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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
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29.麒麟の魔王戦 前夜

「な、魔王が近くに居るだって! こんな所でのんびり雑談なんかしてる場合じゃないじゃないか」


「ぬう、それがしも初耳だぞ。筋肉も聞いていないと言ってる」


 こんな所で悪かったなと思いつつ、突然騒ぎ出した二人にむけて「アレの名前を大声で叫ぶぞ」と言ったら直ぐに落ち着いた。


 ミリィの拳骨は、魔王より恐いのかと、効果に驚きつつ。

「ミリィやチモシーには、教えてあるんじゃが」と前置きして、昨夜、森の管理者から聞いたと半分誤魔化しながら説明した。


「じゃあ、ジンさんの帰りが遅かったのは、偵察に行っていたからなんだ」


「ぬう、水くさいぞ。それがしに一声掛ければ、魔王の直近まで行けたぞ」


「俺だったら、そのまま倒してやったぜ」


 二人とも自信があるようだが、ミリィの放った矢で、既に俺達の存在がバレてるんだから、魔王は警戒しているに違いない。そんな近くまで行けるとしたら、それは罠だ。気が付いた時には魔物に包囲されてるに違いない。


 アリスが、麒麟の魔王のことを狡猾だと評するくらいなんだから、これくらいは普通にしてくるだろう。


 ここは、森の管理者が言うには安全地帯だから、こんな所でもいきなり襲撃されることは無いからミリィを少しでも休ませておけ、だから戦いは明日だと、少し嫌味を混ぜて言っておいた。




 二人が落ち着いたところで話題を変えて、俺は戦闘に参加しないから気にしてなかったのだが、数十どころか数百は居る魔物と、どうやって草原で戦うのか聞いたところ。


「げっ、マジ?」


「ぬう、ぅぅう」


 ノープランだった。


 前回の魔王戦では、魔物の集団と言っても十数規模を散発に相手していただけで、最後に魔王が隠れていた砦跡に潜入して倒したと言う。


 俺は頭を抱えたくなったが、それを抑えて。今までも多数を相手したことがあるのだから、どうしてたんだと聞いたのだが。


「敵が多いときは、ミリィの石礫で牽制してた」


「ぬう、敵が怯んだところで、それがしが道を切り開き」


「俺がその道をたどって、リーダーっぽい強そうな奴を倒してた」


 魔物も天物も上下関係があるので、狩りの時は小グループで行動するのだが、基本は自由気質だ。好きな時に戦い、食って、そして寝る。嫌々指示を受けているので、リーダーが殺られると、これ幸いとばかり散り散りに逃げていくらしい。


 そう言うことなら確かに、魔物のリーダーを一機に倒せるなら、範囲攻撃はそれほど必要ではなかった筈だ。


 でも、そのリーダーが魔王で、数百もの魔物を引き連れている現状では。


「いくら俺達に魔王を倒せる力があると言っても、数百の魔物を相手するのは無茶だ。アフロディーテ女王国軍に魔物の相手をしてもらおうぜ」


「ぬう、致し方あるまい」


 バロンも同意見のようだ。


 考えるな感じろのシュンが、正論を言ってる。勇者と言えども、やっぱり引き際は心得ているようで安心していたのだが。


「よし、それじゃあ。ミリィが目覚めたら、真っ直ぐ魔王目指して突っ込むぞ。被害を抑えたいから、気持ち的には魔物を殲滅したいんだが、数が数だし倒しきれる訳がない。逃げた魔物はアフロディーテ女王国軍に任せるぞ」


 え? なんですと!


「ぬう、明日の戦いに筋肉がうち震えておるぞ」


 考えるな感じろの稲妻の勇者シュンは健在だった。そう言えば、魔物の数を知って無理とは言わずに無茶と言っていた。


 だからといって、ノープランなら止めなきゃいけないと思い。


「ち、ちと待……」


「おう、安心しな。あとは俺達に任せてくれれば良いぜ。やっぱり俺の直感が当たったぜ。ジンさんが疲れて、ここで休憩を取ることになった時は、正直なんで俺の邪魔するんだと思っていたけど。おかげで魔王と入れ違いにならずに、しかも万全な体調で挑めるぜ。だからジンさんは安全地帯のここで待っててくればいい」


「ぬう、筋肉が奮えてるぞ。今夜は眠れないかもしれんが、減り張りは大事ゆえ、明日のためにも休むぞ」


「……った」


「おし! 俺も休むぜ! 朝食は軽くで良いから宜しく。ジンさんも帰り道で疲れないように早く休みな。おやすみ」


「ぬう、シュンの言う通りだ。偵察でジン殿も疲れているだろう。ゆっくり休んでくだされ。では、おやすみ」


 二人はそう言い残すと、止める言葉も聞かずに、部屋に戻っていってしまった。


 リビングで独り取り残された俺は、明日の朝、どうやって魔王戦を止めるか頭を悩ませるしかなかった。







 いつの間にか眠っていたようだ、気が付くとリビングの机が目の前にあった。


 結局、俺がどんな警告したところで、シュンを止められそうに無いことは、何度も並列思考でシミュレーションしてわかった。


 なので、勇者チームの唯一の頭脳であるミリィに止めてもらうしかないと考え、朝食の準備をすることにした。


「おはよう」


「おう」


「おはよう」


「ぬう」


「おはよう」


「おはようございます」


「おはよう」


「ん……おはよう」


 出来れば1分でも早くミリィが起きてきてくれれば、止めて欲しいと伝えられたのに、まるでタイミングを合わせていたかのように、皆が一斉に部屋から出てきてリビングの椅子に座った。


 こうなると、ワンピースに所属していない、ただのハウスキーパーの俺は、意見を言える立場では無いので、配膳に動き回るしかない。


 なので、食べながら今日の行動を説明するシュンに待ったを掛けることは出来なかった。


 でも勇者チームの頭脳、最後の良心であるミリィなら、こんな無謀な戦いに赴くなんて持ってのほか、きっと止めてくれる。そう思ってた。



「状況は厳しそうだけど、それでもシュンが行けると思っているのなら、きっと大丈夫ね」


 ミリィのそんな一言に、全俺は涙した。



 いや、まだだ、まだ終わってない。頼むぜチモシー。君に決めた。三人を止められるのは君だけだ。



「ん?……キミイヤ……罠……困難……強い絆……団結力……大丈夫」



 俺のアスレチックで、罠にも負けずに、力を合わせて困難をクリアしたから、強い絆と、何者にも崩すことの出来ない団結力を身に付けたとでも言いたいのか。


 戦いに向かう気満々の4人を止める(スベ)は、俺には残されていなかった。


 こうなってしまえば、ネガティブな発言は慎み、気持ちよく送り出すしかない。


 でも大人の俺は、それでも一つ確認しなければなるまい。


 先頭準備をしているミリィに、アスレチッククリアの賞品を渡しながら


「体調が悪いところは無いか」と聞くと。


「ジン様ありがとうございます。でも、賞品ってこれでしたっけ。なんかもっと気持ち良い物だった気がするのですが……うーん、気のせいかな。そうそう。体調ですわね。さっきシュンにも聞かれたのですが、まったく問題ないどころか、今までに感じたことが無いくらい絶好調ですわ。今の私なら、シュンに拳骨を2回落とせそうな気がします……あれ、なんでシュンを殴りたくなっているんだろ」


 どうやらミリィは、夕飯後の記憶があやふやらしい。ミスリルの弓と矢のことを、どうやって誤魔化そうかと思っていたので、更にアリスには感謝せざるを得ないが、このまま借りを作り続けてしまうのは良くない気がする。


 何かのタイミングで、返済しなければなるまい。俺はそう心に誓った。


 因みに、ミリィに渡した賞品はトンファーである。


 殴る、突く、払う三拍子そろった[┬]形の拳法家御用達の武器だったりする。


 この世界の魔法は光の玉を打ち出して、当たった場所から魔法が発動する。


 魔法は、手のひらでも、指先でも、足先でも、どこからでも打ち出すことが出来る。なのに、ミリィやチモシーが杖を持っているのは、杖自身が周囲の魔力を取り込み増幅してくれるからだ。


 書物によると、杖有りと無しでは1.25倍違うと書かれていた。正確には杖が無い時は4発しか放てなかったのに、杖が有ると5発放てるようになったと言う記録だったけど。


 魔法使いにとって、たとえ1発でも多く放てるのは、生存確率を高めることが出来るので、重要な事なのである。


 杖を持つと、もう一つ恩恵があるのだが、それは。


 正確な射撃がしやすくなると言うことだ。


 光の玉は真っ直ぐにしか飛ばないので、動く標的には中々当てることが出来ない。なので標的の足元の地面を狙って放つのが基本だ。標的が動くことを前提に放つので、多少狙いが甘くても問題は無いのだが。それでも精密射撃が必要になる時がある。


 そんな時に長い杖があると、それだけ狙いがつけやすい。元の世界で言えばライフルだ。


 この世界の魔法使いは、狙撃能力も高くないといけないのである。


 そこで、俺特製のトンファーだ。杖に使われている木を加工して、そして魔力を通しやすい(自称)ミスリルでコーティングしたので、普通の杖では有り得ないほどの強度を持っているので、いざとなればいくらでも殴れる。

 そして[┬]形になっているので、ただの棒の形である杖より、よっぽど早く狙いがつけられる筈だ。


 杖がライフルだとしたら、トンファーはロングバレルの拳銃だ、是非とも使いこなして貰いたいものだ。


 とは言え、出立の時間まで残りわずかだ。トンファーだとも言わず、あれこれ説明はしないで、予備の杖として紹介し最低限必要なことを伝えることにした。


 他の3人にも伝えてあるが意識して魔力を通すと、バロンがフルパワーで折りにいっても折れないほど丈夫だから、鈍器にも盾にもなると。


 本来は逆だが、杖と同じ材質を埋め込んであるから、杖代わりに使えると。


「簡単に狙いも付けられるし、至近に寄られた時に、盾にも殴ることも出来るのね。これはこれで気持ち良さそうだわ。ジン様、ありがたく頂戴致します」


 一先ずミリィに気に入ってもらえたから一安心していると。


「準備出来たならいくぜ」


 シュンから出立の声が掛かった。


 見送りに出た俺は。


 「旨い飯を準備しとくから、早く帰ってくるんじゃよ」


 と、伝えるしかない。


「おう、豪勢にたのむぜ」


「ぬう、肉を所望するぞ」


「ハンバーグでしたっけ。あると嬉しいな」


「ん……サラダ」



「承知したのじゃ。たっぷり用意しておくからの」


「よし、行くぜ」


 シュンの掛け声に4人は、まるで風のように駆け出していった。


 俺は4人と一緒に戦うことが出来ない。


 今出来ない事は後でやろう。今は今出来ることに集中しよう。


 俺は豪勢なご飯を作るために、石小屋の扉を開けた。


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