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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
31/35

30.3.(外伝)麒麟の魔王戦(それぞれの戦い:シュン、バロン)

シュンとバロンの視点の話です。

注:視点が変わります。


−−《シュン視点》−−


 すげぇ。すげぇぜ。


 ジンさんの道具ってすげぇぜ。


 昨日の夜、アスレチック相手に暴れていた時にはわかっていたけど。


 この発電棒はすげぇぜ。


 腰にぶら下げてただ走り回っているだけで、俺の身体に稲妻が貯まっていくんだ。


 貯まった稲妻を身体中に張り巡らせれば、何もしないときの倍、いや、これは3倍の動きが出来る。


 頭突きをしようと頭を低くして、突進してくるシープビルが、止まっているように見えるぜ。


 この発電棒をもらう前は、雷魔法を自分に向けて放ち雷を吸収してからでないと、こんな世界は体験出来なかった。


 しかも、直ぐに効力が無くなるから、常時使うには魔法を連発しなければならなかった。

 でもそんなことをすれば、魔力があっという間に底をつく。

 だから、ここぞと言う時の一瞬にしか使えなかった。


 だと言うのに、発電棒を装備して走り回るだけで、魔力の消費無く、俺が思い抱いていた理想の動きを継続していられるのだ、最早すげぇとしか言い現す言葉がない。


 正直に言えば、俺は強さの限界を迎えていたと思っていた。なので雷魔法を使った一瞬の爆発力の回数を増やす以外に、俺はこれ以上強くはなれないと悩んでた。


 そんな俺の心の内の葛藤なんざ見せたことなんて無い筈だと言うのに。


 ジンさんは、一般知識は無いが、なんだかんだ言っても賢者なだけある。こんなにも素晴らしい物を、さらっと。ほんとにさらっと、賞品だと言って授けてくれた。


 授けてくれたって言うのは俺の気持ちだ。


 実際は偉ぶることも無く、情けをかけるでも無く、朝食が出来たから食べろって感じに普通に渡されただけだ。


 俺の悩みを一瞬で全て解決してしまうような、すげぇとしか表現出来ないような道具だというのにだ。


 実は、アスレチックをクリアした賞品だと渡された直後は、喜んだ振りをしていたが内心は、ただの丈夫な棍棒かとがっかりしてたんだ。


 しかも、振ればビリビリして面白いぞと言われ『丈夫な棍棒どころかオモチャかよ、俺は子供じゃねぇぞ』と思ったが、ビリビリって稲妻の事かもしれないと思い直して、言われた通り振れば。


 信じられなかった。


 魔法以外で、更に、こんな簡単な動作で、稲妻を作る事が出来る道具があるなんてことを。


 さらに信じられない事がある。


 バロンやチモシー、ミリィの賞品は、発電棒のような特別な機能を持った物では無かったことだ。


 単純に、材料が無くて1つしか出来なかったのかもしれないが。


 俺が稲妻を吸収して放つことが出来るスキルを持っていると言うことは、ミリィにだって言っていないし、書物にも載っていない俺のユニークスキルなのだから存在だって知らない筈だ。


 でも知っていなければ、こんな偶然は有り得ないだろう。


 ジンさんは何者なんだ。


 俺は俺の直感で、ジンさんとの縁を切っては駄目だと感じて引き止めたのだが、なんで俺はジンさんを引き止め続けていたんだろうと、常々考えていた。


 初めて会った時に思ったのは、胡散臭い爺さんだってことだ。髪や髭を長く伸ばし、洗濯はされていたようだったが、ボロボロで薄汚い格好をして、俺の爺さんの様に説教してきたんだ。


 自分の爺さんならまだ我慢できるが、薄汚い爺さんに上から目線で、自分でもわかっていた失敗した点を指摘されて、さらに説教されるなんて俺には我慢できなかった。


 チモシーに賢者だと言われなければ、命の恩人だと言っても殴ってたかもしれない。


 あれから治安の良い街に行ってみたいと言う、ジンさんを連れて王都に来た、普通ならこれで別れてしまっても良かったのに、引き止めてしまった。


 確かに、ジンさんがいると、敵の襲撃に対応しやすかったし戦いが楽になった。


 だと言っても、ジンさんが居なくとも、十分に戦えるし、知識から応用できるサポートは素晴らしい能力だが、自分の身を守ることが出来ないなら、共に戦うことは出来ない。


 なのに直感が騒いで、ハウスキーパーとして繋ぎ止めてしまった。


 そして、この魔王戦に連れていかなければ駄目だと、直感が騒ぐからお願いした。


 自身戦えないことを理解して断固反対してくるジンさんを、なんでこんなに頭まで下げて連れていこうとしているのだろう。


 そう思いはしたけど、身綺麗にはしているが、依然胡散臭さ全開の爺さんに俺の直感は、何を期待しているんだ。


 最終的には、チモシーだけが知ってると言う秘密を、バラされたくなかったから同行することになった。


 いつも飄々(ヒョウヒョウ)としているジンさんの秘密には少し興味があったが。


 それよりも、王都に来たがっていたわりには、付近での買い物くらいにしか出掛けていかないジンさんは、いったい何の為に王都に来たのだろう。


 そんなことも聞けない俺は、自身に苛つきを感じていた。


 そして一昨日の夕方、疲れたから休ませろと言ってきた時には、とうとう連れてきたことを後悔した。


 後悔したが、国境を越えてからは、ひっきりなしに、魔物や天物の襲撃を受け続けてたから、ダメージや疲労が身体に蓄積されていることを感じてはいたから、休むことには応じた。


 アフロディーテ女王国の人々が、この瞬間にも魔王の手によって苦しめられていると言うのに、ジンさんは何を考えているのか、さっぱりわからない。


 初めての風呂は気持ち良く、ささくれ立った心を癒し、野菜だけじゃない肉たっぷりの旨い飯は、身体を癒してくれた。


 翌朝の目覚めは最高だった。昨日までの疲れがまったく無い。


 ジンさんはきっと、俺達が疲れているのを感じて強制的に休ませたんだろうと思い至った。


 そんな配慮をしてくれるジンさんに感謝しつつ、これならばと先に進む提案をしたが、ジンさんが拒否した。


 またジンさんが、何を考えているのかわからなくなった。


 確かに歳をとると回復が遅くなることは理解している。頭は理解していても気持ちが、身体が、先に進みたがっている。


 だが頭では理解しているので、先に進む気持ちを抑えることにしたが、苛ついた気持ちを抑えきれない。


 だから、身体を動かすことで、少しでもスッキリさせるため、アスレチックをすることにした。


 アスレチックによる適度な運動は、気分をスッキリさせたし、今まで長く一緒に居たのに気が付かなかったバロンが苦手な状況を新たに発見出来た。


 昼飯後からは、ミリィとチモシーも参加してくれて、色んな状況下でのフォーメーションを試しつつ、協力しあって全員でクリアした時には不思議なことに、今までに感じたことが無いほどの一体感を感じた。


 ジンさんは、俺を苛つかせて、これを狙っていたのか。


 今日、魔王と戦うことになることをジンさんは知っていた。


 だからこそ昨夜の内に、発電棒を授けてくれたのだろう。



 森の管理者との約束で、明日までにアスレチックを破壊しなければいけないことを知って、発電棒を試したいから、これを壊して良いかと聞いた時、一瞬寂しそうな顔をしたのを覚えている。


 俺も、子供の頃にドロを固めて作った家を、ミリィに壊された時に寂しく感じたことがあるから、何となくその感情はわかった。


 まったくわからなかったジンさんの考えが少しわかったので、俺は気分よく発電棒の実験をした。


 その結果、雷魔法を自身に放ち、稲妻を身体中に張り巡らせるより、発電棒の稲妻の方が効率が良いし、身体への負担も少ない。それなのに倍以上の動きが出来ることがわかった。


 俺は発電棒の能力に興奮した。


 俺の直感は、この瞬間の為に働いていたんだと理解した。


 もう、俺には自分自身にも、とうぜんジンさんにも、苛つく事なんてない。まるで憑き物が落ちたようだ。


 そんな最中(サナカ)に聞いた、今日の魔王戦。


 ジンさんは魔物の数が多いことを心配して、撤退を視野に入れた消極的な態度を取っていたことは気が付いていた。


 だがこれは、俺が暴走して直ぐにでも飛び出してしまう性格だと見越して消極的な意見をしたのだろう。


 でも、ここまでお膳建てしてもらったと言うのに、目の前に居る魔王から逃げるなんて有り得ないし、ジンさんもそれはわかっていたはずだ。


 その証拠に、朝は何も言ってこなかったからだ。ほんとに駄目ならば、ミリィとチモシーに言って俺を止めさせればよかったのだから。





 集団で突進してくる、ゼブラビル(シマウマ)の前で緩急を付けながら、サイドステップすると奴等は、まるで俺が何人にも分身したかのように見えたのだろう、戸惑いの表情を浮かべている。


 その集団に向けて軽く踏み込めば、奴等は俺が何処に行ったのか、わからなくなった様で、俺に横腹を向けている。


 こうなってしまえば、自分の横を攻撃できない、ゼブラビルはただの案山子(カカシ)でしかない。簡単に後ろ足の腿を切り裂く事が出来た。


 俺の剣はダメージが蓄積していて、いつ折れても不思議でない状態だ。


 魔物の骨は硬い。出来るだけ剣の負担を下げるなら、骨のない腹を狙いたいところだが、それをやると奴等は死ぬ直前まで襲い掛かってくる。


 だが後ろ足の腿なら、奴等は動けなくなるから襲われる心配がなくなる。手っ取り早く戦闘力を失わせるには効果的だ。まぁ腿にはぶっとい骨があるから気を付けないといけないがな。



 こんなすげぇ動きを、常時していられるなんて最高だ。


 しかも、貯まった稲妻を全開で使っていないのにも関わらずだ。


 今の俺ならわかる。これならもっと高みを目指せそうだぜ。


 もっと早く、更に早く。


 よし、この戦いが終わったら、ジンさんに頼み込んでもう一つ作ってもらおう。左右一本ずつある方がバランスが良いからな。



 おっと、すげぇデカイジェラフビルがいる、そう言えばジンが、魔王はキリンだって言っていたな。


 なら、今貯まっている稲妻を全開で身体中に張り巡らせて……狙いはやっぱりあの長い首だな。


 発電棒が有る今の俺はもう、雷魔法に頼らなくて良いんだ。だから頼雷剣は過去の技だ。


 発電棒と共に俺は新たな高みに立ったからには、新たな必殺技が必要だ。


 そうだ。


「いくぜ。全てを切り裂け! 疾風迅雷剣(シップウジンライケン)!」



−−《バロン視点》−−



 敵が、あまりにも多い時は、守りを固めたところで意味なし。こう言う時はやはり、手数を増やすのみ。普段右手に持つ盾の変わりにロングソードを持ち、左手はジン殿特製の手甲(テッコウ)だ。


 今は、皆の身体を守るための大盾は不要ぞ。


 (オノレ)の身を守るだけなんぞ、この筋肉だけで十分。しかも背後ではチモシー殿が、ジン殿の様に敵を間引きしてくれてる。


 これで、敵に抜かれる様な愚をおかしたら、自害せざるをえまい。だがそんなことは有り得ないだろう。


 この手甲(テッコウ)は良いぞ。


 それがしには、シュンの様な瞬発力は無い。だから基本は盾で敵を受け止め、怯んだ所を長大なロングソードで叩き斬っているが、どうしてもロングソードを戻す間は隙になってしまう。


 だから多数を相手する時は、攻撃なんぞ出来ん。とにかく後ろに行かせないように耐えて、シュンに攻撃を任せるしかないのだ。


 だが、この手甲があれば、そんな隙など無いも同然。ロングソードを振るより圧倒的に素早く打ち、戻す事が出来るのだ。


 以前より、この戦い方は夢想していた。


 だが、王都で特注した手甲でさえ、それがしが手甲を装備し筋肉全開でロングソードを振ると数回しか持たず、壊れてしまう。


 壊れた武具は邪魔どころか、動きを阻害するので害悪である。


 だから手甲は諦め、必要な時は素手で殴ることにしたが、人の皮膚は岩の様に堅くはなるが、あくまで様にだ。岩の堅さにすることは出来ない。


 魔物の骨は硬い。殴り続けている間に、皮膚は裂け、血がにじみ、剥がれ落ちて血が吹き出してしまう。


 何度も繰り返したから理解している。此ばかりは、いくら鍛えた所で人族の限界だと。


 だから、それがしの筋肉に耐えられる手甲が欲しいと望んでいた。


 この事をジン殿に伝えたことはない。だが、それがしのことを、よく見ていたのだろう。


 とは言え、フルアーマーであるのに、素手なのだから、わかりやすいと愚考するが。


 それでも、アスレチックの賞品だと渡された時には、賢者作とは言え、それがしの筋肉に耐えられる訳がないとたかをくくっていたのだが。


 魔力を込めれば、どんなに力を込めても壊すどころか、変形することさえない。


 歓喜した。


 この手甲があれば、夢想が現実になると。


 使っている内に、ふと魔力を込めれば堅くなるなら、火魔法を込めてみたらどうなるのかと考えやってみれば。


 見ての通り、殴った相手が火だるまになって吹っ飛んでいく。


 それがしの筋肉と手甲と魔法が合わさり、三位一体となり、敵を砕き吹き飛ばし燃やし尽くす。


「ぬう」


 たった今、ロングソードで切り裂いたゴートビル(ヤギ)の影からシープビル(ヒツジ)が体勢を低くしながら体当たりをしてくる。


 その背後にも魔物が連なって来ているようだ。


 丁度良い。纏めて吹き飛ぶが良い。


火炎爆裂拳(カエンバクレツケン)!」



 もう一話、外伝を挟みます。


 なので本日は、20時にそのもう一話を公開致します。


 当然、チモシーとミリィ視点です。



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