24.青い春と書いて青春だよな
「この人です!この人が私の妹を暴行した犯人です!」
高校の制服であるセーラー服を着たミリィが、片手を腰に置いて、ドヤ顔で俺を指差す。
「たまたま俺が、ミリィの家に昼飯を食べに来てたから捕まえることが出来たんだぜ。じゃなきゃ逃げられていたかもしんねぇぜ」
これまた高校の制服である黒の学ランを、第2ボタンまで外したシュンが、両腕を組み、俺を冷たい視線で見下ろしている。
「やっぱりシュンは頼りになるわ。さすが私の彼氏ね」
二人から、まるで汚いものを見るかの様に注がれている視線に耐えるしかない。
なんせ俺は、パステルカラーに包まれた子供部屋の真ん中で、スーツを着たまま、粘着テープでぐるぐる巻きにされて転がされているからだ。
そして学習机の椅子に座って足をブラブラさせているのは、身長が175センチもあるのに、黄色い帽子をかぶって、ピンクのフリフリのワンピースを着ているチモシーだ。
そうだよな。まだ8歳なんだよな。だとすれば、チモシーは小学2年生なんだよな。
いくら身体は大人っぽいと言っても小学2年生と言えば、誰が聞いたところで、間違いなく子供だ。そんな子供に手を出してしまったのなら。
そう、行きつく先は決まっている。
「ぬう、この男か。13時15分、現行犯で逮捕する」
バロンが警察の格好をして、俺の腕に手錠をかけようとする。
こうなることは、わかっていたが、俺は手錠を見て叫んでしまった。
「俺は何もしてない!さわってもいない!だから無実だ!ただチモシーが遊んでと飛びついてきただけだ!」
「ぬう、だとしてもだ。40歳の親戚でもない他人の男が、小学2年生の子供部屋で二人きりで遊ぶなんて異常な光景だぞ。更に家人から通報を受けているのだから。それだけでも十分に逮捕要因となるぞ」
確かにそうだ。冤罪だと主張したところで、俺の状況は変わるまい。いくら知り合いのオッサンとは言え、オッサンの腰の上に小学2年生の子供が乗っていたのだ。破廉恥な行為には違いない。
今後、釈放されたとしても、俺はロリコンの変態として、うしろ指を指されながら生きていくしかない。
今の勤め先である会社からは首になるに違いないし、犯罪歴のある40歳のオッサンが再就職なんて望める訳がない。
俺の未来は完全に閉ざされた。そして項垂れる俺の腕に手錠が掛かった。
そこまで幻視したところで、(世間的に)俺を絶体絶命のピンチに陥れたのはチモシーだが、救ったのもまたチモシーだった。
「ん?……ミリィ?……ミリィも一緒にお願い」
チモシーが、部屋から出ていこうとしたミリィを呼び止めたのだ。
「ふへ? い、一緒にって」
とんでもないセリフで声を掛けられたミリィは、思わずと言う感じで振り返る。
「ミリィ……お願い……一緒に……お願い」
「いやいやいや。わ、私も一緒にって、そ、そんなこと無理無理無理」
「一緒……お願い……ミリィ……お願い」
「い、いくらお願いって言われても、わ、私、したことないから、む、無理だし、まだ早い。そ、そう、私にはまだ早いから」
「ミリィ……知りたがってた……だから……一緒に……お願い」
ミリィも天魔神族のことを、調べてるんだ。
「あ、あはは……た、確かに興味はあるけど。だからと言って、いきなりそんなこと出来ないよぉ」
へぇ、興味はあるんだ。ミリィもお年頃なんだね……なんて乙女トークを聞いている場合ではなかった。
ミリィと話しているおかげで、チモシーが俺を揺する力が弱まっている。そう今が千載一遇のチャンスだ。
「ミリィ! よく見ろ」
そう言いながら、俺はチモシーが俺を揺らすタイミングに合わせて、チモシーの両ワキの下に手を掛ける事に成功した。そして、そのまま上半身を起こしながら持ち上げた。
持ち上げたことにより、俺のアレが見えてしまうことを想像したのだろう。ミリィは両手で自分の目をふさいだ。
「きゃー、ジンも私とシたいってこと!? いくら求められても、そんなのぜったい駄目。私の初めてはシュンに……って、あれ?」
やっぱり指の隙間から見ていたようだ。なので。
「安心しな。ズボンは、はいているぞ」と続けて言っておいた。
その後、ミリィの自爆発言に関してひと悶着あったり、ミリィのシュンへの思いを口止めされたりとあったが、おかげでミリィの勘違いを正すことが出来たし、更にチモシーの追求を逸らす事が出来た。
「アスレチックだっけ?アレ良いぜ。特に飛んでくる泥玉を避ける所なんて、最高に面白いぜ。次は何があるんだ」
「ぬう、それがしにはアレは避けられん。おかげで泥だらけになったぞ」
今は、あれから直ぐに昼御飯の準備をして、食べながらアスレチックの感想を聞いているところだ。
シュンとバロンの話から推測すると、シュンは一人で先に進まずにバロンがクリアするのを待ちながら少しずつ進めているみたいだ。
さすが勇者チーム、ワンピースのリーダー。仲間のことを心配し自己優先しないだなんて、なんてそつがない。ミリィとは幼馴染みの腐れ縁とは聞いているが、こんな良い男なんだから、ミリィが好きになっていて当然だ。
そんなことは、二人の距離も近いし初めからわかっていたことだ、あんな自爆発言を聞いても「やっぱりね」としか思えなかったくらいだし。
まぁ、それはさておき。
「もう、そんなところまで来ているんじゃな。難しくしたつもりじゃったが、甘かったようじゃな」
「いやいや、そんなことはないぜ。俺には丁度いいが、魔法やスキルを禁止しているから、バロンにはキツすぎるぜ。その分、全体的な基礎身体能力を上げるには最高だぜ。ミリィもチモシーも参加した方がいいぜ」
「ぬう、それがしも、知らなかった筋肉を使っていることを感じたぞ。ジン殿、感謝する」
「そ、そうね。私も参加するわ。なんか汗をかきたい気分だから。チモシーも一緒に汗をかきましょうね。そしたらスッキリするから」
「ん……スッキリ……わからない……」
「んー。こう。なんか胸の底にあるモヤモヤを吹き飛ばすって感じ。だから、ね。お願い付き合って」
「モヤモヤ……スッキリ……わからない……でも……行く」
「イクって、女の子がそんなこと……いやいや。うん。そう。チモシー一緒に頑張ろうね」
なんか、ミリィが自爆発言してるけど、まぁしかたないだろう。少なくとも2回は、アレのことを妄想しているんだから。でも良かったな、シュンやバロンは気が付いていないようだぞ。
「よし!俺に任せておけ。始めてのミリィ達にはアレは痛いだろうからな。手取り足取り教えてやるから一緒に行くぞ」
「えっ、なに?初めてのアレって、痛いって話しは聞いてたけど。そんなに痛いの?手取り足取りって、そんなぁ。シュンっていつの間に経験してたのよ。一緒にイクって、え?そんなこと出来るの?…………はっ!」
「お、おう? 怪我はしないようにしているみたいだけど。気が付かなければ、あの罠は凶悪だぜ。バロンに付き合って何度も罠に掛かっちまったからな。だから一緒に行くだけなら問題ないぜ……ってミリィ大丈夫か。顔が赤いぞ。体調が良くないのなら、無理するな。休んどけ」
ミリィが盛大に自爆発言したけど、それでもさすがは鈍感勇者シュンだ。ミリィの自爆発言を疑う事なく真面目に返したうえ、体調を気遣うと言う離れわざだ。あれは並大抵な奴に真似出来ないぞ。しかも続きがあるようだ。
そんな離れわざを見せたシュンは唐突に席を立ち上がり、ミリィに近寄って行った。
何かを感じたのか、ミリィも慌てて席から立ち上がり、シュンから距離を取ろうとする。
「体調が良くないのに、急に席を立ったら危ないぞ。立ち眩みでもしたらどうする」
「た、体調は大丈夫だから。ほ、ほんとに大丈夫だから」
「でも、顔が真っ赤だぞ。ミリィが気が付いていないだけかもしれん。確かめさせろ」
「い、いや、大丈夫だから。ほんとに大丈夫だから……あっ」
4人用のダイニングなので、さほど広くは造っていない。シュンから逃げるように後ずさっていたミリィだか直ぐに壁際に追い込まれてしまった。
尚も逃げようとするミリィに対して、シュンは勢い良く近付き、ミリィが左右に逃げられないように、顔を挟んで両腕を突きだした。
いわゆる、壁ドン両手バージョンだ。
ミリィは一瞬驚いて目を大きく見開いたが、シュンの顔は目の前だ、その事を認識して恥ずかしくなったのか、直ぐに俯いてしまう。
シュンは、そんなことお構いなしに顔を近付けて…………おでことおでこをくっ付けた。
「うーん。確かに熱は無さそうだ。でもほんとに大丈夫か?」
何をされたのか理解したであろうミリィは顔をあげたが。顔がひきつっている。
「は、はい、だ、大丈夫、だから」
「ほんとうだな。ほんとうに大丈夫なのか。さっきから、しゃべり方がおかしいぞ」
「え、ええ。だ、大丈夫でちゅ。あう、大丈夫です」
「ミリィがそう言うなら良いが。もし、少しでも不安があるなら、そう言え。今回の魔王討伐は諦めるからな」
「へ、平気だよ。不安なんて何もないよ、だから安心して」
ここまで、ずっと壁ドン状態で話しているから畏れ入る。俺にはぜったい無理な所業だ。
シュンは、納得したのか、壁ドン状態を解除し席に戻ってきて、途中だった昼飯を食べ始めた。
壁ドン状態から解放されたのに、しばらく放心した様に突っ立っていたミリィも、心なし残念そうな表情を浮かべながら席に着き、同じく食べ始めた。
色々やばかったけど、ミリィ良かったな。今は普通だけど、壁ドンを解除して振り返ったシュンの顔も恥ずかしそうだったぞ。
ミリィの思いは、確実に届いているってことだ。
若いっていいな。こんな青いドラマを素で出来るんだからな。
ってことで、これだけは言っておかなければなるまい。
このリア充、爆発しろ!




