食事と裏切り
SIDEーーリオン
「なぁ、レクス。おすすめの店だし、何かお勧めの料理はあるのか?」
オレはカウンターの中の壁に飾ってるように見える十数個の文字が彫ってある木の札を見詰め、彫られた料理の名称からそれがどんなものなのかが想像出来ないから知ってるであろうレクスに聞いた。
「あるぜ。此処の料理は俺にとってどれも美味しいのだが、その中に一つだけ一押しとして他の奴にも食べて貰いたいものがある。」
レクスは自信満々の表情で得意げに言う。
「あるの、そんなもの?わたし、前に来た時にお兄様から聞いていないのだけれど。」
クリスはじーとレクスを見た。
「そいつは残念としか言いようがないものだ、クリス。何せ、丁度前の一回でお前と此処に来た次の日に俺はその料理を口にしたんだ。その後もお前が会えに来ないから言いそびれてしまった。」
レクスはクリスに答える、過去の事であるのにそれを思い返す時間も必要としないままレクスは答えた。
よっぽどその料理との出会いが衝撃的で、今も完全に憶えているのだろうな、レクスは。
「でなんて料理なんだ、レクス?」
オレはレクスが言っている料理に興味を抱き、好奇心に唆されてレクスに聞いた。
「カレーライスだ。リオンも食べて見るか、ハズレは無いぞ。メチャ美味いんだ、あれは。」
レクスは力説する。
「そうか、ならオレはそれにしよう…クリスもどうだ、この、えーとカレーライスだったか、食べて見るか?」
オレ自身がなににするのを決め、未だ決まっていないクリスに聞く。
「うん。」
クリスは簡潔に返事をした。
「じゃ大将、カレーライスを三人前で頼む。」
オレが大将に注文した。
「あいよ、カレーライス三人前だな、少し待っていろ。」
大将は注文を受け、確認の為に復唱し、多分キッチンに繋ぐであろうカウンターの中にあるドアを開いた。
「ちょっと待ったぁ!」
レクスはさっきに注意された事を忘れ、大声で叫ぶ。
「どうした、レク坊、そんな声を上げおって?」
大将は立ち止まり、振り返ってレクスの方を見る。
「おっ俺はカレーライスじゃなくてほ…ごくん…他のものにする。」
レクスから意外な言葉が飛び出た。なんか裏切られた気分を味わったオレとクリスはレクスを睨む。
「じゃ早くしろ、何にする?」
大将はレクスに聞く。
「うどん、そう キツネうどん だ!」
レクスは即座に注文しようとしたものの名を口にした。
「キツネうどん だな、大人しく待っていろ。」
大将はそう言って中へ入ってドアを開けたままにした。
レクスは一息をつき、隣で睨んでいるオレとクリスに気付いた。
「とんだ仕打ちをしてくれたな、レクス。」
オレは殺意とも言えるオーラを発しながら感情の欠片も感じさせない声を発した。
「そうだよ、よくも裏切ってくれましたね、お兄様。」
クリスもオレのように いや オレ以上に冷徹なオーラを放ち、言葉を口にした。
「まぁ、待て待て。ちゃんとした理由がある、説明はするさ。」
明らかに異常と言えるオレとクリスの態度にレクスは慌て出さずに対応する。
「「へぇ、どんな?」」
オレとクリスの声が見事に重なり、オレもクリスも首を傾けた。
「俺はな…この店の料理を全種類、全部を食べて見たいんだ。まだ食してない料理、それは新たなる出会いなのだ。」
レクスはまるで人が変わったように いや これもはや既に別人だろう と思うくらいの変わり身で自分自身が言う理由を述べた。
「「そっ、そうなんだ(ですね)」」
そんなレクスに不思議にもオレとクリスは会話をしなくても同じ対策を採った 誤魔化してそれがやり過すのを待つ と言う対策な。
「そっ」
レクスはオレ達の対策を無視しようとした。
「はい、お待ち、カレーライス二人前とキツネうどん一人前。」
大将が戻って来てその声と共に慣れだ動きでオレ達三人の前に其々注文したものを置いて、其の上食器までセットで置いてあった。
早い上にナイスタイミングであった。
オレ達三人は揃って自分の目の前にある料理を見る。
オレの前に置いてあるのはカレーライス、ライスと言うものは以前 マギウスさん の記憶で知ったお米とは同じものである事は判る。
そのお米であらば食したこともある、だから今目の前の皿の中半分の白いものはオレの知ってるライス つまりお米でもう半分の茶色のものはこの料理の名前から察するに カレー だろう とオレは思った。
オレはそのカレーライスを見ながらセットで置いてあるスプーンを取る、隣に座る同じカレーライスを注文したクリスはオレが動いたのを見て彼女もスプーンを取った。
常連のレクスも食べたいとキラキラとした目で目の前にある キツネうどん とやらを見詰め、スプーンと二本の短くて細い棒切れ お箸 を取り、目を瞑って、合掌した。
「「頂きます。」」
オレとレクスはほぼ同時にそれを口にして、食事に手を付けた。
「何なの、それは?」
オレとレクスが合掌する際にカレーライスを一口食べたクリスは確りそれを飲み込んでから、オレ達に聞いた。
オレとレクスは互いの目を見て どう説明する と会話を交わすように目でやり取りをして、不思議にも何となくお互いの意思が判る感じがした。
「それはこの世界 アデン と異なる世界 異世界での食事をする際に料理に、その材料を提供してくれる人にそしてそれを作ってくれる人に掛ける挨拶のようなものだ、クリス嬢。」
オレとレクスが説明する前に大将が説明をした。
「そうなのですか。そうでしたらわたしも...頂きます。」
クリスはオレ達がやったことを真似て、同じ言葉を口にした。
「やはり大将、あんたは...」
オレは完璧の正解を言い出した大将を見る。
「まぁ、先ずはそれを一口食べてくれ、料理は冷めない内が一番美味いものなんだ。」
大将は顎でオレの前にあるカレーライスを指して、オレを催促した。
オレは あぁ と頷き、スプーンでちゃんと 茶色のカレーと白のライス の両方を取り口の中へ運べた。
カレーライスが舌に接触した時にその味は直ぐに口の中で広がり、味わった事のない味が舌を刺激し、行き過ぎない辛味が程好く食欲を掻き立てて、お米の甘味と絶妙に交じり合い、刺激を更に強くした。
味わった事のない、正に未開な味と言うものであった。
同じくカレーライスを口にしたクリスも 美味しい て顔に出るくらい、その味を気に入れたようで、一心不乱にカレーライスに集中し、当然であるのようにそのお淑やかな振る舞いを崩さずにでだ。
レクスは最初からその出された料理だけに集中し、予想外の味にオレも夢中になり、オレ達三人は其々の料理を食べ進めた。
「「ご馳走様でした」」
オレとレクスは同時に完食し、そして同時にその言葉が自然に口から出た。
「ごっご馳走様でした。」
少し遅れてるがクリスも完食して、オレとレクスの 頂きます を真似したからだろうか、今回もまたオレ達の真似をした。
「おぉ!お粗末さまだ。ほら、水だ。」
大将は三つのガラスのコップを出し、オレ達の前に置いた。そのコップを見るとその中身が大将の言ってた通りに水である事が判る。
オレはコップを持ち上げ、中の水を飲もうとした。
「まぁ、話をしながら飲もうや、ゆっくりとな。」
大将はにやりと笑い、オレは水を一口綴っただけにした。
「じゃ、なにから話そうかな。そうだな...」
大将はオレとクリスに話を聞かせてくれた。オレもその代わりと言っちゃなんだがオレ自身の事を大将に話した。
オレも大将も別に健啖的な人じゃなかったけど、なんだかお互いにしか判らない事があったからか、楽しく会話を続ける事が出来た。




