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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
32/35

30.6.(外伝)麒麟の魔王戦(それぞれの戦い:チモシー、ミリィ)

チモシーとミリィ視点です。

注:視点が変わります。


−−《チモシー視点》−−



 あたしはジンを見て、魔法の使い方を変えてみた。


 風魔法は、風を吹かせるだけ。


 押し留めたり、吹き飛ばすことは出来ても、風魔法だけでは、襲ってくる相手を倒すことは出来ない。


 そんな中、シュンに教えてもらったのは、ミリィの土魔法と合わせること。


 ミリィの土魔法で飛び出した石礫を風魔法で撒き散らしたり、竜巻に取り込んで纏めてぶつけるの。


 だから、いつもミリィと一緒にタイミングを合わせて、比較的安全なみんなの後ろから魔法を放ってたの。


 でも、今日の戦いに後ろは無いから、あたしの位置は真ん中。最後方のミリィは、ひっきりなしに回り込んでくる魔物の相手をしている。


 シュンに教えてもらったやり方は使えないから、魔法の使い方を変えなければ駄目。


 だから、ジンの真似をすることにしたの。それはあたしを守りながら戦ってくれているバロンに、魔物がいっぺんに襲い掛かって来ないように邪魔すること。


 小さな竜巻なら魔力は殆ど使わないから、連続して放つことが出来る。


 でも今日は、とても調子が良いみたい。いつもより魔法を放ちやすい感じがする。ジンに貰った盾のおかげかな。


 そう言えば、あたしには仕込み杖があるから、いざとなれば抜刀して直接攻撃が出来るけど、ジンは何故かわからないけど、直接攻撃が出来ないみたい。


 あたしだって出来るのに、ほんと不思議。


 でも、石細工術ってスキルで家を作ったり、地面をデコボコにしたり壁を作ったり出来るし、野菜を作って美味しいサラダを作る事も出来る、髭もじゃだけど格好いい大人の人族だ。


 しかも覚えたての弱い魔法を使って、対象の動きを妨害するって使い方を教えてくれたり、温水を作ってお風呂とか言う気持ち良い物まで作ってくれる。


 更に私の秘密を知ると、魔族や天族、人族は、あたしを拐おうとしたり、言うことを聞かせようとしたり、逆に気味悪がって離れていったりするのに、ジンは結局変わらなかった。


 ジンは頭が良くて、優しくて、頼もしくて、駄目な事は駄目って言って叱ってくれる……まるで、お父さんみたいで大好きだ。


 でも、お父さんみたいって言ったら駄目な事は知ってるから絶対に言わない。


 でも大好きってことは言っているのに、私の事は子供扱いして取り合ってくれないのは不満だ。


 一昨日の夜に森の管理者(アリス)が来たときに、ついジンの見ている夢を観てしまった。


 していることは、なんだかわからなかったけど。


 好きな人と二人きり……他に誰かが居る時には、やってはいけないことだと言うことはわかった。


 だから、ジンは森の管理者(アリス)が好きなのかもしれないと思ったら、すごく切なくなった。


 昨日、ジンの部屋で二人きりになれたから、森の管理者(アリス)では無くて、あたしを見てって思って。


 ジンが気持ち良さそうにしていたことを真似してみたの。


 もう少しでジンを気持ち良くさせることが出来ると言うタイミングで、ミリィに邪魔されてしまったから、つい、ため息を付いてしまった。


 なんだかわからないけど、とっても残念な気分になった。


 あれから何故か、ジンの考えが観れなくなった。不思議だったし不安にもなった。


 でも、その変わりにジンはあたしの事を気にしてくれるようになった。


 あたしの秘密を知っていると、先日の仕返しの様に話してきていたけど。


 あたしの事が好きになってきたから、気になって、あたしのことを色々聞いてきてくれたんだよね。


 それに、ジンとおそろいの盾も、賞品だと言ってプレゼントしてくれたしね。


 たがら夜は嬉しくて、盾を抱っこして寝てしまった。まるでお父さん(ジン)に守られているようで、朝までぐっすり眠ることが出来た。


 そうだ。ジンに天魔神族のことを聞かないといけない。


 ミリィに調べて貰っても、そんな種族の資料は何も出てこなかった。だと言うのに、ジンは知っていた。あたしは知りたい。あたしの出生に関わることだから。


 あたしは左腕に装備されている盾を見ながら、ここが戦場だと言うのに、つい微笑んでしまった。


 ジンは石小屋に居て、ここには居ないけど、あたしの左腕で守ってくれていると思えたからだ。



 ジン、待っててね。



−−《ミリィ視点》−−



 朝、いきなりアスレチッククリアの賞品だと渡された頑丈な杖だけど、これ凄く使いやすい。


 杖なのに短くて、変な形をしているから狙った所に当てられるか心配だったけど。


 なんてことなかった。


 この持ち手を握って狙うと、手前側の出っ張りが手首を固定してくれるので、走りながらでも、ぶれたりしないし、上に付いている(ヘコ)みと尖端に付いている(デッパ)りを合わせるだけで、狙った場所に魔法を放つことが出来るのよ。


 使いなれた普通の杖と比べると、狙いは多少甘くなってしまうけど、普通の杖で同じことをしてたら、この数には対応しきれなかった。


 対多数用のこんな杖が準備されているなら、数が多くても心配ないと朝言ってくれてれば、余計な不安を抱かずに済んだのに。


 あとでシュンには折檻(セッカン)して差し上げますわ。


 普通の杖より狙いは甘くなるけど、威力は圧倒的に、変な形の杖の方が上なんだ。


 なんでかと言うと、接敵した時に、取り敢えず使えるか試してみようと考えて、いつも使っている杖と同じくらいの魔力を込めて放ったの。


 そしたら、私が最大で放った魔法よりも遥かに大きい魔法が飛んでいって、魔物の先頭集団が一瞬で肉片になったのよ。


 あんまりな光景に、思わず足が止まってしまったわ。


 これを見て私は、殿を勤めることを提案して。遊撃はいつも通りシュン、先頭はバロン、真ん中はチモシーで、私は左右と後方に回り込んでくる魔物を、相手することにしたの。


 ジン様は、防具にもなる予備の杖だなんて謙遜(ケンソン)してたけど。


 古今東西聞いたことが無い、有り得ないくらい強力で、これが予備だと言うなら主力はどんな武器なんだっていうの。


 後でジン様にも折檻をして差し上げなきゃね。


 こんな有り得ない武器を、うっかり乱戦中にでも放ってご覧なさい。味方まで巻き込んでしまうことになるじゃないのよ。


 武器に関して過小評価や謙遜はしてはいけないって、言い聞かせなきゃ。


 まぁ、過大評価も駄目だけどね。



 そんな訳で、魔力を最小限に、もう殆ど込めていない様な感じて放てるから、外さない様に地面なんて狙わなくて良い。放てる回数なんて気にもならない。


 これだけ放っているのに、初撃に使った魔力でさえ徐々に回復しているのよ。もう馬鹿馬鹿しくって直接魔物を狙ってるから避けられて無駄になっている魔法もあるけど、当たった魔物はバタバタ倒れていくのよ。


 なにこれ。

 凄く気持ちが良い。


 つい調子に乗ってしまい、近い所から順に魔物に向けて魔法を放ちまくっていたら、不味いことになったのよ。


 たった今倒した魔物の影から、別の魔物が私に向かって突っ込んできたの。


 その時私は、逆方向から飛び掛かってきた魔物を迎撃するために、その魔物に対して変な形の杖を向けようとしていたの。


 間合いがもう少し遠ければ、飛び掛かってきた魔物をに魔法を放ってから、突っ込んでくる魔物に魔法を放てば済むのだけど。


 突っ込んできた魔物はもう至近距離だ。どうしようと考えている間に身体が勝手に反応した。


 気が付いた時には、私は逆さまになって宙を浮いていた。


 別に体当りを受けて、はね飛ばされた訳ではないのよ。


 私は平面方向に避けたのでは無く、杖を支点に腕だけで上方向に避けていたのよ。


 今は眼下である、私が今まで居た場所を魔物が通過しようとしていたので、思わず魔法を2連発してた。


 通過した魔物は、勢いそのままに走り抜け、倒れた。


 着地したあと私は、平然と次の魔物に照準を合わせていたけど、内心は自分の動きに驚いていたのよ。


 でも、良く考えてみれば昨日、アスレチックで同じ様な経験をしていたことに気が付いた。


 あの時は、左右同時に数個の泥玉が飛んできて、逃げ場が上にしか無かったから杖を支点にジャンプしたんだ。


 バロンは、何度やっても全てを防ぐ事が出来なくて(イキド)っていたけど。


 あの経験がなければ、私は今頃、踏み殺されていたかもしれない。


 ジン様、貴重な経験をさせて頂きありがとうございます。


 だから、きちんと御礼差し上げますわ。


 でも、御礼は御礼、折檻は折檻。共に差し上げますので覚悟していて下さいね。



 少し先に、通常サイズより明らかに大きいジェラフビルが見えた。


 朝シュンが、魔王はキリンだって言っていたから、きっとあのジェラフビルが今回の標的ね。


 それにしても、ゼブラビルにしても、ゴートビルにしても、シープビルにしても、ジェラフビルにしても動物の時は、つぶらな瞳をしていて、草を食む姿は可愛らしいのに、魔物化するとなんで凶悪そうな顔になるんだろう。


 でもジェラフビルは別か。魔物化してなくても、たまに見せる表情で嫌な性格をしているのがわかるもんね。


 キリンって、首が長いから背の高い木の葉も食べられるんだけど。それでもギリギリ届かない時には、紫色した長い舌で絡め取って食べるんだよ。


 それだけなら別になんとも思わないんだけどね。


 男性は気が付いていないらしいけど、女性は……特に髪の長い女性はみんな気づいてる。


 ふと視線を感じて振り向くと、キリンがこちらを、あのつぶらな瞳で見てるんだ。


 だけど、注意して視線の先を追うと。


 決まって髪の毛を見ているのよ。そして、こちらがその事に気が付くと、紫色の長い舌を出して舌舐めずりをしてからそっぽを向くんだよ。


 あれはぜったいに、隙あらば人族の女性の長い髪を食べようと狙っている以外に考えられない。


 キリンって、自分は無害だと、つぶらな瞳で訴えかけつつ、紫色の舌を出しながら裏で何を考えているのかわからない、ほんと狡猾な生き物なんだよ。



 うわ。魔王になっても紫色の舌を出して舌舐めずりしてるよ。


 魔王化して凶悪顔に更に磨きが掛かったから、ほんと悪いことしか考えていないようにしか見えないし。


 被害を受けるのは、もしかして近くにいるゼブラビルの長い(タテガミ)かしら。


 そんなことを思っていたら、唐突にキリンの魔王の首が飛んだ。


 どうやらシュンが単独で魔王に挑み、その首を切り落としたようだ。


「なんか何時ものシュンとは、技が違うみたいだなぁ。もしかして新しい技かな……変な名前を付けていなければ良いけど」


 魔物の集団の真ん中に居て、そんなことをのんびり言っていられるのは。


 群れのリーダーである魔王が倒された事に気付いた魔物達が、動ける個体から我先へと逃げ出していたからなんだけど。




 私は、バロンとチモシーと合流して戦いに生き残ったことを讃えあってから。


 魔王の死体の傍らに佇むシュンに向けて、手を振りながら駆け寄り軽くジャンプした。


 いきなり目の前でジャンプしたことで、私を受け止めようと、シュンが反射的に両手を伸ばしてきたので、そのまま抱き着く振りをして。


 思いっきり……頭に拳骨を落としてあげた。


 拳骨の当たった頭を押さえながら、シュンが地面を転がりまくってる。


 そう、これは変な形の杖の能力を黙っていたことによる罰なのよ。


 シュンに折檻するときは、油断している最初にやっておかないと、話を聞いてからなんて、悠長なことを考えてたら、いざって時には避けられちゃうし、しかたがないのよ。


 でも稀にシュンがまったく悪いことをしていない時があるから、その時は謝るしかないけどね。


 今回は、取り敢えず折檻したから。


「痛いの痛いの遠いお空に飛んでいけ」


 このワードを言いながら、シュンの頭を撫でるとあら不思議。


「お。痛くなくなったぜ」


 私には【聖天神の加護(癒)】スキルがあるのよ。だからこの程度の怪我なら立ち所に癒すことができるの。


 大怪我したら直ぐに癒すことなんて出来ないけど、軽い裂傷くらいなら任せなさいって感じ。


 だから、折檻だって言って気軽にシュンに拳骨を落とすことが出来るのよ。


 痛みが無くなったはずのシュンは、拳骨を落とされた経緯を悟ったのか。


「俺があんな話をしたからだよな。ごめん」って謝ってきた。


 珍しく、素直に謝ってきたのだけど、なんか微妙に違うみたい。


 私は、話を『しなかった』から、折檻したのに、シュンは、話を『した』から、折檻されたと言ってる。


 って事はシュンの奴。私に関することを何か言ったんだな。


「あれおかしいな。私はこの変な形の杖の能力を話さなかったことに、怒っていたのだけど。大方、私がビックリするところを見て笑おうとしていたんでしょ。でもそれは今罰したから良いとして……シュン。今、あなたは、何かを言ったからって謝ったでしょ……さぁキリキリ吐いて貰いましょうか」


 余計なことを言った事に気が付いたシュンは慌てて。


「いや、その、おう。なぁ、バロン」


「ぬ、ぬう、それがしは、なんのことだかさっぱりわからぬが」


「ふーん、バロンも共犯ね」


 私は腕捲りをする。


「そ、そうだ、ジンさんだ、ジンさんが話して欲しいと言ったからつい」


 なんのことか、察しがついたわ。でもこの場合、ジン様は白か。知らないから聞いたんだろうからね。


 まぁ、アレの名称を直接聞いたわけじゃないから、それくらいなら許そう。だってシュンは魔王を倒したし、みんな頑張ったんだからね。


 よし。気分も入れ換えられた。みんなで勝鬨(カチドキ)でもあげようか。


 私は、自分が自然に笑顔になるのを待ってから、チモシーの手をとりシュンとバロンに近寄ったのに。


「ぬぅ、ミリィ殿はアレが嫌いだと名前を言ってしまった。すまぬ」


「うわっ、ごめんなさい。ジンさんにミリィが魔法茄子(マホウナス)が嫌いだから名前を言わないでって……あっ」


 バロンは名前を言わなかったから、セーフにしておきましょう。でもシュンはアウトね。


 私は、許してあげようとせっかく自然な笑みを作ってあげたのに、踏みにじったシュンに迫り。


 拳骨を落とそうとしたのだが、やっぱり避けられた。


「待ちなさい!」


「待てと言われて、待つ奴はいないぜぇ」


 さっきは神妙そうに謝ってきたのだけど、この変わり身の早さはいったいなんなのよ。


 私達の追い駆けっこは、ジン様が現れるまで続いた。



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