28.シュンとミリィとアレな話
アリスには、石小屋に帰れと言われていたが、ほんとに良いのだろうか。
俺はスズメさん達からの情報で、この草原が下草の生い茂る緑の草原だったと知っている。
でも今は見るも無惨な状態だ。矢が通り過ぎたであろう道筋には深い亀裂が刻まれ、亀裂の左右は半径100mの範囲で土がひっくり返っている。
いくら暗視スキルがあっても、この亀裂が何処まで続いているのかわからない。
スズメさん達に先攻偵察して貰えばわかると思うが、ここより先は魔物の動きを制御しているであろう魔王が、何かしらの影響を与えている地なので下手なことはしたくない。
なんせ、アリスが言うには、麒麟は狡猾な奴らしい。偵察に出した子スズメから逆探知を受け、俺達の存在や居場所がバレたら大事だ。
俺達の一番のアドバンテージは奇襲をかけることが出来ると言うことなのだから。
でも今更か。
これだけ地面に甚大なダメージを与えられるような者が、近くに居ることはバレてるだろう。
好戦的な魔王なら、歓び勇んで亀裂に沿って進軍してくるだろうし。
そうでなくとも、偵察を送ってから逃げるか、進むか、待ち受けるかするだろう。
どのみち、俺一人ではどうしようもないし、念の為に落とし穴でも作ったら、アリスの言う通り、石小屋に帰るしかないか。
森と草原の境界線は、はっきりしているので、森側の外側に沿って落とし穴を造りながら、原因となったミスリルの弓矢のことを考えることにした。
いくら何でもこの威力はあり得ないだろ。
いくら(自称)ミスリルと言う魔力が通しやすい謎物質だと言っても、普通に弓を造っただけだ。魔法を付与した訳ではない。
同じく矢にしても、どちらかと言えば、矢速が落ちる方向に形状を弄っただけで、何もおかしな事はしていない。
百歩譲ってミリィのバカ力で引いたからと言っても音速はあり得ないだろ。
それに、たとえ初速が音速を突破していたとしても、矢自身に推進力がないのだから、空気抵抗により減速していくものだ。なので、この破壊力はソニックブームでは無さそうだ。そうなると、魔法が関わっているのか。
矢を放ったのが、チモシーなら、風魔法でカマイタチでも飛ばせば、この破壊もわからないものではないが、ミリィは石礫を飛ばす土魔法しか使えない。
王都にいる間、魔法書を読んでいたが、レベルが上がっても、石礫のサイズが大きくなるか数が増えるだけだったはずだ。もしかして土魔法には他に何かあるのか?
駄目だ情報が足りない。
でも結論は出ている、この弓と矢は、封印するしかない。
こんな戦術どころか戦略級兵器の存在がバレれば、相手が無差別に攻めてくる魔王相手ならまだしも。
いずれは、人同士の戦争に使われるだけだ。
その結果、ミリィがどうなってしまうかは、考えなくてもわかる。
ミリィの将来の為にも、賞品は別の物にしよう。
落とし穴造りも終わり、帰りがてら賞品を造り、石小屋に戻ってきたのだが。
アスレチックは、爆弾で破壊されたかのような有り様になっていた。
アリスとの約束で、どのみち平地にすることになっていたのだから、どんなに壊しても問題なかったのだが、なんともやるせない気分になった。
これからは、似たようなことになっても自分自身の手で片付けよう。
俺は、ため息を吐きながら、石細工術を使い。アスレチックを平地に戻してから石小屋の扉を開いた。
「ただいま」
「お、おう、おかえり。遅かったな、何してたんだ」
「おかえり。ぬう、ジン殿。様子がおかしいぞ。如何した」
シュンとバロンは、リビングで俺の帰りを待っていてくれてたようだ。
その事にまず、感謝の言葉を返しながら、自分の造ったアスレチックを平地に戻したから、ちょっと疲れただけと答えておいてから。
ミリィとチモシーは、もう寝たのかと聞くと。
チモシーは普通に寝ているが、ミリィは大変だったと言っていた。
シュンとバロンは来雷剣と手甲で、アスレチックを粗方破壊し終わったころ、棒立ちになっているミリィを見つけた。
シュンは、ミリィに声を掛けたが反応が無く。
「アレ良い。アレ欲しい。アレは私の物。アレ良い。アレ欲しい……」と繰り返していたそうだ。
同じことを繰り返しているなんて異常だ。明らかにおかしい。
おかしくなっているミリィにアレってなんだと聞けば。
「黒くて、太くて、長くて、反り返っていて、それに、黒くて、細くて、長くて、先が太くて、ぴゅっと飛んで、頭が真っ白になって、何も考えられなくなって、気持ち良い物」って返ってきたそうだ。シュンの奴、よくこんな長いセリフを覚えているな。
その後「アレ良い。アレ欲しい。アレは私の物……」の繰り返しに戻ってしまい。
取り合えず、痛みを与えて正気を取り戻させようと、平手打ちしたら。
「あいう」と言いながらシュンに抱きつき、気を失ったそうだ。
ミリィに抱きつかれたシュンは、そのままミリィを石小屋のミリィの部屋に運び寝かせに行き。
バロンはシュンが付いているからミリィは大丈夫だと考え、泥だらけになった身体を洗いに風呂に入っていたそうだ。
シュンの話から、ミリィがミスリルの弓矢のせいで、大変なことになっていると感じた俺は、続きをうながしたのだが。
シュンは俯いたまま続きを語ろうとはしない。
俺は、ミリィがそんな状態になってしまった原因を知っている。間違いなくミスリルの弓矢だ。
なので「ミリィはどうなったのじゃ」のかと、しつこく続きを聞いたのだが。
それでも、何も語ろうとしないシュンに疑問を感じた。
そう言えば、アリスがミリィにも罰を与えたと言っていたことを思い出し、その罰の影響がシュンにも及んでいるのではないのかと推測してしまった。
俺がミスリルの弓矢なんて造ったせいで、ミリィどころかシュンにまで迷惑を掛けてしまったのかと、本気でシュンの事も心配になって。
「シュン、いったいどうしたんじゃ。ミリィと何かあったんか」と聞いたら、シュンが動揺したように、あからさまに身体を動かした。
わかりやすい反応に俺は責任を感じたが、何があったのかわからなければ謝罪にしろケアにしろ対応が出来ない。
俺はつい「どうしたのじゃ。らしくないぞ。ほんとにどうしたのじゃ」と聞きまくってしまった。
するとなぜか警察に取り調べにあって、とうとう観念したかのように、シュンは俯いたまま話し始めた。
「魔が差したんです」
いつもと違う口調で語り出したので、驚いていると。
「始め俺はミリィをベッドに寝かしたら、すぐに部屋から出るつもりだったんです」
あれ? この出だしは、俺が想像していたのと違うような……この出だしって……まさかシュンの奴。
「だから、ベッドに下ろして離れようとしたのにミリィの奴、俺のことを放してくれなくて」
おい、本当か。本当にミリィとヤッちまったんか。だったらシュンが言わないでいるのも納得だ。
「しかも俺の耳元で『アレ良い。アレ欲しい。シュン……お願い』って囁んだ」
ミリィも大胆発言だな……って、シュンごめん。俺がしつこく聞いたから、そんな恥ずかしい話をしなければいけなくなったんだよな。でも初めて話って興味あるよな。止めさせたいけど聞いてみたいし。
「俺は勘違いしやすい。勘違いでよく、ミリィに殴られるんだ。だから、アレって何だと聞いたら」
やっぱり、ミリィによく殴られているんだ。でも、それで勘違いが事前に解決出来れば、ミリィも楽になるし……なるほど、シュンは昔からミリィの尻に敷かれてるんだな。
「わかっていたけど、やっぱり『黒くて、太くて、長くて、反り返っていて、先が太くて……』って言うから、それってアレだろ。俺にはアレしか思い付かなくて、でも駄目だと思いつつも、乞われるままに手にとって見せたんだ」
シュンはミリィのこと好きだもんな。そんなミリィにお願いされたら……しかたないよな。
「でも、俺が見せたアレを見てミリィが『これじゃない。私が欲しいのは。もっと長くて、大きいの。だから違う、こんなの欲しくない』って聞いた時に俺は、どうかしてしまったんだ」
そりゃあ。ミリィが欲しがっていたのは、ミスリルの弓と矢なんだから、その反応は当然だよな。
「俺の持つアレが小さい訳がない。ミリィが嫌いだと知っているにもはにだと言うのに、俺は嫌がるミリィの口に無理矢理アレを突っ込んじまった」
うは。いくら若さ故の行動だとしても、いきなりそれは駄目だろ。童貞の俺でもわかるぞ。そこは優しくリードしてあげなきゃ。
「そしたら、ミリィの口には俺のアレは太過ぎて、口に入れた瞬間噛まれて爆発しちまったんだ。おかげで俺もミリィも中身の白い奴で、ベタベタになっちまった」
おい。突っ込んだ瞬間終了か。いくら溜まっていたからと言って早すぎだろ。しかも、デカイのかオイ。
「俺はアレが爆発してようやく冷静になれたんだ」
あぁ。賢者モードになったんか。そこから暴走しないなんて、ほんと勇者だ。じゃあ、最後までシてないんだ。
「ミリィは白い奴の味や臭いが大嫌いだから、俺はミリィにタオルを渡して、飛び散った破片を集めていたんだ。粗方集めてからミリィを見たら。信じられないことに、ミリィが白い奴を食べていたんだ。しかも俺の集めた破片まで美味しそうに食べたんだ」
あれ? 味や臭いが嫌いってなんで知ってるんだ。もしかして初めてじゃないのか。だとしたら午前中、ミリィがあんなにパニックになる訳がないよな。
「あり得ない出来事が起こると何も考えられなくなるんだな。俺は白い奴を食べるミリィを見ていることしか出来なかった。最後に、指に付いていた白い奴を舐めとった瞬間、満足そうな笑みを浮かべ、それから操り人形の糸が切れたみたいに、急にベッドに倒れてミリィが寝息をたて始めたんだ」
白い奴を食べるって……この世界では飲むんじゃなくて食べるって表現するんだ。
「いきなり眠ったから心配で、暫く様子を見ていたけど、楽しそうな夢を観ている様だったから、大丈夫かと思って、ミリィの部屋から出て、風呂に入ってさっき出てきたところだ」
さっきの話では、シュンもベタベタになっていたみたいだし、普通に風呂に入るよな。
「でも、なんでアレがあそこにあったのか、わからない。アレがそこに無ければ、こんな事にはならなかったのに」
何を惚けていやがる。男にはアレがそこにあるのは当然だろ。
「ぬう、それがしもおかしいと思うぞ」
「だよな。ミリィはアレが大嫌いなのに、部屋にあるなんておかしいよな」
あれ? バロンも、アレがそこにあるのはおかしい派なのか……ちょっと待て。まさかこの世界の人族は、アレがそこにないのか。じゃあ、どうやってするんだ。
「それに、俺がいくらイタズラが好きと言っても、ミリィに嫌われるイタズラなんてしない。せいぜい困らせるまでだ。生のアレを口に突っ込むなんて、絶対に嫌われるような事をなんで俺はしたんだろ……待てよ、あの時俺は……」
アレすることがイタズラ扱いだと? なんか話がおかしな気がする。もしかして俺が何か勘違いしてるのか。
「……そうだ、おかしなことを口走るミリィを治すには、何故かベッドの縁に立て掛けてあったミリィの大嫌いなアレを食べさせなければいけないと直感が働いたんだ」
アレが立て掛けてあるってどう言うことだ。
「ぬう、魔法茄子がミリィ殿の部屋にある訳がなかろうぞ」
「バロン、いくらミリィが寝てるからって、禁句を言ったら駄目じゃないか。ミリィの耳に入ったら拳骨を貰うのは俺だぞ」
「ぬう、すまぬ。信じられぬ話を聞いて油断した」
「ほんと頼むぜ。壁に耳あり、禁句にミリィありだぜ」
嫌がるミリィの口に、無理矢理突っ込んで、白い奴を巻き散らかした物の正体はナス……だと。
思い返せば、黒くて、太くて、長くて、反り返っていて、先が太くて、中身は白色だ……確かに、ナスの特長と一致する。
そうかミリィはナスが嫌いだったんだ。そう言えば、俺の能力ではナスは出せないし。ナス料理なんて麻婆ナスくらいしかまともに作れないし。
市場で見掛けたナスは、異様に長くて大きくてしかも高かったから買わなかったんだよな。
まともに料理出来ないのに買ったら食材に申し訳ないしね。
それにシュンにも、勝手にアレな妄想をしてしまい申し訳ないと、心の中だけで謝罪してから何食わぬ顔を心掛けて。
「ミリィがアレのことを嫌いとは知らんかったわい。でもそんなアレが何故ミリィの部屋にあったんじゃろな」
そう口では言っているが、アリスの罰であることは予想がついている。
境界線での別れ際に『食わず嫌いは良くないぞえ』ってアリスが言っていたからだ。
そうなると、シュンが無理矢理ミリィの口に突っ込んだのも、アリスがそうさせたのか。
だとすると、ますます
申し訳なくなるのだが。
「ぬう、アレがミリィ殿の部屋にあるのは、確かに不思議だがイタズラはよくしてたではないか」
「よくって、2年くれえ前の話じゃないか。それからは滅多にやらねぇぞ。それだって直感が働いた時だけだ」
滅多にって事は、今でもイタズラはしてるんだ。なら、それほど気にやむ必要はないか。
原因について悩んでいるシュンとバロンには悪いが、俺は状況を把握したので話を変えることにした。
「ところで、魔法茄子とはなんじゃ。普通のナスとは違うんか」
「ジンさんはアレのことを知らねぇんだ。でも、マジでお願いだからアレの名前を口に出さないでくれ」
少し元気な口調になったと思ったら、急に情けない口調に戻ってしまった。ただ嫌いなだけでそこまで、怯えるような物なのか。
「魔法茄子は子供の天敵なんだ」
子供の天敵って、何のことだろうと考えていたが、まったくわからない。それが顔に出ていたのだろう。
「ぬう、シュンよ、それではわからぬぞ。それがしが説明しよう」
バロンの説明は、言い回しがあれだったが、とてもわかりやすかった。
簡単に言えば、普通にナスはあって、魔法茄子に似ているが、大きくて長い大王ナスと言うのもある。これらは食材として市場でも売られている。
魔法茄子は、見た目は大王ナスなのだが、食材ではなく薬だと言う。
効用は、解熱、鎮痛、鎮静と、子育てには欠かせない要素がふんだんにある。
ミリィが幼いころは、病弱ですぐ熱を出していた。その度に少量ずつだが魔法茄子を食べさせられたらしい。
成長するにしたがい、病気とは無縁になったが、今度は元気になりすぎて夜中でも騒ぐやんちゃになった。
そしてここでも鎮静、鎮痛効果のある魔法茄子の登場だ。夜騒げば、魔法茄子。転んで怪我して痛みに泣けば、魔法茄子。
黒い、臭い、不味いと3拍子そろった魔法茄子に対して、子供心にトラウマを植え付けるには十分な環境だ。
大人の味覚になれば、そこまで不味い物ではないと言うことだが、まるで罰のように食べさせられていたミリィが、大嫌いになるのも頷ける。
だとするとアリスが課した罰は、トラウマを刺激するキツい罰のように思えるが、ミスリルの弓と矢でおかしな状態になっているミリィに、鎮静効果のある薬を食べさせるなんて、とても優しい罰でもある。
その事に納得したので、アリスに感謝しつつ次の話題をふることにした。




