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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
30/35

30.麒麟の魔王戦(ジン)

 朝っぱらから夕飯の下ごしらえをしている自分に『4人が生死を掛けて戦っているのに、俺は何やってるんだろう』と苦笑しながら手早く準備を終わらせたあと。俺は、石小屋から出て森と草原の境界線に立っていた。


 シュン達に、休んでいて良いと言われていたが、あの4人が生死の境界線で戦っているのだから、庇護欲が強い心配性の俺が、独りのんびり過ごしていられる訳が無く、かと言え戦力外の俺が草原に入れば、4人に迷惑を掛けかねない。なので安全地帯ぎりぎりの場所で見守ることにした。


 しかし、目視で草原を見ても、戦いの状況はまるでわからないのだが、俺には、スズメさん達が居る。上空と言う高い視点から自由に戦場を見ることが出来るのだ。


 とは言え、アリスが狡猾だと言う麒麟の魔王の影響で、スズメさん達がどうかしてしまったら困る。なので、スズメさん達には影響が無いことを確かめながら少しずつ前進してもらっている。


 実際、戦況を観るだけなら、石小屋からでも観ることが出来るのだが、最悪の場合を想定してこの場に来ているのだ。


 最悪の最悪は、シュン達全員もしくは、誰かが魔物や魔王に殺られてしまうことだが、そんな状況は考慮から外した。なぜなら、シュン達の力を信用しているからだ。


 伊達や酔狂で勇者の名を騙っているわけで無いことは、わかっている。


 魔神の守護竜戦では、力を使い果たし半ば諦め掛けていたが、チモシーとミリィが生き残ろうと必死になっていたからこそ、俺が手を貸すことになったのだ。


 でも、そもそも俺の手は、必要なかったのかもしれない。


 先ほど、俺は半ばと表現したのは、なんだかんだ言ってあの時も4人は諦めてなんかいなかったからだ。


 シュンとバロンは、せめてミリィとチモシーを逃がすため突貫する気だったし、チモシーは親に再び逢うために逃げる気満々だったし、ミリィは助けを呼ぶってことは、絶対に生き残りたいと言う意思があったことになる。


 奇跡を信じて行動するのは無謀だが、(オノ)れを信じて行動すれば、(オノ)ずと奇跡は付いてくる。


 なので俺が手を貸さなくとも、別の方法でピンチを乗り越える事が出来たんだろうと、勇者だと知った今は思っている。



 今回の戦いは、どうなるのだろうか。


 ただわかっているのは、シュン達が奇跡を信じて行動しているわけでは無いことだ。


 俺には、多数の的に対してもノープランで立ち向かえる勇気はまったく無い。


 でも、考えるな感じろを地でやっている勇者だが、結果だけ見れば、最適を常に引いているのだ、もしかしたら今回も、結果から見ればってことになっているのかもしれない。


 とは言え、この先魔王は倒された魔王の魂を取り込み、益々強くなっていくのだ。


 勇者の成長にも限界があるかも知れないが、こんな序盤で限界なら。この先、生き残ることは出来ないだろう。


 だが、4人揃って逃げ帰る事が出来るのであれば、まだまだ上を目指せる。仲間と共に得た経験を行かして再戦だって出来るのだ。


 ここまで逃げ帰る事が出来るのなら、俺が最後を引き受けよう。


 俺が石細工術スキルを使えば、足が地に着いている相手なら、いくらでも邪魔することが出来る。


 ただ数百もの相手を一瞬で邪魔するなんてことは到底出来ない。


 なので、必要無いことになることを祈りつつ、草原に石細工術を浸透させる為にここに来ているのだ。



 日が昇るにつれて、草原の状況が、スズメさん達からの情報でわかった。


 ミリィの放った1本目の矢は、ここから2キロ程離れた草原の真ん中に半径500mものクレーターがあったので、ここに落ちたみたいだ。


 クレーターの周辺には多数の魔物が倒れている。


 合計4キロ先のまで届き、直径1キロの範囲を殲滅し、更に周囲の魔物を倒すことが出来たようだ。


 俺の思っていた効果とはまったく違い、本格的な戦略兵器級の威力が出てしまったようだ。


 そして2本目の矢は、途中で失速したらしく、ここから1キロ先で地面の亀裂が無くなっていたが、その周辺にも多数の魔物が倒れていた。


 昨日の日がある内に見ていた数百もの魔物は、ミリィによるたった2射で、二百程度にまで減ってしまっていたみたいだ。


 その事に安堵しつつも、ざっと観た感じ麒麟の魔王の姿が観えないことに不安を感じた。


 魔王もミリィの矢の攻撃に巻き込まれているなら良いなんて、その考えは楽観しすぎだろう。


 減ったとはいえ、二百はまだ居る魔物は、依然統率がとれている。


 この事により、魔王は健在だとわかるのだから。


 観えない魔王は置いといて、シュン達の戦いに注目することにした。


 シュン達は、動物型の魔物であるゼブラビル(シマウマ)やゴートビル(ヤギ)やシープビル(ヒツジ)やジェラフビル(キリン)の集団と戦っている。


 一直線に魔王に向かって突進すると言っていたのに、魔物の数が少ないと見て機動力の高い奴等を先に潰すことにしたみたいだ。


 時折雷光を放ちながら、動物型の魔物のスピードを上回る速度で動き回っているのは稲妻の勇者シュンだ。


 次々に突進してくる魔物を避けつつ、器用にもバスタードソードで足を切り裂き、魔物を行動不能にしていっている。


 時にはそよ風の様に優しく、時には稲妻のように激しく。その戦闘スタイルは、まるで舞を踊っているようだ。


 ここに若い女性の観客が居たら、黄色い声援が飛び交って耳を塞ぐことになっていただろう。



 風魔法で小さな竜巻を起こしているチモシーを背後に守りながら正面から突進してくる魔物を逆に手甲とロングソードで弾き飛ばしているのは、盾重戦士のバロンだ。


 何故か盾重戦士の主防具である特注の大楯は、背中に背負ったままでいる。


 突進してくる魔物を、しっかり腰を落として大楯で受け止め、怯んで動きが止まったところをロングソードで確実に仕留める戦闘スタイルだったはずなのに。


 お、凄いぞ。


 動物型の魔物であるゴートビル(ヤギ)が飛び掛かろうと全身の筋肉を貯ようとした瞬間踏み込み、右手に持った長大なロングソードで切り裂き、その隙を付いてシープビル(ヒツジ)が頭を低くしながら頭突きをしてくるところに、左手に装備している手甲でカウンターを決めてる。


 手慣れていると言うか、イメージがしっかり出来ていると言うか、こんな事も出来るんだ……なんて思っていたら。


 何故かそんな機能を付けた覚えは無いのに、手甲で殴られた魔物は火だるまになって吹っ飛んでいたりする。


 どう言うことだろうと考えてみたら、そう言えば洞窟での戦いの時に、火炎斬とか言いながらロングソードから火を出していたっけ。


 てっきり、特注って言っていたから、火を出す機能がロングソードにあるのだと思ってた。


 バロンに何か変なスイッチが入ったみたいだ。


 何時もの落ち着き払った姿は何処に行ったのか、その姿はまるで、パーサーカーになったかのように見える。



 バロンに守られながら風魔法を放っているのはチモシーだ。


 チモシーはバロンの背後にピタリと付いて、小さな竜巻を発生させて、2体以上の魔物を同時にバロンに近づけさせないようにしている。


 俺の魔法の使い方を見てサポートに徹しているようだ。


 バロンが右に動けば、チモシーは左に動き、仕込み杖と盾を使って魔物を牽制し、逆に動けばそれに合わせて動き、逆の魔物を牽制している。


 以前のチモシーなら、ミリィと一緒に最後方に立ち、魔力を十分に込めた大竜巻で、敵にダメージを与えることしか出来なかったはずだがと思ったが。


 もしかしたら、昨日のアスレチックで何かを掴んだのかもしれない。


 俺の真似をしているだけかもしれないが、少し妬けるくらい良いコンビネーションだと感じた。



 勇者チームの最後方にいながらにして、シュンよりも、ハイペースで魔物を倒しているのはミリィだ。


 背後に回り込もうとしている魔物にトンファーを向けて、自動小銃の様に魔法を乱発している。


 打ち出す光の玉は、ピンポン玉サイズであることから、一発の魔力をかなり抑えている様に見える。


 何時もなら、多少避けられても周囲に飛び散る石礫が当たるように、敵の足元の地面を狙って魔法を放っていたにもかかわらず、かなり早く動き回っているゼブラビル(シマウマ)にも直接身体を狙っているようで、光の玉が地面に当たることはなかった。


 ゼブラビルの身体に当たった光の玉は、石礫になるのだが、それが散弾銃の弾の様に飛び散り、肉を穿(ウガ)ち、(エグ)り、(ツラヌ)き、行動不能に陥らせている。


 元々持っていた杖は、魔法を放つことは無く、身体を安定させるためだけの、ただの杖と化している


 あっ、ヤバい。前を走っていたゴートビル(ヤギ)を盾にしてシープビル(ヒツジ)が体当たりをしようとしている。


 ミリィも気が付いたようだが、トンファーは逆方向から飛び掛かろうとしているゼブラビル(シマウマ)に標準を合わせようとしている状態だ。


 どちらを優先させても、このままではどのみち強烈な一撃を受けてしまう。


 そう思ったのも束の間、ミリィは杖を地面に突き出し腕力だけで棒高跳びの様に空中に舞い上がり、杖を支点に身体を上下反転した。


 直後、ミリィがさっきまで立っていた場所をゼブラビルとシープビルが通過しようとしていたのだが、宙に浮き逆さまになった状態で、魔法を2連発した。


 これには、俺も茫然(ボウゼン)としてしまった。ミリィは法衣を着ている僧侶で、回復役で、でも土魔法が使えるから、後方で魔力を込めて、質量魔法の石礫を飛ばす戦闘スタイルじゃなかったっけ。


 それがいったいどうして、元の世界でも、映画やドラマでワイヤーアクションでしか出来ないようなことを、平然とやっているのだろうか。


 その後、俺が茫然自失している間に、この動物型の魔物の集団のリーダーっぽい、他の奴等より三回り程でかいジェラフビル(キリン)の首をシュンが切り落としたところで、戦いが終わった。


 首を切り落とされて地面に横たわったジェラフビルの口から、紫色をした舌がだらしなく出ていた。


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