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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
33/35

31.さようなら、ワンピース

 あれ? でかいジェラフビルをシュンが倒したら、魔物が逃げ出し始めたぞ。


 俺は、上空から見ているスズメさん達から送られてくる情報によって、その事に気が付いたのだが。


 でかいジェラフビル(キリン)を倒しただけで、麒麟の魔王は姿さえも見せてないし、魔物が逃げていく理由がわからない。



 あ……もしかして、魔王って伝説上の麒麟じゃなくて動物のキリンだったったのか。


 そう言うことならこの状況も理解できるし、シュン達が真っ先に、動物型の魔物の集団を相手し始めたのも納得だ。


 そう考えると、アリスが風呂場で言っていた『紫色の舌』って言う特長にも符合するし。俺の思い込みによる勘違いだったようだ。


 異世界、魑魅魍魎、魔王のキリンって言われたら、麒麟を想像してしまった俺が悪いのか……悪いんだろうな。


 紫色の舌ってワードが出たとき、時間もあったんだからスルーしないで疑問を感じたその時に、聞けば済む話しだったんだもんな。


 でももし、魔王が動物のキリンだと知っていたら、奴は昨日の午前中には居たはずだから、昨日はずっと集中して監視していたと思う。


 そうすると、草原をただ走り回っていただけにしか見えなかったから、あれは擬態で天物を一掃する為に、何かやっているんだと勝手に妄想していたに違いない。


 そして、直ぐにでも魔王の力で天物を一掃して、こちらに向かってくるんじゃないかと考えるだろうから。


 午後のアスレチックは中止にして、シュン達を何らかの理由を付けて休ませていただろう。


 そうなると、アスレチッククリアの賞品は理由が無くて渡せなかったし。


 封印することに決定した、ミリィの戦略級の一撃も射れなかったから、主力だったゴブリンやコボルト、オークの集団がまるまる生き残っていたはずだ。そうなると、今日の戦いもどうなってたことやら。


 考えれば考えるほど、恐ろしい。


 小石だと言っても、無数に飛んでくれば、守りに集中せざるえない。


 その間に二重三重に囲まれれば、いくら勇者チームだと言え袋叩きの未来しか、やっぱり見えない。


 そんな光景をみたら俺は、安全地帯まで逃げて来れたらだなんて悠長なことを言っていられず。


 スズメさん達を救援に向かわせた上で、死なない身体を囮にして4人を逃がそうと考え、俺自身も向かっていただろう。


 試した事が無いから、どうなるかわからないけど。


 石が当たれば痛いだろうし、魔物の爪で裂かれて牙やツノに貫かれたら、痛いだけじゃなく動けなくなって何も出来なくなっているかもしれない。


 例え最後まで動けたとして、安全地帯ギリギリに準備している、石細工術スキルを駆使しても全員を逃がすことが出来たかどうか。



 たら、れば、で思考を進めているが、こんなこと考えても意味がない事はわかっている。


 だが俺が動物のキリンを伝説上の麒麟だと間違えてなければ、風呂場でアリスに再開しなければ、ここで休まなければ、

魔王戦に参加しなければ、ハウスキーパーにならなければ、王都に来なければ、シュン達に会わなければ、そもそも巻き込まれて、この世界に来なければ。


 シュン達は魔神の守護竜戦で死ぬ運命だったのかもしれない。よしんば生きていても。


 このキリンの魔王率いる魔物+天物で千を遥かに超えている敵に対して勇者チーム4人だけでの遭遇戦は、必死だっただろう。


 俺は天魔神族のチモシーと一緒にいたら、何かに巻き込まれてしまうと考え、避けようとしていたが、この世界に来てしまった時点で、既に勇者チームの4人の運命を握ってしまっていたらしい。


 40歳にもなってから異世界で何が出来るんだと考えていたけど。


 結果だけみれば、少なくとも死ぬ運命(サダ)めだった4人の運命を変えることが出来たようだ。


 この事は偉ぶることでも、自慢できることでも無いけど、理由なく、ただ巻き込まれて来てしまっただけではないと、俺自身の自信に繋げることは出来た。


 魔物の集団は、こちらには来なくて、草原の奥に消えて行くのを見て、俺は安全地帯から草原に足を踏み入れた。



 シュンを追いかけていたミリィが、俺に気づいて満面な笑みを浮かべながら、手を左右に振り近寄ってきた。


 魔王を倒したから機嫌が良いのかと思ったのだが、何かが引っ掛かった。


 その瞬間に、このままではいけないと言う焦燥感に、俺は囚われてしまった。


 なんだ、何が原因なんだ。


 思考の1つが休憩中だから、1.75倍の速度で原因を探った所で気が付いた。


 ミリィは、満面な笑みを浮かべてはいるが、目が笑っていないことに。



 なんだかわからないが、これはヤバい、ぜったいにヤバい事が起きると思っていると。


 喜びを共に味わいましょうって感じで、俺に飛び付こうとミリィは軽くジャンプしてきた。


 思わず受け止めようと両腕を伸ばし掛けたが、この状況はさっき見たばかりと思い出し、咄嗟(トッサ)に常時から魔力を込めている服に更に全力で魔力を込めていた。


 もし俺が、シュンの末路を見ていなければ。

 もし俺が、咄嗟に魔力を込めていなければ。

 もし俺が、戦場だと言うのに油断していたら。

 もし俺が、『頭でっかちん』でなければ。


 たら、れば、で思考を進めているが、こんなこと考えても意味がない事はわかっている。


 わかっているけど、目の前で、右手を押さえながら痛がって地面を転げ回っているミリィを見てしまうと。どれか一つでも欠けていたら、俺が転げ回っていたに違いない。


 シュンとの決定的な差は、頭でっかちんの親玉に見えるヘルメットの有無だろう。


 このヘルメットを被っていたおかげで、本来なら脳天に落とされていた筈だった拳骨が、ボディーブローに変更されたのだから。


 このワンアクションがなければ、魔力を全力で込める時間はなかっただろう。


 戦いが終わっても戦場では油断しないで、頭でっかちんと笑われても脱がなかった俺の用心深さに敬意を表したい。


 なんて、自画自賛していたのだが、先程まで転げ回っていたミリィが動かなくなった。


 不思議に思い【能力閲覧】魔法を使って状態をみてみたら。



名 前:ミリィ

種 族:猿人

生命力:75%(気絶)

年 齢:16歳



 生命力が75%になってしかも気絶って、どう言うことだ。


 思わず絶句して見ている内に74……73……72%と徐々に減っていく。


 ボディーブローを食らったのは俺なのに、なんでこんな事になったんだ。


 動かなくなったミリィが心配になって、近寄ろうとしたが、全力で服に魔力を込めていたせいで硬くて動けなかったので、魔力を込めるのを止めてから再び近寄ると。


 生命力の減少は止まり、逆に回復方向に転じていた。


 それを見て一先(ヒトマ)ず安心したが、ミリィの右手の状態は酷いの一言であった。


 いくら俺の服が硬くても、自分の手が酷い状態になるくらい強く殴ったのなら、自業自得と言えばそうに違いないんだが、さすがに普段のミリィを見てればわかるが、何の理由も無く殴ったりするような性格ではないことはわかっている。


 だとすれば、俺に原因があるのだろう。案外、シュンが追い駆け回されていた理由と同じなのかもしれないし。



 俺は辺りを見回してみる。


 シュンは、俺に向かって走っていたミリィが、ジャンプした時から、頭を抱えて背中を見せている。


 スズメさん達の映像情報で見ていたからわかるが、あんなのトラウマレベルの攻撃だ。シュンが昨夜、必死に『言わないでくれ』ってお願いしていたのも頷ける。


 バロンも拳骨が落ちる未来を予想したのか、背中を向けているし、チモシーは横を向いているが、目の前で突然頭を抱えだしたシュンに意識をとられている。


 だとすれば、ミリィが気絶している今なら、チャンスだ。


 ミリィは警戒心が高く、身体を露出することなんて無い。なんせ王都にいるときも、まして風呂上がりでさえ人前では、身体のラインがわからないくらいゆったりとした法衣に、身を包んでいた。


 でも俺は知っている。ベージュの法衣に隠れている大きな二つの実を。


 別に俺は、スズメさん達を使って盗撮じゃなくて盗視していた訳ではないぞ。


 そうあれは、初めて子スズメさんを生産した日の翌日の朝一。


 だから【劣化並列思考】スキルを得られた時だ。


 俺の指示でスズメさん達に、不審者やおかしなことがあったら教えてと、あやふやな事を言ってしまったのだが、その中でシュンがラッキースケベをしでかしていたんだ。


 それも、ミリィが水浴びしてるというのに、扉を開けてしまうと言うお約束ネタだ。


 その時に、一瞬、ほんと一瞬だが、ミリィの上半身が、子スズメの目に映っていたんだ。


 先は腕に隠されて映っていなかったけど、Y型の隙間が出来るほどの大きな実は迫力満点だったと記憶している。


 だから、決して盗撮じゃなくて盗視していた訳じゃない。あれからは大人の強い自制心で、プライベートルームを観るような事はしていない。


 でも、そんな大きな実を持ったミリィが、無防備で気絶しているシチュエーションなんて、今後は無いに決まってる。


 知識としてなら、あの大きな実は柔らかい事は知っている。でもどれだけ柔らかいのかは知らない。


 これはスケベ心では断じて無い。俺の知識を増やすためにも、必要なことなんだ。


 このチャンスを活かすために、俺は一つ決断したことがある。


【自己修復(任意)】

<自然治癒に1月掛かる傷を受けても、すぐに治癒することが出来る。但し、修復に使用する媒体は術者本人となるため、修復に使用した分、術者は筋力等が無くなる。欠損修復も可能。※任意で対象を選ぶことも出来る>


 そう、自己犠牲で対象を修復することが出来ると言うスキルを使うことだ。


 あの頃は自己犠牲で他人の怪我を治すなんて馬鹿馬鹿しくて使うものかと思っていた。


 だが、アリスに教えて貰った通りなら、俺の身体は不滅だ。


 だと言っても、身体の欠損を修復するような事をしてしまえば、回復に時間が掛かるだろうけど。


 でも俺の予想では、怪我の修復くらいなら、殆ど筋力等は使わないで済むはずだ。基本的にくっ付けるだけだからだ。


 ならば、いざと言うときに使えるよう、実験して検証しなければなるまい。


 俺は、気絶しているミリィの傍らに立ち、深呼吸を一つしてからそのまま座った。


 目の前には、ミリィの持つ大きな実があるはずなのだが、仰向けに倒れているのにも関わらず、法衣はゆったりと膨らんでいて実の場所を特定することが出来ない。


 と言うことは、この法衣は丈夫なだけではなく、かなり堅いと言うことだ、前提条件から崩れていたらしい。


 そんな事実を残念に思いながらも、取り敢えず怪我の治療を行うべく【自己修復】スキルを意識して、ターゲットであるミリィの右手に触ってみた。


 スキルの効用は知っていても、使い方がわからなかったから、失敗前提でまず触ってみたのだが。


 ふれただけで、もともとそこには怪我が無かったかのように、綺麗に治ってしまった。


 一応確認してみたが、俺の筋力の減少は、感じられなかったので、こちらの前提条件はあっていたみたいだ。


 次に気絶しているミリィを起こすために、身体を揺すらなければなるまい。


 こんな至近距離で身体を揺すれば、目の前で実も揺れるので、その柔らかさが、わかると考えていた。


 だと言うのに、法衣の防御力は、俺の想定以上に高かったようだ。


 だが諦めきれない。


 俺は一縷(イチル)の望みを賭けてミリィの身体を揺すろうと、覆い被さるように両肩に手を伸ばし掛けた時、何かの気配を感じて視線を上げると、いつの間にか気絶状態から脱していたミリィと目が合ってしまった。


 どうやら、俺の【自己修復】スキルは気絶状態も修復してくれることがわかった。


 俺は、切り札の一枚を切ったにも関わらず、何も出来ない内にミリィが、目覚めてしまったことを正直残念に思ってしまったが、良い検証結果が得られたと思うことにした。


 でも、この状況は倒れた女性に不埒な振舞いをしようとしているジシイに見えかねない。


 新たに発生した危機から逃れるために1.75倍の思考で最適な解を模索してから。


「ど、どうしたんじゃ。ジャンプして、目の前に着地したと思ったら、足を滑らせて倒れたからビックリしたぞい」


 どもってしまったし、言い回しもおかしいが、何もなかった事にすることにしたのだ。


 そして伸ばし掛けていた手で、ミリィの右手を掴み立ち上がらせた。


 立ち上がったミリィは、暫くの間ぼんやりしていたのだが、突然右手を確認し始めた。


 傍目(ハタメ)で見ていたら奇妙な行動に思えるが『右手を痛めた筈なのに痛くなくなってる。どう言うことなんだろう』とでも考えているだろうことは想像できるので、黙っていることにした。


 十分に確認できたミリィは、状況の整理も終えたのだろう。視線を上げて俺と目を合わせてから。


「お恥ずかしい所を見せてしまったようで、ジン様ありがとうございます」


 どうやら俺の思惑通り、着地に失敗して転んだと結論付けてくれたようだ。


 ついその事に胸を撫で下ろしてしまったのだが。


「ミリィに、怪我がないようでほっとしたわい」と気遣うことで、誤魔化すことが出来た。


 その後復活したミリィに、変な形の杖の事で責められたが、魔神の守護竜と戦うために杖を造ってみたものの、あの頃の俺には結局魔法が使えなかったから、袋にしまいこんでいて忘れてた。


 そして、この杖を先日袋の底に見つけたから、賞品にしようとしただけで、能力なんて知らんかったと説明したのだが。




「私に渡した経緯は納得しました。でもこんな危険な物を、安易に人に渡さないで下さい。試験もしてないって暴発したら危ない……バラバラになるかもしれない……危ない……もし知らずに……だったら危ないし、……危ないし、……危ないし……危な」


 俺は、スズメさん達の情報から、トンファー型のミスリルコーティングした杖は危険な物だと理解していた。


 どれくらい危険な物かと言うと、戦略級兵器であるミスリルの弓と矢を、封印した意味がなかったと思うくらいだ。


 言うなれば、単発でしか撃つことが出来なかった大砲時代にマシンガンを投入した用なものだ。


 時代錯誤も(ハナハ)だしい。


 だからミリィが説教したくなるのも無理がない。


 俺は大人だ。だから最後まで話を聞いてから、潔く謝ろうと思っていたのだが。


 シュンやバロンが(ナダ)めても、まったく終わらない。


 幾らなんでもと、ミリィの行動や言動に疑問を感じてきたとき。


 これが、あれが、それが危ないと説教していたミリィが突然切り口を変えてきた。


「そもそもジン様は異常です」


 そんな切り口だったと思う。そこからの説教は、話としても破綻していて、ただの文句のオンパレードになりさがっていた。


 さっきまでミリィを宥めていた、シュンとバロンも、いつの間にかミリィの側について、文句の言葉に相づちを打ち始めた上で、ミリィに渡した杖の異常さを一緒になって訴えかけてきた。


 因みにチモシーは、状況がわかっていないのか、不思議そうな顔をして首を傾げているだけだったりする。


 この期に及んでは、覚悟せざるを得まい。俺はミリィの言葉を遮って。


「ワシが変なものを造ってしまったようじゃ。申し訳ない」


 そう謝ったにも関わらず。


「ジンさん、ミリィに聞いたけど、この杖の能力は異常だぜ」


「ぬぅ、ジン殿。それがしも異常だとしか思えんぞ」


「この変な形の杖も異常だけど、ジン様も異常だわ。だって……」


 まるで何かに取り付かれているみたいだ、俺の謝罪も聞こえていないみたいだ。


 今は何を言っても駄目らしい。なので、強行手段に出ることにした。


 文句を言うことに夢中になっているミリィに近付き、腰に引っ掛けていた俺の渡した杖をすれ違い様に抜き取り、ミスリルコーティングを剥がしてから再びミリィに渡した。


「いきなり何をするんですか」と文句を言いながらも普通に受け取って貰えたところで。


「ワシが変なものを造ってしまったようじゃ。申し訳ない」と再び謝ってから。


「ワシが居ることで、そんなに不満が溜まっていたんじゃな。ならワシはもう不要のようじゃの。これ以上留まってしまうと皆を不幸にしてしまいそうじゃ。だからワシは皆と別れよう。そうそう、皆の言う、危ない杖は普通の杖にしといたぞ。安心して使うがいいさ。短い付き合いじゃったが、楽しかったぞ。4人ともここでサヨナラだ。達者にな」


 そう俺は言い放ち、三人と距離を取ってからチモシーを一瞬だけ見ると、まるで待ってと言いたそうに右手を伸ばし掛けていた……が無視した。


 俺は石細工術スキルで巨大な土壁を造り、4人の視線を遮ってから、同じく石細工術スキルで、地面に穴を掘り、飛び込んだのちに、土壁を俺が居た方向に倒して土に戻し、それから、地下に部屋を造り、穴を塞げば。



 これで4人には、俺が瞬間移動したかのように見えた筈だ。


 俺には、魔神の使いや、天神の使いや、アリスのように瞬間移動なんて出来ない。


「サヨナラ」なんて言っといて走って去ろうとすれば、あっと言う間にシュンに捕まるだろう。


 捕まっても別に良いんだが、その時に何かが起きそうな気がしたから、びっくり演出をして消えて見せたのだ。


 何せ、ミリィの行動がおかしすぎる。シュンみたいに鍛えていなければ、あのジャンピング拳骨を俺のような一般人が耐えられる訳がない。


 それにも関わらず、やろうとして、結局はヘルメットのおかげでボディーブローに変更になったが。


 それでも、手加減無い一撃はミリィの右手を壊していた。自分の手を壊すくらい強く殴るなんて普通出来ない。


 そして説教から文句と言うか、俺を否定する文言。


 これはミリィだけではなく、シュンやバロンにまで影響を与え出していた。


 まるで、これ以上俺を、勇者チームと関わらせないようにしようとしてる何かが操っているように思えた。


 何もわかっていなそうなチモシーには、申し訳ないと言うか、悪いことをした気分だが、俺が少なくとも一旦は離れないと駄目な気がしたから、こんな事をしたのだ。


 そして、こんな事になった原因の一つは、間違いなくミスリルコーティングした杖だろう。だからコーティングを剥がして普通の杖にしたのだ。



 だからきっと。


「これで良いんでしょ」と言いながら振り返ると。


そこには……。



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