何かしましたのでしょうか?」
陛下にリオンと呼ばれる青年は後ろにいる私に気付き、一瞬だけ人を見透かす様な鋭い目付きでこちらを見て、また直ぐに陛下の方に視線を向けた。
『成る程、それなりを力は持ってる様だ。』
長い間続いた平和にすっかり平和ボケしてしまった戦士としての血が騒ぎ出した。
「いや、緊張する必要は無い。私はただ一人の男として君に会いたいと思ってるだけだ。」
陛下は青年に説明した。
その後ろに、また力を持つものと巡り会える事を嬉しく思った私は思わず口元が緩んだ。僅かだが抑えていた殺気が洩れた。
「そうですか?良かったです……所でそちらの人は誰ですか?」
青年は私の方に視線を向けた、さっきまで陛下と会話をしてる時ともあの一瞬の内に見せた鋭い目付きでも無い。それは戦いたいと思いながらも我慢して様な好戦的な目だ。
「うん?あぁ、紹介し忘れたね。彼の名はヘリウス、今回は護衛役としてついて来たのだ。」
陛下自ら私の紹介をした。その途中に青年は微かな殺気を私に向けて放った。
「私の名はヘリウス、以後お見知り置きを。特に君に な。」
青年の殺気を感じ、そこから青年の持つ力はそれなりのものじゃなくかなりのものだと私は確信した。緩んでいた口元が勝手上げた。
自分自身も好戦的な目で青年を見ている事を自覚している、だがそれでも私は右手を伸ばしかの青年と握手しようとした。
「……自分はリオン、宜しくお願いします。」
私が差し伸べた右手を見て、青年も自身の名を名乗り同じく右手を伸ばした。
リオンと言う青年の手と私の手が接触し、握手した。互い右手に妙に力を入れず普通な握手を交わした。
しかしどうしようもなくこの青年の リオンの実力が見たくて、手が未だ繋がったままなのに私は左手を上げ、背中につけている弓を取ろうとした。
そんな私の動きを先読みでもした様に青年は リオンの左手が動き出し、直ぐ左手の手元にある剣の柄へ素早く移動して、私が背中にある弓を触る前に少しだけだがその剣を抜け出した。
一瞬私は自分の喉元がその剣に斬り裂かれた事を幻視した。
久し振りに 自身の死 を見た。本当に久し振りで、肌に感じた死が更に内にある血を刺激して、私の左手の動きを止め、また下ろした。
「こちらこそだ、リオン君。」
私はリオン君の目を直視しながら、右手にほんの少しだけ力を入れた。それを応える様にリオン君も少しだけ力を入れた。
互いが少し強めの握手を交わして、お互い繋いだ手を解いた。
その一瞬私は見逃さない。解いた右手に目一杯力を入れ、素早く動かし、左側につけている剣の柄を握った。
しかしそれ際もリオン君は最初から見切ったように、ゆっくりと右手を私の右手を追い、私が剣の柄を握った瞬間彼の右手は私の右手の手首を掴んだ。
「強いね、リオン君は。魔法なしでは、いや魔法ありでもとてもじゃないが勝てそうに無いな。」
こうも手も足も出なかった事は一度たりとも経験した事の無い私はこの二回だけの‘手合わせ’についての感想を述べた。
「ヘリウスさんこそ、強いですね。一般の剣士だったら気を抜けた瞬間にやられたのでしょう。本当、機会があれば一度本気の手合わせがしたいのですね。」
リオン君も彼にとっての真実だろうか、本当に包み隠さずただ言葉を口にしたのだ。
「一般の剣士とは、それは私を褒めているのかい?それとも貶しているかい?」
本当かどうか知らないが、彼の言う一般の剣士と言う言葉に少しイラっとした。
「もちろん褒めているつもりです。魔法ありの戦いでもそこにいるクリスは尚のこと、レクスですら数合で負けるのでしょう。」
リオン君は解釈しようと、説明を付けた。
「それこそ貶しているのだよ。そこにいるレクス君は私も知っているのだ。その彼を相手にこの国に置ける最強を代表する五人しか居ない魔将の内、唯一王都レギオンを守護する魔将にしてこの魔法王国の最終防衛ラインたる私が数合で無ければ勝てないとは、貶しているとしか聞えないのでね。」
実力があっても見る目の無いリオン君を私は少し怒りの篭った口調で棘の有る言い方をした。
「嘘⁉︎魔将って⁉︎」
向こうにいる少女は驚いた。
「……魔将ヘリウス。」
レクス君は数度顔を合わした事があるからあんまり驚いていない様だ。
「それはどうでしょうか?」
リオン君は意味深な笑みを浮び、掴んでいた私の右手を離し、目で私に 斬って見たら と伝えた。
「ふっ!そんなに見たいのならば...はぁ!」
リオン君が伝えたい言葉をはっきりと理解し、私は握り締めていた剣の柄を放さず素早い足捌きで一瞬内リオン君の横へ移動し、そのまま魔法の力を借りずに地を蹴り、一気にレクス君との距離を縮めようとした。
「えぇ!?」
少し離れている少女は驚いた。
「ちょっ!?」
そしてその同時にレクス君も私の行動に驚いた。
「なっ!待ちたまえ!ヘリウス!」
急に動き出した私を見て隣に居るレオナルド陛下は叫んだ。
しかし時は既に遅しだ。
一気にレクス君との距離を縮めた私はレクス君が反応するのを待たずに剣を抜き、一閃した。
キン
レクス君の力量を知ってる私は最初から寸止めでいるつもりで音が聞こえてくる所か、本来ならレクス君が反応する事すら出来ない速度の筈なのだ。
しかし現に金属と金属がぶつかり合った音が響いた。あの一瞬で私が気付く事すら出来ない速度でレクス君は反応し、その手に持ってる奇妙な形をした剣を少しだけ抜き出し、他の部分が鞘に納めたまま抜け身となった部分だけで私の剣撃を受け、結果私の剣が斬られてしまった。
「何の真似かね、ヘリウス!?私はこういう事をさせる為につれて来たのではない!大丈夫かい、レクス?」
陛下は私を怒鳴った。
『理由も言わずにこういう事をしたなら怒鳴られるのも理解出来ない訳じゃない、むしろ当たり前だ。だが...これは幾らなんでも理解のしようが無いな。』
私は陛下の怒りをひたすら受け止め、先端から半分近い所で途切れた剣を私は理解できずにただ見詰めた。
「大丈夫でしたか、お兄様?」
離れている少女もレクス君に寄ってきた...どうやらレクス君の妹のようだ。
「あっ、あぁ、クリス、俺は大丈夫だ。」
レクス君はその妹である少女 クリスに返事をした。
「理解して貰いましたのでしょうか?ヘリウスさん。」
リオン君はゆっくりと私の方に近付いてきた。
「ぷふっ、ぷはははは、あぁ、理解した。全力じゃないとは言いえまさかそこの彼に私の剣撃を防がれ、挙句の果てに私の剣が斬られたとは。愉快だ、本当にどうしようもないくらい血が滾るね。」
リオン君の一言で私は噴出した。そんな私の言葉通りに内にある血が久々にこれてない程に騒ぎ出した。
「それはよかったです、ですが何時かは本当のヘリウスさんと手合わせをしてみたいものです。」
リオン君はそう意味有り気に私に言った。
「残念だが、どうやら私と君では力の差が有りすぎたようだ。とてもじゃないが勝てると思える相手じゃないのだよ、君は。だから、負けると判っている上で勝負をする気は起きないね。」
私は折れてしまった剣を鞘に戻し、そうリオン君に返事した。自分の中に戦ってみたいと騒ぐ血を無理矢理抑え込んだ。
「そうでも無いと自分は思う。ヘリウスさんが本当の得物を手に取って戦って見ないと。」
リオン君は私の背中にある弓を指した。
「……ふん、流石だよ、リオン君。しかし……一様考えて置くさ。レオナルド陛下、そこの彼がいるのなら大丈夫と思いますので私は外で待ちます。」
最初はリオン君の申し出を断るつもりでいたが、しかしその力強い眼差しが私の考えを改めた。
「あぁ、構わない。」
陛下の許可が下りた。
「では、私はこれで。また会う、リオン君。君と戦うがどうか真剣に考えてから返事をしよ。」
「はい、良い返事を待ってます、ヘリウスさん。」
こうして短く別れの挨拶を交わし、私はさっき通って来た道を辿りその場を後にした。




